丸谷才一 2012年 文春文庫版
最近やっと読んだ丸谷才一の随筆集、やっとっていうのは、いま調べたらこの古本の文庫買い求めたのは2019年10月だったようなので、なにやってんだか。
最近気づいたんだけど、丸谷さんの随筆はおもしろい本の紹介になってる要素が多いからねえ、人生広げる意味ぢゃあ、もっと早くとっくに読んどいたほうがよかった。
単行本は2009年刊行、初出は「オール讀物」2007年から2009年の連載だっていうんで、こないだ読んだ『双六で東海道』の続きかと思ったら、微妙に時期が空いてる、調べたらそのあいだに『月とメロン』が入るのが正解とわかった。
しかしねえ、その2006年から2008年くらいに、私は何をしてたものか、ちょこちょこ本は読んでいたようだけど、どうしてこういうものをリアルタイムで読んでなかったのか、人生の損失だ。
どうでもいいけど、さすがに2007年ともなると、丸谷さんの随筆のなかにも、
>ついでに知識(と言つたつてインターネットの百科事典『ウィキペディア』で得たもの)を披露すれば(略)(p.15)
なんてくだりが出てきたりする、え? 書物を読まないで検索で済ませちゃうことあるの、丸谷さんでも? なんて思ってしまう。
ほかにも、
>(略)といふ答を得るあたり、すばらしいインタヴュアー力(と何でも「力」をつける近頃の流行を利用する)。(p.196)
なんて当節流の言葉づかいを心得てたりする、もっとも丸谷さんは小説は風俗を重視すべしって主義なんで、流行とかには注意を払っているんだろう。
さて、なかみは、このシリーズは一篇ずつの長さに余裕があるせいなのか、あいかわらず「余談」とか「横道」とか言って本題から逸れそうなおもしろいエピソードを入れつつ、多彩なことを語ってくんだが、歴史上の人物・出来事をとりあげることもあるんだけど、どうしたって男と女との話題で盛り上がるパターンが多い気がする。
「『源氏物語』千年紀を祝ふ」と題されてて、どんなに難しい古典文学論がくるかと思いきや、中国の六朝時代と隋朝時代の色道の指南書が日本に伝わり、保存されていたって話が先にある。
平安時代に丹波康頼という漢方医がそれらを抜粋して『医心方』という本を編集した、それを、
>ここから考へると、『医心方』は道長の藏書中にあつた蓋然性がすこぶる高い。(略)
>とすれば紫式部も借りて読んだかもしれない。(略)もしさうだとすれば、光源氏は彼女の脳裡において、中国の色道に通暁した人物として思ひ描かれてゐたのではないか。さういふ設定でなかつたはずはない。このことが今まで言はれなかつたのは『源氏』学者たちの手抜かりであつた。(p.253-254)
と、とんでもない方向に展開する、でも、光源氏が中国伝来の秘伝のマニュアルから何を学んだのか、なんて視点で古典を読むようにしたら、高校生なんかはそれまでより異様に集中して国語の授業を聴くんぢゃないだろうか。
だって、そのあとの、浮舟はどうして薫大将ではなく匂宮を選ぶのかって話題でも、薫が味わわせなかったものを匂宮によって教えられたからだって解説になるんだもん、若い人でもぐっと古典が身近に感じられるに違いない。
「なぜ1001なのか」って章では、『アラビアン・ナイト』はなぜ「千一夜」であって「千夜」ではないのか、ってクイズを出して、ボルヘスの論じてる二説を紹介したりしながら、アメリカの作家ジョン・バースがエッセイで書いたという推理を披露してくれて、シェヘラザードは第一夜に受胎して第一子を第二六七夜に出産し、以降平均期間と間隔を計算して、物語の終わりまでに三人の王子を出産した、なんて日程表の作成の話になってく。
もちろん、そんなことばっかりぢゃなく、本業(?)である文章批評もあって、「わがミシュラン論」で「ミシュラン」の文章をやっつけてるのはおもしろい。
主語や目的語の上に、関係代名詞的接続のような長いものがのっかっているのが多く、わかりにくいうえに、「そのくせ情報それ自体は大したことない」という。
「読んでて厭になる下手な文章」とか、「ゴタゴタしてゐて、面倒くさくなるでせう」とか、「こんな文章では、とても出かける気にならない」とか、けちょんけちょんに言って、それに比べて文藝春秋の『東京いい店うまい店』の文章はうまいと引き合いに出す。
>(略)書いた当人だつて、あまりおもしろいと思はず、ただ紙面を埋めるため文字を連ねてゐるのだらう。これぢや読者が引きこまれるはず、ないぢやありませんか。
>そこへゆくと文春版は、読者に情報を提供しよう、実のあることを伝へようといふ気になつて書いてゐる。それがまともな態度です。(p.132)
と伝える中身があれば書こうという気力があり、伝える内容を持ってないと書く気もないのだと、了見の問題だという、いいねえ。
コンテンツは以下のとおり。
替唄考
娯楽としての戦争
戦国時代の心理学
木久蔵改メ木久扇
与太を飛ばす
わがミシュラン論
スクープ譚
星旗楼綺譚
朝日の「葉」のこと
ヘタウマの元祖
ロンメル戦記
『源氏物語』千年紀を祝ふ
荒木又右衛門
犬と人間
なぜ1001なのか
明治人物論
道鏡の口説き方
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