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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

私家版鳥類図譜

2012-05-07 17:39:13 | 諸星大二郎
諸星大二郎 2003年 講談社
諸星の今世紀に入ってからの作品集だけど、これはイイ。
鳥をテーマにした話を集めたんだけど、それぞれが違う舞台を描いてて、それぞれが諸星らしさ満載だから。
第1羽「鳥を売る人」
空のない街の話。人々は皆、地下の建物というか廃墟のようなものが何層も重なっているアリの巣のような街に住んでいる。パイプとか地下鉄跡のような通路で街と街はつながっている。
その通路を通ってやってきた行商人が、カゴに入れた一羽のトリを持って歩いている。
一応、そのトリは売り物なんだけど、何の役に立つものか誰も知らないので、買い手がいるわけでもない。
地下で暮らす人達は、誰もほんものの空を見たことがないので、鳥とは何か、誰も知らない。
第2羽「鳥探偵スリーパー」
帽子をかぶってコートを着た鳥のキャラの探偵の話。10ページの軽いギャグっぽいもの。
第3羽「鵬の墜落」
著者得意の中国古代神話もの。
北冥(ほくめい)という北の海に鯤(こん)という長さが何千里もある大きな魚がいる。この鯤が時が来ると変じて鳥になる。それが翼を拡げると空いっぱいの雲のような鳥、鵬(ほう)。
その鵬が、海が激しく動く時を見計らって、海上を滑走すること三千里、空高く九万里の高さにまで飛び上がり、南目指して飛び立つという。
ところが、鵬が飛ぶのに失敗して、天にぶつかり、天の北西の角が裂けてしまった。
天地は傾き、嵐はやまず、世界は大混乱。そこで鳥たちは、人面蛇身の女神、女媧(じょか 媧は「女咼」環境依存文字ですいません)様に天の穴をふさいでもらおうと頼みに行く。
女媧様は泥から人間を創る作業の手を休めて、五色の石を練って、天を修復した。
第4羽「塔に飛ぶ鳥」
その世界は塔である。全世界は無数の層に分かれた円筒であり、塔の内部に太陽に似た光球が輝き、人々はその洞窟のような街に住んでいる。
塔の外側には「永遠の螺旋の道」と呼ばれる無限に続く階段があり、上や下にある別の世界に行くことは可能であるが、そんなことをするのは巡礼くらいで、上下の果てを極めた者などいるはずもない。
塔から離れた外は、虚空である。虚空の彼方にべつの無数の塔があるのが見えるが、それは幻とされている。自分たちのいる塔だけが、世界なのだ。
その世界の外、虚空であるはずの空を、鳥たちが飛んでいる。だから鳥は呪われた存在とされている。
そして、その鳥たちは、人が背中に翼を生やした形をしている。
諸星ワールドだなー、これがいちばん好きかも。
第5羽「本牟智和気(ほむちわけ)」
これまた著者得意の古代日本もの。日本書紀や古事記にある、おとなになっても口がきけず、あるとき鳥を見て言葉を発したという皇子の話がベース。
四世紀ころ、大和が出雲へ軍事行動を起こしたとき、大王の名代として遠征したのが本牟智和気の皇子。
人の魂は鳥の形をしていると信じられていて、その鳥を追って伯耆の国に入った大和の男が、鳥を呼ぶことのできる鳴女(なきめ)と出会う。
第6羽「鳥を見た」
少年が主人公のホラーっぽいもの。こういうのも著者は得意。
子どもたちのあいだで、病院の裏の古いビルの屋上に、大きな黒い鳥がいるという噂話が起こるんだけど、なかなか本当には見つからない。
病院にいる少年と知りあうんだが、彼はあそこにいるの化け物鳥であり、そのビルに行ってはいけないと言う。
少年たちは、あそこにいるのは、ハゲタカの爪と人間の女の顔をもつ、ギリシア神話の怪鳥ハルピュイアではないかと疑い、ある日とうとう屋上に確かめに行く。
コメント
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