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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

論よりコラム

2024-02-15 18:24:42 | 読んだ本
漫画アクション編集部・編 一九八九年 双葉社
これは去年9月の古本まつりで見つけて、手に取ったら即買いを決めたもの、ふつうの古本の値段だったし迷うとこなし。
刊行されてるなんて存在を知らなかったんだけどね、帯をみたら「アクション・ジャーナル」選集だっていうぢゃない、買うしかない。
私が「漫画アクション」を読んでたのは、たしか昭和の終わりから平成の始まりのころで、江口寿史の「爆発ディナーショー」と諸星大二郎の「諸怪志異」が目当てだったんだけど、たしかに「アクション・ジャーナル」ってコラムはあった、あれはおもしろかった、って記憶が瞬時に脳裏かすめたんで、それが本になってたんだと喜んだわけだ。
そしたら、本書は1979年から1989年にかけての「11年間3640本の中から厳選した201本」を収録ってことなんで、すいませんねえ若輩もので、このコラムのことを語る資格はないなあ、という気にはなったが。
なんせ最初のほうの1979年12月13日号のなんかをみると、
>(略)この秋になって大ヒットしそうな新顔がお目見えした。SONYのウォークマンというヘッドホン専用のステレオ・カセットレコーダーがそれだ。これが画期的な新製品であることは確かだ。(p.40)
とかって記事に出くわすんだから、うわー、歴史を感じるなー、という感じ。
ほかにも、たとえば、
>「なあに、この映画? なにがなんだか、ワケがわかんないわぁ」
>「暗~い映画ねぇ、これ……」
>公開直前に渋谷パンテオンでおこなわれた『ブレードランナー』一般試写会会場でのヒトコマであります。
>コレを聞いて、ヤバイと思った。下手をすると不入りでもって、このSF映画史上不朽の名作が2週間ぐらいでロードショー打ち切りになるのではないかという、そんな暗~い予感を抱いてしまった。(p.148)
なんていう1982年8月5日号とか、名作の評価が確立されたはるか後に知った私のようなものには、当時のことを知る貴重な史料という気すらしてくる。
ちなみにこのコラムには何を書いてもよかったらしく、ジャンルは多岐にわたる、巻末の索引での分類によれば、【本】【雑誌】【映画】【芸能・音楽・テレビ・演劇】【車・オートバイ】【生活・風俗・海外・モノ】【警察・自衛隊・皇室】くらいに大きく分けられるけど、まあホントいろいろだ。
ふだんだったら古い知らなかった本とかばかりに興味をもつであろう私なんだが、やっぱ一読したところでは社会風俗というか、自分ぢゃよく憶えちゃいない80年代の世の中こうだったっけみたいなのがおもしろかった。
>(略)80年代東京における象徴的な「いらっしゃいませ」はなんといっても次の3つでありましょう。
>ハイッ。
>その1は、ハンバーガーショップのいらっしゃいませ。
>その2は、24時間ショップ真夜中のいらっしゃいませ。
>その3は、銀行の天下無敵裂ぱくアメアラレ風のいらっしゃいませ。(p.245 1983年)
とか、
>東京・港区のデニーズ南青山店で紅茶を頼んだら、ティーポットと一緒に運ばれてきた茶碗が汚れていた。外側に茶色いしずくのあとがいっぱいこびりついている。(略)
>「それはディッシュウォッシャーのせいです」
>副店長のかめがやさんは自信たっぷりに言ったのであった。
>そ、それはそうでしょうが。
>「ひとつひとつ確認はできませんので」
>うーむ。(略)
>「なにしろディッシュウォッシャーなのでねえ」
>なんと、かめがやさんは、ついに一度も「私どもの不手際で」とか「申しわけありませんでした」とかの、謝罪の言葉を口にしなかったのだ。(p.480-481 1987年)
とか、そういうのがなんともおもしろい。
ほかにも、本題は本の紹介のはずなんだが、
>(略)とにかくムカシは、美術学校へ行こうなんて人間にロクなモンはいないのであった。(略)
>ところが近頃は世の中が良くなったのか悪くなったのか、犯罪者になる覚悟もなく、もちろん死にたくもなく、おまけに五体満足で健康が運動グツをはいてスキップしているような少年少女が、何を勘ちがいしたものか美術学校にドドドッと入ってしまっているのであった。(p.229-230 1983年)
という導入からきてたりして、「世の中が良くなったのか悪くなったのか」ってのがなんともいい、戦後日本の価値観みたいなものが変化する時期にきた感じがする。
あと、当時は私もいまより熱心に観てて好きだった日本プロ野球の話もいくつかあるんだけど、そのなかでも、
>また深夜だ。タイガース、深夜にバース解雇を通知。
>いつもこうだ。こういう話を深夜にしかしない。いつも闇につき動かされないと行動できないのだ。
>闇に紛れて人を消す。仕置人か、おまえらは。(p.516 1988年)
みたいに、ちょっと切り口がちがう書きようがあるのが、当時も今もおもしろいと思ってしまう。
それはそうと、今回読んでみて、また編集者のあとがきで念を押すように確認されて、意外だったのは、無署名のコラムだったってことだ。
なんか、堀井憲一郎さんとか書いてたコラムだよな、とか思い込んでた(実際ライターの一人ではあったんだけど)私なんだけど、それって当コラムぢゃなくて、ページ下の3行コラムの影響大だったのかもしれない、アクションといえばよくホリイ氏が書いていて、みたいな。
本書も、裏表紙に執筆者25名は五十音順で並べられてるけど、本文中に誰が書いたかの記載はない、編集者によると「書き手の名前ではなく、内容を読んで欲しかった」などの理由があるそうで、まあ書き手がそれでいいんなら、いいんぢゃないでしょうか。
執筆者は、編集者あとがきによると、
>一番最初に相談にのっていただいたのは、征木高司さんだった。(略)
>(略)アクション・ジャーナルの気分を色濃く決定したのは征木さんの文章である。(略)
>最初の打ち合わせに来ていただいた方々で今も寄稿していただいているのは、他に、詩人で編集者、クリント・イーストウッドの大好きな稲川方人さん、マッツォーノ、ニフティといえば知る人ぞ知る松尾多一郎さん、そして、「戦後生まれの淀川長治」とひそかに名付けた稻田隆紀さん(略) シチリアに魅せられている浅野恵子さんや、やはりライターで編集者の平原康司さんにもごく初期から寄稿していただいている。
>(略)寄稿家の「友達の輪」は広がり続け、昨年『熱帯の闇市』を上梓されたフリーランス・ライターの篠沢純太さんには、やはりライターの上原秀さんを、そして新著『「族」たちの戦後史』でユニークな角度から私達の精神史を語る馬渕公介さんをご紹介いただいた。(略)また、大胆にして最新な漫画評論で知られる村上知彦さん(略)のおかげで、堺市在住の峯正澄さんと出会うことができた。(略)阿奈井文彦さん、亀和田武さん、呉智英さん、関川夏央さん、山口文憲さんについては、ここで多くを語る必要はあるまい。(略)家村浩明さんにはクルマの運転を教えていただき、和智香さんからは小火器のことを教わった。岩田重敏さんも、ごく初期から寄稿していただいているおひとりである。
>(略)井上二郎さんから「学生の時に読んでいた」と聞かされた時は、少なからぬ感慨を禁じえなかった。(略)
>漫画アクションの3行コラムを長く担当された堀井憲一郎さんは、スキが嵩じて『スキーの便利帖』を小社より上梓された。宮村優子さん、那波かおりさんの原稿は、オジサン編集者の発想の限界をいつも超えている。そして、『ディベート』で有名な加藤秀棋さんや市原千絵さんは、ともに有望な新人である。(p.558-560)
の25名ということになる。

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