2008年度,英語教育改革問題、改訂増補版

2005-12-01 17:13:15 | Weblog
全国の公立中高等学校が、
英語で英語を教える新しい教育態勢(T.ET.E.)に移行したとき、
(1)塾業界はどう対応しているか、また(2)将来的にどう対応するべきか?

全滅したマンモス同様の運命を辿る?!

(1)塾業界は、英会話学校ではなく、受験指導や補習授業が専門であると自負しているから、そのような学校の新指導法への対応策を、全くか、ほとんど用意していない。
塾業界の通念によれば、各段階の入試は、いずれも、100年この方変わらず、読み書き・文法中心の英語力の試験であるとされ、其の傾向は、多少の変化はあっても基本的には、今後も永く続くと考えられているからである。

しかし、そのような固定的・画一的見方は、既に根本から覆されつつあります。
其の証拠は枚挙に暇がありません。全国の高校入試の実態や大学入試の傾向を、25年分ほどに遡って今日の実態と比較すれば明らかでしょう。
特に、それまでの幾多の胎動を経ながら、具体的には、昭和63年度から始まった東京大学等の国立大学での英語の入試形態の改革スタート(リスニング問題の導入)は、改革提唱者の意図に反して、極めてゆっくりしたペースではあったにしても、徐々に他大学・学部に影響を及ぼし、遂に、2006年1月、大多数の受験生が関わる大学センター入試でも、リスニング問題が20%もの重みを持ってスタートするに至ったことについては、皆様もよく御承知のことでしょう。
この記事は、入試形態の変遷の論証を試みることを直接の目的とはしていませんから、これ以上の詳術は割愛させてください。

要するに、聞き取り能力が際立って重要視されつつあり、さらには、近い将来、スピーキング能力のテストさえも、併せて果たされようとしています。そして、それらの能力テストが併せて、全国の高校入試の配点比率50%となる日が、教育関係者の間では論議されています。
この動きは、欧米の大学への登竜門であるTOEFLで、2006年度より、新たにスピーキング・テストが導入されるとの発表と軌を一にするものであって、世の中の流れの変化を如実に物語っています。
今までとは違って、それらのテスト実施が可能と予想されているのも、個人向けの通信機器が技術的にも発達し、聞き取りや発話能力のテストも、人間の手を通してではなく、機械を通して、同時一斉に、多面的かつ正確に行われうる時代に到達しているからです。そこから得られたデータの処理が正確かつ迅速にできることは言うまでもありません。

そして、これらの新しい動きは、いずれも、国際化が急速かつ全面的に進展している現代社会の大きなうねりに対応して、2003年3月31日に発表された、文科省における「英語が使える日本人」育成計画の基本方針に基づくものです。
しかも、文科省は、本気で其の計画達成に取り組んでいる節が窺えるのです。

ところが、これらの分野の能力を伸ばすには、根本的に英語教育のありかたを変えていかなければならないのです。そのため、2008年度から、(それまでの5年間を準備期間としつつ)全国の公立中・高等学校で、一斉にTETEをスタートさせると発表しているのです。
即ち、子供たちがまだ小学生時で、頭脳の極めて柔らかい、吸収力の高い頃から、劇的に、聞き取りや発話練習の機会を大量に提供した授業に移行していかなければ、聞き取りや発話の能力は、十分には伸ばしきれないのです。それでも、勿論、日本での教育の時間数の絶対的不足から、英米語圏で生まれ育つ人々と比較すれば、天と地の差がつくでしょう。

しかし、一気に2008年度の改革に突入するのではなく、慎重に段階を踏んでいて、❶2006年1月の大学センター入試では、リスニング問題が果たされ、❷2007年度からは、小学3年生以上からの英語科必修教科化が実現され、最後に➌2008年度のTETE全国実施へと準備が整っていくのです。
表面には出てこないので気がつきにくいのですが、全国の多くの学校の先生方のTETE実施に向けての準備・研修強化には凄まじいものがあります。その方面に関する様々な研修会への出席の先生方の熱意の高さや数の多さを見れば、容易に想像が付きます。

文科省や学校側でのそういった改革への積極的な動きに比し、塾業界は、改革や対応の両面にわたって、極めて遅れを取っています。
塾の大半は、入試・受験指導を専門とする旨の自負を持ちながら、近年の入試傾向の変化振りに意外にも気づいていないのです。
あるいは、気づいていても、意図的にそのような傾向を軽視ないしは無視しているのかもしれません。
これらは、いずれも、➊時代の動きを機敏に察知することと、➋その変化の時流に備えることの難しさを示しています。

大げさに聞こえるかもしれませんが、そのような塾サイドにおける無関心振りや停滞振りを見ていると、一時は環境に都合よく適応し、地上の王者になりながら、巨大化し過ぎたがゆえに柔軟性を失い、今度は、突然訪れた氷河期という、逆の環境激変に対抗しきれず、絶滅していった恐竜の悲惨な歴史を、塾業界の行く末に重ねて思わざるを得ません。

では、逆の思考として、学校でTETEがスタートしたとき、❶「子供たちが其の新しい形態の授業に付いて行けず」、あるいは、➋「其の反動(副作用)として、読み書き能力が落ち込み」、その補習に、塾業界が今までと同じように、あるいは、今まで以上に期待されるという事があり得るでしょうか?

➊学校でのT.E.T.E.の授業に付いてゆけず、英語の聞き取りや発話能力を育成しなければならないとき、日本語と文法中心で授業する旧来の塾スタイルが頼りにされる筈がありません。英語の聞き取りや発話が出来ないとき、逆に、日本語をいくら聞いたり話す練習をしてみても、何の益も効用もないからです。
誰だってそれくらいのことは分かりますから、TETE指導の出来ない塾には来なくても、英会話学校へ英会話学校へと、ますます生徒が集まっていくばかりでしょう。

➋次に、読み書き能力の衰退を補う必要があって、塾に来るでしょうか?
当分の間は、旧来の惰性の名残があって利用され続けるでしょうが、学校でのTETEが軌道に乗ってくれば、これまた文科省の強い意向の下に、それに併せた定期考査が行われ、入試が行われ、やがて「英語の読み書き」の比重低下は避けられず、塾の使命は尽き、かつてのマンモス同様に地球上から消え去るでしょう。

■長文読解にしても、いちいち日本語に置き換えて解釈していれば、単純に計算しても時間が2倍以上も掛かる上に、言語のニュアンスの違いから、解釈の方向や筋の逸れてくることもあり得ることを考えれば、英文は、英文のままで理解を進めていくTETE学習の方が絶対的に優れていて、英文を、一旦日本語に置き換え解釈・説明する、旧来の「翻訳を介在させる」多くの学習塾が最も得意とする方式の非効率と誤りとは、明らかです。

■さらに、リスニングにしても、いちいち日本語に翻訳しなければ意味が取れないようでは、しばしば語り手のスピードに付いて行けないのみならず、関係代名詞や副詞あるいは接続詞で繋がった長い会話に対しても、また意味を知らない単語が混じった会話などについても、意味が取れず、あれよあれよの間に、話が先に進んでしまって、結局大失敗という事態が起こりやすくなってきます。

従って、学校で、効率的、かつ正確に❶聞き取り理解や❷会話表現を進めやすいTETEを推進しているときに、旧来方式の逆効果を伴う読解指導を、いくら文法説明と共に、熱心にかつ詳細にしてみても、百害あって一利なしで、結局は、「旧来の翻訳介在方式」=「塾の得意スタイル」は、人気を失い廃れていくでしょう。

それに、後述しますが、文法規則やその例外は、英語圏の文法学者ですら迷うほどに極めて複雑であり、決して日本人教師の一存や努力で統御(command)できるような生易しい相手などではなく、これを物知り顔をして生徒たちに対して、倫理道徳を説くが如くに教えようとすることは、大きな誤りであって、決してしないで戴きたいのです。
後年、教師達の教えが誤りであったことを発見したときの、大きな驚きと日本の英語教育のあり方や教師への不信感とは、抜きがたいものとなります。
小生は、そういう苦い思いと体験をしてきたからこそ、後進の教師達に、生半可に覚えた文法規則を神の御託宣のように指導する過ちを犯して欲しくないのです。
文法原則を、例外や多様な表現形態を許さない「神の定めた唯一完全な法則」であるかのように勘違いして教え込まないで戴きたいのです。

英語圏の人たちが習う文法教科書の極端な薄さを考えれば、英語とは、文法から入って文法から卒業するようなものでは決してなく、先人・先輩がものにした書物やスピーチに含まれている多数の実例から、そこに共通する法則を自分で学び取り、応用し発展させていくように出来ていることが、よく分かります。

議会主義の先祖である英国自身、日本や米国のような「文書に書かれた憲法」を持っていないことを知っていますか? 時々の慣習法の積み重ねで、問題も無く、一国が統治されてきているのです。国の最高法規である憲法条項ですら、固定した書式に基づくのではなく、時代・時代の事例や判例を積み重ねての共通項が尊重されているのです。
いわんや、強制的な拘束力を持つ法律とは異なる「文法規則」など、流動的な一言語における一断面でしかなく、その時代・時代の環境や思想に応じて、どちらがより頻繁に使われる表現かどうかの違いでしかないものなのです。
つまり、言語や文法は、神が定めた絶対の真理だとか言うものでは決してなく、逆に、環境変化に素早く反応して変化し続けているからこそ、言語全体としては、時代を超えて生き延びているのだと言って差し支えないでしょう。

■英語圏の国々でも、聴解能力や発話能力、そして読解力に比し、書き取り能力のレベルが低いことが、時として問題になることはありますが、深刻な問題にまでは発展していません。
その理由は様々でしょうが、英語の世界の(驚異的な)間口の広さと奥の深さを考えれば、聞き取り・発話・読み・書きの全ての分野で、100点満点を取る必要は全くなく、4分野のうちで、聞き取り・発話・読みの3分野でそれなりの成果(good enough English)を上げているならば、ものを書く能力は、「文法分野を含めて」、各人の目標と生活レベルで間に合う限り、それでよいのであって、少々の誤りは、文法学者ですら時に犯すことであって、日常生活のうえで何らの差し障りもないのだという、寛容な精神と考えが根底にあるからです。
日本人の皆様なら、外国人の方々が、しばしば、「誤りを恐れずにどんどん発表しなさいよ・・・」と励ましてくれたことを記憶している方も多いかと思いますが、それは、英語の苦手な日本人向けの慰めばかりではないのです。英語圏の人たちの間での、日常の暮らしの中でのれっきとした「生活の知恵」なのです。
逆に、生徒達に対して完全無欠さを求める教師は、“Grammar Police” と呼ばれて忌み嫌われるのです。
このような教師達は、文法的正確さに異常にこだわり、文法指導に大量の時間を注ぎすぎるのです。しかし、言語学習においては、文法原則の正確さを細部にわたって迄求めるよりは、他に習い覚えるべき事柄が沢山あり、”cost-effectiveness”の考え方こそ、より尊重されなければならないのです。
※この点は、極めて大切ですから、資料として次のエッセイを掲げます。ぜひぜひ、御参照ください。   The Daily Yomiuri, Nov.29, 2005 “Even grammar gurus make mistakes”
by Michael Swan, an author of “Practical English Usage”

➌いや、塾は、英語だけではなく、国語や数学・理科・社会も教えているから、この方面でまだまだ利用され続けるであろう・・・・という期待についてはどうでしょうか?

多数の生徒を集め、力を増大させた英会話塾が、それらの科目も併せて指導し始めるでしょう。何故なら、生徒側は通塾の便宜さを求め、力をつけた英会話学校側は、生徒や親の希望に応じて、また通学に便利な時間割や学級編成をしながら、科目の増設を始めるでしょう。
また、入試対応の技術開発等も、弱体化していくばかりの塾に愛想を尽かして移籍してくる中小塾の教師たちを採用・活用して、急速に発展・展開するでしょう。
塾がTETEを提供できないが故に、子供たちは、最低週1回は、英会話学校に通わなくてはならないわけですから、同じ場所で、其のついでに他の科目も受けられれば、別途に学習塾に通うより、ずっと便利なわけです。

➍以上、全国の学校でTETEが始まれば、それは、塾にとっては実に厳しい試練となるであろうとの予測を、率直に表明しました。
今日、英会話学校が、毎年、対前年比80%、50%増という想像を絶する割合で生徒数を増やしている現実を直視しなければなりません。それは、英会話塾の営業努力の賜物というよりは、世間の若い世代の親子の願いの現れだとみなさなければなりません。
誕生間もない赤ちゃんから、就学前の低年齢児までが、英会話学校の生徒増の原動力となっていて、小学校高学年生以上を主なターゲットにしている学習塾には、まだ直接には影響していないから・・・と、事態を軽視・無視している塾も多いのですが、それらの子供たちが長じ、小学校でも3年生以上で英語教科が必修となる2007年度以降、そして全国の中・高等学校で、TETEが日常的に始まったとき以降、新しい英語教育法である
TETEを出来ない学習塾には、もう見向きもしなくなっている可能性があります。

■金沢市の状況:2004年度より、小学6年生と中学の全学年で、TETEを完全実施

(1)低年齢から英会話を習い始めている子供たちが、2004年度からTETEをスタートさせている金沢市の小学校でも中学校においても、英語授業の中で、初めて習う子供たちを尻目に、習い覚えた会話力を基に活発に発言する様子が伝えられており、学力の2極化が目立ってきているそうです。

(2)石川県では、未だ、金沢市だけがTETEに取り組んでいて、他の地域では将来課題とされているため、県下一斉の高校入試の形態は従来と同じであり、金沢市の新指導に沿ったものにはなっていません。しかし、2008年度に、全県下でTETEがスタートした以降は、入試の形態が変化することが、十分に予想されます。

(3)また、小学校からの通信簿に、既に、「英語科」の評価欄が加えられているとのことです。
その小学校6年生は、中学1年生の教科書の先行学習をしていますが、ほとんどの内容が、初歩的で易しい会話形式の文となっているため、担任教師が、聞き取り練習と対話形式中心で進めているとのことです。ですから、アルファベットは習っているそうですが、教科書内容の書き取り練習にまでは踏み込んでいないようです。
進度は、TETE初年度(2004年度)は、1年間で三分の二ほどだけ進み、2年目・2005年度は、教師側も指導に慣れてきたのか、1冊を仕上げそうな進み方だそうです。

(4)中学校1年生の授業は、原則的に、小学校での習い終えた続きからスタートしています。ですから、小学校での既習部分は、生徒の身についているとの前提で進むようです。それは、簡単な対話文主体のため、筆記練習を含めて生徒の側の自主的な復習に委ねられているとも解釈できるため、地元の塾では、この部分が、塾でフォローされるべきものとして、需要が見込めるのではないかと期待をしているようです。

(5)定期考査や高校入試は、未だ、従来形式のままで行われているため、筆記練習の必要性があり、この部分が、やはり筆記指導と文法解説の得意な塾への需要として残っているのではないかと、塾側は目算しています。

(6)かくて、TETEの実施2年目に過ぎず、塾への影響度もまだまだ未知数のようですが、数年後に、金沢のみならず、全国的にTETEが軌道に乗ってくれば、かなりの変化が急速に生じてくるでしょう。理由は、聞き取り・発話・読解の3分野の比重が高まるだけでも、英語教育上の大きな変化だからです。

特に、聞き取り能力の向上は極めて難しく、大量の聞き取り時間と集中度を必要とするため、この分野に意を用いるだけでも、英語学習のうちの相当な部分を割かざるを得ないからです。
皮肉な、あるいは、矛盾した言い方をするようかもしれませんが、読み書き、聞き取り・発話の全ての能力が、バランスよく向上していかなければ、聞き取り能力の向上はあり得ないともいえるのです。
つまり、英米人の会話をスムースに聞き取れるための道のりは、その半分を行くだけでも、至難の業であって、志してより、数年ないしは、十余年の修業を要する大事業だと言明できます。
さらには、英米人だけが相手ではなく、ドイツ人やイタリア人・中国人、インド人・シンガポール人・スペイン人などもが交流相手となってくると、其の国のなまりに強く影響された英語(?)を聞き取らなければならなくなり、道のりは、果てを知らない遠いものとなります。

■TETE推進の最大眼目

話を元に戻し、では、学生の身分に応じた聞き取りがある程度に出来るようになれば、自動的に発話力も伸びているかといえば、これがまた、そういう単純な比例関係には全く無いのです。
欧米の大学への入学検定試験であるTOEFLにおいて、2006年度より、スピーキング能力テストも新たに果たされるとの発表は、何を物語っているのでしょうか?
読み書きと聞き取り能力の測定だけでは、真の英語力の測定にならず、スピーキング能力も一定の水準をクリアーしなければ、欧米の大学での履修、とりわけスピーチ能力の有無と優劣とを大きく評価するセミナー形式での講座単位が取れない、ということを明白に物語っています。
また、スピーチ能力の養成こそは、文科省が『使える英語力育成プラン』を2003年に提唱した最大にして最後の目標であり、中心テーマであることに気が付かなければなりません。
即ち、スピーチ能力・debate能力の養成こそが、TETE推進の最大眼目なのです。
聞き取り能力や読解力等育成は、すべて、そのための前提作業でしかありません。
そこでまた、スピーチの練習に時間とエネルギーとを、大量に割かなければならないのです。
これらの能力育成を、全て、学校より、効率的に、かつ生徒の興味を引き続けながら指導できなければ、学校の補習を請け負う塾とは言えないのです。
需要に応えられなければ、市場より撤退するしかありません。
今日、ここまでの事態を予測しながら、塾の将来を考え、英語教育の改革を準備・推進している塾が、全国のどこにあるでしょうか?
岡村ゼミナールは、公立学校でのTETEを企画推進しておられる最高のリーダー、関西大学教授・斉藤栄二先生のご指導の下で、TETEを、塾内で、2005年度からの3年計画で、既に部分的ながらスタートしています。
そして、私どもと、意見と夢と情熱とを共有し合える塾を、協力し合う仲間として捜し求めています。
ご関心のある方はどうかお問い合わせください。
宜しくおねがいします。
平成17年11月30日
岡村寛三郎
岡村ゼミナール㈱社長
日本教育者セミナー理事長
播磨民間教育ネットワーク理事長

岡村寛三郎・メール・アドレス・・・okamura@oksemi.co.jp
岡村ゼミナール・ホームページ・・・http://www.oksemi.co.jp/index.h+ml
日本教育者セミナー・ホームページ・・・http://edu-jp.net/