福島第一原発の事故や浜岡原発停止の影響で、夏場の節電対策が関心を集めて、連日のように「kW(キロワット)」や「kWh(キロワット時)」という言葉が飛び交っている。しかし、この単位が何を示しているのか、いま一つピンとこないという方も多いと思う。
実際、例の「自販機・パチンコ批判」を聞いていると、都知事ですらこの二つを混同している節がある。そこで、今回はエネルギーの単位に関するお話を少々。
エネルギーの量を表す場合は、「J(ジュール)」を使うのが普通である。例えば、1kg(キログラム)のものを1m(メートル)持ち上げると、9.8 Jの仕事をしたことになる。また、1kgの水の温度を10度(セ氏)上げるには、41860Jの熱量が必要である。
41860Jはちょっと読みづらいので、1000J = 1kJ(キロジュール)を使って、41.86kJとしてもよい。このk(キロ)という記号は「千倍」を表す接頭辞で、キロ・グラム(kg)、キロ・メートル(km)、キロ・カロリー(kcal)などどんな単位にでも付けることが出来る。
ちなみに、「千倍の千倍(=百万倍)」はM(メガ)、「千倍の千倍の千倍(=十億倍)」はG(ギガ)である。
電気もエネルギーの一つなので、消費した電気量も「J(ジュール)」で表すことが出来る。ただ、テレビや冷蔵庫といった家電を使う場合にとくに気になるのは、それが「どのくらいのペースで電気を消費するか?」という点である。
これはJ(ジュール)が表現する「使った電気エネルギーの総量」とはまた違った観点の話なので、別の単位が必要になる。すなわち、ある電気製品が「1秒に1Jのペースで電気を消費する」ならば、それを1W(ワット)と表現する。つまり、1Wは 1J/s(ジュール・パー・秒)である。
例えば、300Wと表示されているテレビは、1秒間に300Jのペースでエネルギーを消費する。従って、このテレビを2時間(= 2 * 3600秒)見ると、
300(W=J/s) * 2 * 3600 (s) = 2160000J = 2160kJの電気を使うことになる。
こうやってすべての電気製品の消費電力量を計算して足してみると、一般家庭が一ヶ月に使う電気の量はだいたい100万kJ程度になる。
しかし、電気料金領収証の使用電力量欄には、300kWh(キロワット時)などと書かれていて、J(ジュール)の文字はどこにも出てこない。
本来であれば、電気量もJ(ジュール)で表した方が、他のエネルギーと比較し易いし、W(ワット)からの計算も理解し易いのでより好ましいのだが、実際にはJ(ジュール)ではなくWh(ワット時)という単位が使われる。
おそらく電気業界の慣例だと思うのだが、素直にJ(ジュール)を使わないために、ちょっとだけ話がややこしくなっている。
ただ、J(ジュール)とWh(ワット時)の関係は至極簡単である。1Whは3600Jに等しい。これだけである。つまり、3600J というエネルギーを一塊にして1Whと名前を付けただけだ。勿論、1kWhは3600kJである。
3600という数字がいきなり出てくるが、ピンとくる方も多いと思う。1時間は3600秒、その3600である。そして、この3600Jをひとまとまりにしたお陰でちょっと便利なことがある。
300Wのテレビを2時間見る場合、消費電力をWh(ワット時)で表すと
300 * 2 * 3600 (J) / 3600 (J/Wh) = 300 * 2 = 600Wh
つまり3600の項が打ち消しあって消えて、「ワット * 時 = ワット時」という式が残り、計算が簡単になる。例えば、600Wの電気ストーブを3時間使ったら、
600W * 3h = 1800Wh = 1.8kWh
と計算してよい。しかし、重要なことは、この式はあくまで結果として正しいだけで、本来600Wに掛けるのは、時(h)ではなく秒(s)でなければならない。
600W * 3h * 3600(s/h) / 3600(J/Wh) = 1800Wh
が背後にあるということだ。これを理解せずに「ワット * 時 = ワット時」だけを頭に入れていると、W(ワット)という単位が1時間に消費される電気量だと勘違いする危険がある。W(ワット)は、あくまで1秒間に消費される電気量を問題にした単位である。
さらに、もっと正確に言えば、W(ワット)は、エネルギーの時間微分なので、ある「瞬間」におけるエネルギーの消費あるいは産出速度を表現している。
最後にまとめを。
1) 電気も含めてエネルギーの量はJ(ジュール)で表されるのが普通
2) 1W(ワット)は1秒間に1Jのエネルギーが消費あるいは産出されるペースのこと
3) 電気関係では3600Jのエネルギーを一塊にして1Wh(ワット時)と呼ぶことが多い
4) 「ワット * 時 = ワット時」という式は結果として正しいが、意味的には間違い
(練習問題)
a) 今月の電気料金領収証に「ご使用量320kWh」と書かれていた。この電気量をJ(ジュール)単位で表せ。
b) 東京電力のサイトに電力の供給能力が4000万kWと書かれていた。この数値は時間帯で変わらないとして、1日(24時間)の供給可能電力量を計算して、J(ジュール)とWh(ワット時)の両方で表せ。
c) ある冷蔵庫の1年間(365日)の消費電力量が400kWhであるとき、電気の平均消費速度をW(ワット)で求めよ。
d) 電気ポットで2リットルの水を20度から80度まで温めた。水が受け取った熱量をWh(ワット時)で表せ。温度上昇が20分で完了した場合、熱エネルギーの受け取り速度をW(ワット)で求めよ。ただし、1cal = 4.186 J。
ちょっとしたドリルなので、水の比熱の温度変化とか密度変化とか、難しい話は抜きで(笑)。答えは、次のブログに載せる予定。
実際、例の「自販機・パチンコ批判」を聞いていると、都知事ですらこの二つを混同している節がある。そこで、今回はエネルギーの単位に関するお話を少々。
エネルギーの量を表す場合は、「J(ジュール)」を使うのが普通である。例えば、1kg(キログラム)のものを1m(メートル)持ち上げると、9.8 Jの仕事をしたことになる。また、1kgの水の温度を10度(セ氏)上げるには、41860Jの熱量が必要である。
41860Jはちょっと読みづらいので、1000J = 1kJ(キロジュール)を使って、41.86kJとしてもよい。このk(キロ)という記号は「千倍」を表す接頭辞で、キロ・グラム(kg)、キロ・メートル(km)、キロ・カロリー(kcal)などどんな単位にでも付けることが出来る。
ちなみに、「千倍の千倍(=百万倍)」はM(メガ)、「千倍の千倍の千倍(=十億倍)」はG(ギガ)である。
電気もエネルギーの一つなので、消費した電気量も「J(ジュール)」で表すことが出来る。ただ、テレビや冷蔵庫といった家電を使う場合にとくに気になるのは、それが「どのくらいのペースで電気を消費するか?」という点である。
これはJ(ジュール)が表現する「使った電気エネルギーの総量」とはまた違った観点の話なので、別の単位が必要になる。すなわち、ある電気製品が「1秒に1Jのペースで電気を消費する」ならば、それを1W(ワット)と表現する。つまり、1Wは 1J/s(ジュール・パー・秒)である。
例えば、300Wと表示されているテレビは、1秒間に300Jのペースでエネルギーを消費する。従って、このテレビを2時間(= 2 * 3600秒)見ると、
300(W=J/s) * 2 * 3600 (s) = 2160000J = 2160kJの電気を使うことになる。
こうやってすべての電気製品の消費電力量を計算して足してみると、一般家庭が一ヶ月に使う電気の量はだいたい100万kJ程度になる。
しかし、電気料金領収証の使用電力量欄には、300kWh(キロワット時)などと書かれていて、J(ジュール)の文字はどこにも出てこない。
本来であれば、電気量もJ(ジュール)で表した方が、他のエネルギーと比較し易いし、W(ワット)からの計算も理解し易いのでより好ましいのだが、実際にはJ(ジュール)ではなくWh(ワット時)という単位が使われる。
おそらく電気業界の慣例だと思うのだが、素直にJ(ジュール)を使わないために、ちょっとだけ話がややこしくなっている。
ただ、J(ジュール)とWh(ワット時)の関係は至極簡単である。1Whは3600Jに等しい。これだけである。つまり、3600J というエネルギーを一塊にして1Whと名前を付けただけだ。勿論、1kWhは3600kJである。
3600という数字がいきなり出てくるが、ピンとくる方も多いと思う。1時間は3600秒、その3600である。そして、この3600Jをひとまとまりにしたお陰でちょっと便利なことがある。
300Wのテレビを2時間見る場合、消費電力をWh(ワット時)で表すと
300 * 2 * 3600 (J) / 3600 (J/Wh) = 300 * 2 = 600Wh
つまり3600の項が打ち消しあって消えて、「ワット * 時 = ワット時」という式が残り、計算が簡単になる。例えば、600Wの電気ストーブを3時間使ったら、
600W * 3h = 1800Wh = 1.8kWh
と計算してよい。しかし、重要なことは、この式はあくまで結果として正しいだけで、本来600Wに掛けるのは、時(h)ではなく秒(s)でなければならない。
600W * 3h * 3600(s/h) / 3600(J/Wh) = 1800Wh
が背後にあるということだ。これを理解せずに「ワット * 時 = ワット時」だけを頭に入れていると、W(ワット)という単位が1時間に消費される電気量だと勘違いする危険がある。W(ワット)は、あくまで1秒間に消費される電気量を問題にした単位である。
さらに、もっと正確に言えば、W(ワット)は、エネルギーの時間微分なので、ある「瞬間」におけるエネルギーの消費あるいは産出速度を表現している。
最後にまとめを。
1) 電気も含めてエネルギーの量はJ(ジュール)で表されるのが普通
2) 1W(ワット)は1秒間に1Jのエネルギーが消費あるいは産出されるペースのこと
3) 電気関係では3600Jのエネルギーを一塊にして1Wh(ワット時)と呼ぶことが多い
4) 「ワット * 時 = ワット時」という式は結果として正しいが、意味的には間違い
(練習問題)
a) 今月の電気料金領収証に「ご使用量320kWh」と書かれていた。この電気量をJ(ジュール)単位で表せ。
b) 東京電力のサイトに電力の供給能力が4000万kWと書かれていた。この数値は時間帯で変わらないとして、1日(24時間)の供給可能電力量を計算して、J(ジュール)とWh(ワット時)の両方で表せ。
c) ある冷蔵庫の1年間(365日)の消費電力量が400kWhであるとき、電気の平均消費速度をW(ワット)で求めよ。
d) 電気ポットで2リットルの水を20度から80度まで温めた。水が受け取った熱量をWh(ワット時)で表せ。温度上昇が20分で完了した場合、熱エネルギーの受け取り速度をW(ワット)で求めよ。ただし、1cal = 4.186 J。
ちょっとしたドリルなので、水の比熱の温度変化とか密度変化とか、難しい話は抜きで(笑)。答えは、次のブログに載せる予定。