日本人教師による『英語を英語で教える』

2005-12-06 07:33:07 | Weblog
(注:半年前に書いた作品です。)

皆様のご清栄を、心よりお喜び致します。
(一)試走・実走
さて、正直申し上げまして、私にもまだ良くは分からない面があるのですが、昨年の丸1年を掛けて取り組んだ、職員向け「英会話能力」向上訓練の成果を試す意味で、今春より、小学生全学年・中学1年生・高校1年生の各部門にて、日本人教師による「英語による英語指導(Teaching English Through English =TETE)」の実験に取り組んでいます。
1年ごとに学年を増やし、3年後には、全学年で取り組めるようにと願った「(学習塾業界)日本初の壮大な夢」の端緒についたばかりで、まだまだ未熟の域を出ませんが、日々、職員ともども、能力向上に勤(いそ)しんでいます。
この計画推進は、「子供たちに、実際に使える英語能力を!」という、TETE計画のもつ本来の意味と趣旨に賛同して、率直かつ懸命に、自らの能力向上に取り組んでくれた多数の社員の「たぎる情熱と尊い努力」に支えられて、全体的な社員の顕著な能力向上という結果をもたらした点で、想像以上に大きな成果を挙げてきました。
しかし、その裏側で、TETEそれ自体の是非を巡っての激しい論争や、それなりに厳しいトレーニングやレッスンの内容・日程等に付いてこれずに、(今もなお痛恨の思いを残していますが)やむを得ずにドロップ・アウトしていった職員が、文系正社員の2割近くもありました。
すなわち、1年間のトレーニングの結果としては、大方の中堅・若手社員の顕著な能力向上と、有望な若手正社員の新規獲得といった、望外の大きな副次的効果を伴いましたが、その訓練の過程では、ごく最近に至るまで、「これでもか、これでもか・・・」という程に、多数の職員と私との間に、英語教育のあるべき姿や方法論を巡っての大小の論争が、陰に陽に多発し、それにつれて人間関係の溝も深まり、当塾の歴史全体を振り返ってみても、実に危険で苦しい1年でした。
(二)反対意見
新年度に入り、TETEという新指導法の離陸も終えて2ヶ月を経過した今は、我等が飛行機も、やっと安全航行圏に入りつつあるかとは思いますが、一歩踏み誤っていれば、30余年間続いた塾も、今頃は確実に倒壊していたでしょう。
主な反対論は次の通りでした。
(1)小学生を対象にした早期の英語教育は、子供の国語力習得・定着に悪影響を及ぼし、取り返しがつかなくなる。
(2)日本人教師の下手な発音は、百害あって一利なし。リスニング能力向上などは、テープ・機械・外人などに任せればよい。
(3)日本の学校では、文法主体の読み書き主体の英語教育が、絶対的に主流であって、その傾向はほぼ永遠に変わらない。
  各種の英語力検定試験や大学の入試傾向も、基本的には読み書き能力判定が大半であって、リスニングやスピーキング能力分野などは、ごく部分的でしかないし、多数の受験生の能力を迅速・効率的に判定する方法として、今後も大きな基調変更はないであろう。
(4)教師が英語で語りかけても、生徒の大半はそれを理解できず、学校の定期テストで点が取れず、非難と退塾で塾がつぶれる。
(5)どうやって、英語で語りかければよいのか、その方法もテキストも、まだ開発・準備されていないし、職員の能力向上の為のトレーニングは、そうでなくても多忙な業務に毎日追われている職員に負担が大きく、また年数もかかり、結局、実際には不可能なことである。
(6)職員トレーニングには、十分な手当が施されず、不払いの超過勤務となり易く、労務関係や就業規則上にも、問題点を残す。
(三)危険を背負いながらも、夢を持ってのさまざまな努力
これらの批判の多くが、文科省内において、2003年3月に『実際に使える英語力育成』に向けて、教職員向け研修計画が公表されたた時点で,「小学過程で英語を導入することは、是か非か』の議論と併せて「既に、総論は解決済み。後は実施各論のみ」といわれた争点・論点ばかりでしたので、此処で改めてスペースを割いての論議は省略させて戴きます。
即ち、『反対論』は、その根本において、理論的にも、はたまたヨーロッパやアジアの近隣諸国での英語教育の実験例からも、「当を得ない」ものであることが、既に確認されていました。
しかし、私の側からの見解発表が、がむしゃらな自説固執に終始しないように、➊出切る限りの誠意と努力を持って対応し、併せて、❷長年にわたって公立学校での英語教育のリーダーであり、現・関西大学大学院教授の斉藤栄二先生の直接・間接のご指導をも仰ぎ頂きながら、逐一、丁寧に、辛抱強く説得を試みて参りました。
また、英会話・職員研修には、最初から、不十分ながらも、奨学金を支給し続けるなど、それなりに職員の皆様の努力に、私なりの感謝の気持ちを表してきました。しかし、全体としては、私の説明内容や対応姿勢にも不十分さがあったためでしょうが、容易に妥協点を見出せず、上記の論点ごとに、1~2名の正社員が退職して行ったと言えるかもしれません。
しかし、過去1年間に渡っての、❶2006年度・大学センター入試から、リスニング理解力テストが導入されることに代表される、最近の英語教育における時代潮流の大きな変化を職員に認知してもらうため、上述の斉藤栄二先生や(姫路)獨協大学のストレイン園子先生をはじめとする3人の大学教授や外国人講師に、毎月、交代でご講演に来て戴いたり、それら講師の面前での職員による模擬授業の実演やアドバイスの取得、❷特に、日ごろの能力向上トレーニングの主題として、英会話の基礎である発音力を向上させるため、発音関係の研究家(加藤真奈美先生)や外国人講師を招聘して、少人数グループに分かれての毎週1回90分のレッスンを熱心に受講し続け、➌昨年末に、たまたま大阪で開催された、全国の公立高等学校・中学校の多数の英語科教師による、TETEの公開模擬授業を主題とする年1回の重要な研修会へも、多数の職員がオブザーバー参加し、さらには、➍エドベックの高尾さんが企画・主催された講演会・勉強会で学んだこと(とりわけ、文科省の『使える英語力育成計画』に基づく公立学校・英語科教師の研修推進や、公立高校入試における長文読解や会話文・リスニング理解力重視の最近の際立つ傾向の指摘)などが、当塾の、わが国初の試みであるTETE開始に向けて、それぞれに不可欠の大きな原動力となって役立ってきました。
(四)全く他の誰もがしていないことをする恐怖と勇気
それにしても、何万とあるわが国のどの学習塾もが、希望はしても、実際には未だに挑戦・実施していない、長年の伝統的手法に真っ向から挑戦する新しい試みを、当塾が単独で挑戦することは、そのことが、即「当塾の存否と多数の職員・家族全員の掛け買いのない生活を、一瞬にして無に帰すやも知れない危険極まりない冒険である!」という反対意見が、ついに自分の足元に当たる副社長からさえも大声で叫ばれるに及んで、正直に申し上げて、社長である小生自身も「地動説」発表時のコペルニクスをも思い起こさせるほどの、あるいは、丸で、飢えて群がる狼たちに囲まれた羊一匹か、死の淵を覗くような崖っ淵に立たされたかの様な恐怖心と危機感とに、日夜襲われざるを得ないところにまで追い込まれました。
島国・単一民族であるの日本人の悪しき伝統的習性として、「赤信号、皆で渡れば怖くない。」という付和雷同的姿勢や『他人のものまねはうまいが、創造的能力には欠ける。』などの批判を聞く機会も多いのですが、実際、大勢の他の人がやっていることなら、理由も深く考えず、時には正義にも反して付和雷同的に追従するが、自分一人なら、例え理由のある正しいことでも、尻込みして避け勝ちであるという国民性があります。私も、流石に、勇気をもって決断し、この悪しき習性を打ち破り・乗り越えるのに、その後、多少の日数を要さざるを得ませんでした。

(五)不安の解消と夢の実現に向けて、全力疾走
ところが、そんな心の中での苦しみ・葛藤も、また、指導法としてのTETEに対する数々・大小の疑問や恐れ、根本的な不安すらも、TETE推進を、そのまま継続するのかどうかのぎりぎりの決定期限であった昨年12月になって、獨協大学の教授・ストレイン園子先生のご紹介によって、遂に「斉藤栄二先生」に邂逅し、TETE開始のための(数々の極めて巧妙な)ノウハウの伝授とご指導とを戴くという望外の幸運に巡り合うことによって、完全に氷解しました。
『求めれば、与えられる』とか「地獄で仏様に出会う」とは、このような事を言うのでしょうか? 正に、斉藤先生のご支援がなければ、我々には不可能な大冒険でした。斉藤先生を以って、当塾の「TETE生みの親」とお呼びする所以です。
かくて、大きな山あり深い谷ありの1年後、(1)偶然、時代の変化に付いて行けなくなった職員が、将来有望な新入社員と入れ替わりとなったばかりか、(2)上記のような様々な研修等を通じて、大多数の中堅・若手現社員たちの、正に「目を見張る」程に大きな能力向上が実現し、(3)新規指導法の導入に伴いがちであり、また最も危惧されていた生徒・父母からの反発や反動は全くありませんでした。むしろ、英語教育に格段の力を入れていることが、生徒募集と教師募集の両面に渡って、日を追うにつれて予想以上の効果をもたらしつつある事を確認しています。
実際のところ、当塾が、新しい英語指導法に着手することへの、生徒や父母の期待を反映してか、今春は、例年に比べて、学年切り替え時の任意退塾も、心なしか減る一方では、新指導法導入について、塾外への告知広告を全くしなかったのに、問い合わせや入塾も、お陰さまで順調に推移しました。
(六)結論・当塾の将来
ごく最近の文科省の発表(2005年3月1日付け)によれば、小学生の保護者の7割が、小学過程への「英語科」の導入に賛成しているにもかかわらず、教員の54%が、(教務上の負担増も理由になっているようですが)『導入反対』をしているそうですから、両者のその大きなギャップを埋めて、保護者や子供たちの英語学習への熱い期待に応えることができるのは、当面、我々・学習塾しかないのかもしれません。
全国他塾の大方の不振にもかかわらず、当塾において、今春の生徒募集が良好に推移した事実は、他の理由の助けにも負うところがあるとは推察しますが、TETE導入開始が、当塾の将来に向けての社員の夢と希望を膨らませ、生徒への日日の指導技術を向上させ、勤労意欲を向上させるなどの諸効果を伴って、あれやこれやの他の要因との良き相乗効果を導いた重要な原因となっていることも否めないでしょう。
➊日本全国の子供の数が、約20年前のピーク時の半分にまで減少し続けている厳しい人口動態や、➋誤った「ゆとり教育」の広範かつ奥深い浸透や、➌週5日制の短縮時間数下で急速に進み続けている、「青少年たちの絶望的なまでに著しい学力低下」環境の下では、近隣他塾にない際立つ特徴が無ければ、現時点では、運営歴史や生徒数規模、あるいはエリート校への進学実績や資本力などのいずれを誇る塾であろうとも、早晩、市場からの撤退を避けられないであろう、とは、多くの人の共通した意見です。
そして、その「近隣他塾にない際立つ特徴」とは、「生徒の好奇心や興味を巧みに引き出し、学習力を伸ばす指導ができる。」ということの他にはあり得ません。
更に、今春より、小生自身が、この3月より、自塾の現役予備校部門で、東大・京大受験生向けの英語科の講義を始めて分かったことですが、大学受験生向けには、(幼児や小・中学生向けとは異なり)ほぼ無制限に高度の指導が可能であり、生徒もやる気があり、そのため自分も勉強し甲斐があって、極めて充実した毎日を過ごせているという事実です。
ですから、今後、当塾は、『案ずるより、産むがやすし』の古い諺に習い、❶TETEの積極的な実践・普及と共に、❷高校生対象部門への益々の比重強化へと、運営の舵を切っていくでしょう。
以上、現況のご報告をさせていただきました。
また、近く、お会いできれば幸いです。

平成17年5月6日 金曜日
岡村ゼミナール㈱社長