前回その2 の続きです。「5分でわかる!」感じじゃなくなってきましたが、少年隊が少年じゃなくなっても少年隊という名前を貫いたようにこのままにします、すみません。
2019年
2月
●カバーアルバム“California Son”発売決定
2月26日、モリッシーの初めてのカバー・アルバム『カリフォルニア・サン(California Son)』のリリースが5月24日に決定と報じられました。
エド・ドロステ(グリズリー・ベア)、アリエル・エングル(ブロークン・ソーシャル・シーン)、ビリー・ジョー・アームストロング(グリーン・デイ)、ペトラ・ヘイデン、サミール・ガディア(ヤング・ザ・ジャイアント)、リディア・ナイト(ザ・リグレッツ)、LP(ローラ・ペルゴリッジ)と豪華な面々ゲスト参加しており、LPがバック・ヴォーカルで参加したロイ・オービソンのカヴァー曲「It’s Over」の音源が先行公開。
Morrissey – It's Over (Official Audio)
豪華なゲスト陣で楽しみだね♪で終わらないのがモリッシーのレコードです。メディアはご丁寧に、彼らメディアが呼ぶところの「モリッシーの右傾化」や政治観についてゲストたちご存知か?とインタビューを取りにいってます。
エド・ドロステ(グリズリー・ベア)コメントを拒否
アリエル・エングル(ブロークン・ソーシャル・シーン)「(モリッシーの政治観は)コラボレーション後に友人から送られてきたメールで初めて知った」
LP「彼の音楽や詩の大ファンとして、アルバムへの参加を持ちかけられたことを名誉に感じている」
…メディア(主にガーディアン)は一体、なんて答えさせたかったんですかね??
一方ビリー・ジョー・アームストロング(グリーン・デイ)は、4月11日にモリッシーとのデュエット曲”Wedding Bell Blues”のLyric Videoが発表されると自身のインスタグラムで
「モリッシーとマイクを共有して曲を歌うという栄誉にあずかった。信じられない! ありがとう、モリッシー! あなたは真のレジェンドです」
と感激を表明。ところが2020年になってからまたまたしつこくインタビューで「モリッシーの政治観はどう思ってんですか?」と聞かれ
「曲が出るまで知らなかった。一緒に曲をやって、彼はすごく素敵だったし、それで曲が出たら、たくさんのイギリス人から批判が寄せられて、『一体何をやっているんだ?』って感じだった。まったく知らなかった」
と回答。知ってたってなんだって、モリッシーとデュエットしてみたかったと思うんですけどね。そして終わった後知って「俺政治観のおかしい人と何やった!?間違えた!!」なんて思うのだろうか。こんな美しいデュエットが生まれ、アーティストであるビリーにそんな陳腐な後悔が生まれるとは思わない。
Morrissey ft. Billie Joe Armstrong - Wedding Bell Blues [Lyric Video]
1969年のフィフス・ディメンションの元歌はこちら。モリッシーは子どもの頃から、アメリカの女声コーラスグループも愛聴。このアルバムのカバー曲の範囲(下記)からもその音楽志向の幅広さがうかがえます。
5th Dimension - Wedding Bell Blues
01 Morning Starship (Jobriath cover) [ft. Ed Droste]
02 Don’t Interrupt the Sorrow (Joni Mitchell cover) [ft. Ariel Engle]
03 Only a Pawn in Their Game (Bob Dylan cover) [ft. Petra Haden]
04 Suffer the Little Children (Buffy Sainte-Marie cover)
05 Days of Decisions (Phil Ochs cover) [ft. Sameer Gadhia]
06 It’s Over (Roy Orbison cover) [ft. LP]
07 Wedding Bell Blues (The Fifth Dimension cover) [ft. Billie Joe Armstrong and Lydia Night]
08 Loneliness Remembers What Happiness Forgets (Dionne Warwick cover)
09 Lady Willpower (Gary Puckett cover)
10 When You Close Your Eyes (Carly Simon cover) [ft. Petra Haden]
11 Lenny’s Tune (Tim Hardin cover)
12 Some Say I Got Devil (Melanie cover)
5月
●“California Son”発売
カバーでメッセージ性を表に出さない、無難(?)な選曲のアルバムを出しても批判されるモリッシー。出る前からなんやかんや言われていた“California Son”を5月24日にリリース。このアルバムカバーのビジュアルからは、テレタビーズの不穏な赤ちゃん太陽を思い出したのでしたw
このアルバムリリースの「プロモーション」で5月13日にアメリカのテレビ番組「ザ・トゥナイト・ショウ・スターリング・ジミー・ファロン」に出演。
この数日前のニューヨーク、ブロードウェイ公演後の出待ち映像で、極右政党「フォー・ブリテン」ロゴバッジをつけてる!!とさんざん叩かれていたのに、なんとこの番組にもつけて出てきたのです。モリッシー、バッジだくさんもってるのに!!
「フォー・ブリテン」はイギリス独立党の党首選に敗れたアン・マリー・ウォーターズによって2017年に設立された党で、モリッシーは2018年にブログサイト「Tremr」とのインタヴューこの党支持を表明しています。
その理由として、保守党と労働党による政権争いの繰り返しにうんざりしているためと語り、アン・マリー・ウォーターズを「現在の英国のあらゆる側面についてオープンに議論できることを目指している。彼女はサッチャーに人間味を持たせたような人。彼女には絶対のリーダーシップがあり、台本を片手に演説することもない。イギリスの品位や言論の自由を信じていて、英国国民全員が同じ法律の下で暮らせることを願っている」と評価。
「フォー・ブリテンはいかなるメディアの支援も受けていないし、よくある子供みたいな人種差別主義者呼ばわりの批判をされてきた。だけど、人種差別主義者という言葉は、『私に同意しないならあなたは人種差別主義者です』っていうこと以外にはもはや意味のない言葉だと思っている」
オープンな議論を望んでいる人たちを「人種差別主義者」と批判することを止める必要があるというのがモリッシーの主張のコアであると思うんですが、この「フォー・ブリテン」に関する考え方やアン・マリー・ウォーターズへのリスペクトは「どくとく」であって、メディアを含む大多数はそう思っていません。
「フォー・ブリテン」支持が批判されるとモリッシーは
「私は人種差別を軽蔑する。ファシズムを軽蔑する。イスラム教徒の友人のためなら何だってするし、彼らも私のために何だってしてくれることを知っている」
と声明を出してます。ここまではわかるのですが「こういう視点から考えれば、我々の安全を守ってくれるイギリスの政党はたった1つしかない。それはフォー・ブリテン」と続けていて…これは他の人にはまったく許容できない意見だったよう。
自称「モリッシーの元友人」であり、モリッシー・ネガキャンの首謀、ジャーナリストでDJのデイブ・ハスラムは「この政党は徹底的にイスラム教徒に反対する姿勢を取っていて、元イギリス国民党やイングランド防衛同盟の人々で溢れてて、民営化を支持し、極右で、悲劇を利用して分断させるような反移民のレトリックをオンラインで広めているような団体」と大批判。
SNSでも同様の意見があふれかえるのを見ました。デイブはこう言って「俺らのモリッシー」が失われたと煽ります。
「『優しく親切でいるには勇気がいる』(ザ・スミス“I Know It’s Over”歌詞)と言っていた男に何が起きたんだ?」
現在モリッシーが「差別主義者の極右」というレッテルを完全に貼られたのがこの2019年5月だと言えましょう。
「『フォー・ブリテンがいいね』と君が言ったから五月十三日は極右記念日」
…と、記念になんてできません。
これ以降モリッシーはまたさらなる逆風に見舞われることになります。私はデイブ・ハスラムが「蜂起」したとき、モリッシーの“Your Arsenal”収録の”The National Front Disco”の歌詞を思い出しました。
David, the wind blows
The wind blows
Bits of your life away
Your friends all say
"Where is our boy? Oh, we've lost our boy"
デビッド、風が吹いたんだ
風が吹いて
君の人生のかけらが吹き飛ばされた
友達がこう言ってる
「あいつはどこに行ったんだ?あいつがいなくなっちまった」
ハスラムに言いたいのは、モリッシーはどこにも行っていない。極端に右にも行ってないし、左にも行ってない。彼の中の軸は、自分自身でしかないので、既存の枠組みで批判しても、まったく負けないので疲れるだけです。
すっごく雑に言えば、モリッシーはアン・マリー・ウォーターズを好きなだけ。それだから極右、それだから差別主義、そういうことではないと思います。
2017年7月のガーディアンのモリッシー批判記事の中で、インタビューを受けた音楽ジャーナリストのサイモン・ゴダードはこう言ってました。
「モリッシーはプロ労働者階級、反エリート、反組織。これにはすべての政党、議会、すべての公立学校、オックスブリッジ、カトリック教会、君主制、EU、BBC、新聞、音楽系メディアが含まれる。彼の発言は政治上の議題と一貫していないため、特の左翼を混乱させる」
またブレイディ・みかこさんも『いまモリッシーを聴くということ』の中で“You Are The Quarry”収録の“Irish Blood, English Heart”を例に
「左と右、上と下、グローバリズムとナショナリズム。いろんな軸が交錯し、いったい誰がどっち側の人間なのやら、従来の政治理念の枠では語りづらくなってきたイギリスのカオスを、モリッシーは予告していた」
と指摘していました。彼は規制概念や枠組み、カテゴリーからまったくはみ出している。そこを「違うだろ違うだろ~!!」と言ってもナンセンスなんだと思います。その上で彼の作品を聴き、主張を聴く。その上で考えて行動するのは自分次第ですから。
アーティストの信条や人間性のあげ足をとることに時間をかけず、自分のために音楽を聴けばいいと思います。イヤなら自然の小川のせせらぎの音でも聞いていればいいのです。
当のモリッシーは2020年にこんなツアーTシャツを出していました。
「私は極右ではない。極左ではない。私は…前に進み過ぎてるだけ」
自分も着ている。首回りと裾はどくとくなVネック。どんなスタイルを目指して切っているのでしょう…!?
しかし、前に進み過ぎたモリッシーなんて多くの人には当然意味不明であり、世間は知ったこっちゃなかった。この後老舗レコード店からのレコード締め出しや、ガーディアンとの仁義なき戦いが続く、波乱の2019年です。あと4年ある。。。
今日、LIVE NATIONメルマガ会員抽選にも申し込みましたがこの発表は火曜で、先日の抽選より先に出るんですね。どっちにしろ落ち着かないけど、また書きます。続く。