こんなキャラがソフビになったら、というのがインディーズソフビメーカーの
役割の原点にあると思うのですが、これもその1体としてコアなモンスターファンたちの
渇望を満たしています。
マーミットさんが発売した、恐怖の食人植物トリフィド。
SF小説家、ジョン・ウィンダムが1951年から英国でも指折りの一般週刊誌
「コリアーズ」誌上に連載形式で発表した「Day of the Triffids」の
主役であり、人類が私欲から自ら生み、全世界に趨勢を広げてしまった
最大最悪の天敵です。
神々の黄昏、人類が戦慄する悪夢の「トリフィド時代」がおしよせる!
その名の語源は、「3本足」のThreeと「戦慄」を意味するTeriffiedに
由来する造語です。もっとも作中で、この植物に相応しい名がつく頃には
人類はその名の響きの通り、社会・経済が崩壊しすでに
滅亡に向かっている頃だったわけですが。。。
60年以上前と古い小説でありますが、今読んでも人類の文明がもたらす科学の誤用から
自らをおびやかす恐怖を全世界規模で描いており、あたかも警告の書のように
染み入る文脈が何箇所もある、機知とサスペンスに富んだSF小説の
マスターピースのひとつといえます。
すでに3度も映画化されており、映画人からの本小説へのリスペクトぶりも
うがかがえようというもの。
そこはトリフィドのデザインやキャラクター設定のミリキが大きいがゆえと
いえます。
マーミットさんからこのたび発売されたトリフィドは
トリフィドという文字世界の優れたキャラクターのユニークさを
うまくソフビTOYとしてカタチにしています。
全5パーツで2つの枝の部分に2パーツを振り分け、つぼみのような顔に可動させ
表情をつけられるように1パーツを振り分け、
残りの2パーツを胴体と、根っ子の株の部分とで分断し振り分けているのですが、
構成をよく考えてあると思います。実際にソフビを手にとって
キコキコとカンチャクを動かすとそれはよくわかります。
地面から値を上げて足のようにぎこちなく動き、人間を捕食しようと静かに移動する
不気味な植物という設定通り、ポーズごとに植物らしい枝ぶりの表情を
楽しむことができます。とくにこのソフビ化されたトリフィド君の右手には
獲物を捕らえる時に使う毒の棘がついているので、ここは可動必至ですね。
このトゲで「えーかげんにせーや!」パーン!と食虫植物の反射行動のように人類を
ひっぱたいて殺し、捕食するわけDeath。というか死んだ人間や動物の死体が腐るのを
待って腐敗した養分を吸う。。。と書くと、ただ肉を食べるよりも
気持ち悪いですね・
品種改良により人類の食や住、生物燃料などを満たす資材をもたらすべく
生み出されたトリフィド。
人類に幸をもたらすはずが、毒のトゲを持つことから、家庭では猛獣のような扱い
となり、トゲを抜いた状態に剪定されて、多くは家の子供たちの慰み者になっている
のですが、彼らは虎視眈々と自分を生み出した人類への逆襲の瞬間を
うかがってきました。
ある夜、大量の流星群を目撃した人類はすべて盲人となり、
あたかも目を持たない植物のようになって暗黒の世界でのた打ち回る人間たちの
苦境を見計らったかのように世界各地のトリフィドは地面に張られた根を
引き抜いて一斉蜂起。
じわじわと人間たちを襲撃し、捕食していきます。
人類と植物が入れ替わるときがやってきたのです。
トリフィドが決してスピーディーな襲撃ができないところがまたブキミで、
作中では気がつくと背後に何株か迫っているといったシーンが多い感じです。
一説によるとゾンビ映画の始祖・ジョージ・A・ロメロ監督も、
一体一体は強くないが、のろのろじわじわと数の趨勢を広げて世界を支配していく
生きている死体=リビングデッドの不気味なイメージをこの小説のトリフィドの生態に
一部、材をとっているともいわれています。
部屋の資料整理をしていたら割とさくさく出てきたので、
トリフィドに関する資料まとめ。やはり時々書庫は本の分散をチェックして
整頓しないといかんなー。
上は東京創元社から出ている原作小説。井上清氏訳。表紙のイメージイラストが
公式という感じです。
80年代に発売されたマニア向けの怪獣図鑑に載っていたトリフィド。
アメコミチックで洗練された絵柄のコミックアーチスト、板橋しゅうほう氏の
描くトリフィドはこんな感じです。
SF小説に登場する宇宙怪獣を集めたイラスト本に描かれていたトリフィド。
最初の映画化である「人類SOS」のポスターで描かれていたトリフィド。
このポスタービジュアルで描かれるトリフィドが多く、今回のマーミットさんから
発売されたトリフィドソフビも製品化にあたりイメージの下敷きにしているようです。
80年代のビジュアルSF世代向け雑誌「宇宙船」で読者投稿されたトリフィド。
この立体化は小説劇中のトリフィドのイメージを中核におき作られたようです。
宇宙船の誌上ではマーミットの赤松社長も当時立体関係の連載を担当していた
経緯があり、SF小説の怪物たちをいつか製品化し流通させたいという
構想はすでにこのころからあったのかもしれません。
こちらは2度目に英国BBCで映画化(連続TV作品)された
「Day of the Triffids」のDVD。
輸入ビデオやのセールで安く買ったのですが、英語字幕がついていてわかり
やすく、英語の勉強がてら時々見返しています。小説をほとんど忠実に映画化して、
トリフィド地獄でカオスな状況に追い込まれた人間たちのいさかいや
逃走劇に重点を置いており、トリフィドを遠隔地から倒すブーメランとボウガンを
混ぜたような特徴的な武器も小説どおりのものが登場します。話自体も最後まで
英国TVらしく品とウィットに富んで、けっして退屈しないのですが、
肝心の劇中に登場するトリフィドのビジュアルが、ランの花のような
不安定な植え込みがフラフラしながら揺れている(歩いてるシーンはほとんどなく
頭がカクカクしている前で役者が演技しているだけなシーンがほとんど)
貧弱なビジュアルなのが非常に残念です。
本作は日本でもDVD化されていますがすでに絶版のようです。
そしてリメイク3作目も日本でDVDがリリースされているようですが
タコも未見です。ダイジェストを見たら、トリフィドの登場場面は多くが
CG表現されているようです。
ロンドンが制圧され街中で無数のトリフィドが獲物を待ちじっと佇んでいるような
シーンは原作の破滅的なイメージをよりスケール感たっぷりに映像化していて
まあまあ良さそうなのですが、トリフィドのビジュアルがアロエの株みたいに
なっており、怪物としての作り込みが軽めで好き者目線では色気が乏しい感じカナ。
やはり映画化1作目「人類SOS」のレトロで凶暴そうなトリフィドが
ビジュアルとしての存在感は今も大きいですね。「人類SOS」のポスターアドを
イメージソースに敷いたトリフィドをフルCGで製作して登場させてくれたら最強かも
しれません。
映画「人類SOS」のラストは、一応人類がなんとかトリフィドを排除できそうな
希望がうかがえるハッピーエンドです。しかし、なんと近年ネット社会に
なって海外作品のデータベースも増えたことで調べることができたのですが、
映画の穏便なラストは当初映像化した主人公たちの全滅エンドが悲惨すぎるとして
後から差し替えたものなんですね。どうも大衆的な娯楽としての評価を意識して
変更したようです。
「人類SOS」は終盤、灯台に立てこもり、どうにもならないところまで
追い詰められた主人公たちがラスト3分前くらいにトリフィドの弱点が判明して、
たちまち倒しちゃうんですから、唐突過ぎます。
でも、その撮り足し部分は、じつは監督でない映画会社サイドの
スタッフが用意したものだそうです。つまり元のヘビーなラストを撮った監督は
ウインダムの原作に漂う悲壮感をよくわかって映画化していたということ
なんですね。小説の最後はトリフィドに対抗できるほど生き残った人間同士も
うまくいってないし、トリフィドも世界に広がってしまい秩序が崩壊して
対策もとれないけどやっていくしかない、的なペシミスティックな結末です。
イラストの達者な外人さんのHPから引用させていただいたのですが、
小説の忠実なビジュアル化が左端で、ついで一回目、二回目、数年前の三回目の
映画化におけるトリフィドのビジュアルが変遷していることがよくわかりますね。
ハニービーさんにここらでお庭のトリフィドと戯れてもらいます
「トリフィドに触れるなんてこんな行幸が訪れるとは思ってもみなかったわね!
こらこら、人類をなめちゃいかんぜよ、ほら、お手!」
トリフィド「。。。」
パアーン!ええかげんにしいやー!!
ハニービー「たまにタコブログに出てきたと思ったら犠牲者役かい!
この前出たときは原発ステーションに行く役だったし。
ああ~腐っていくワタシ、トリフィドに養分を吸われていくワタシ~」
レトロSFとしての小説の中で練り上げられ、60年代に映画化されたときの
ビジュアルイメージを源泉に持ちつつ、ファン各人の間で
イマジネイティブの余地を残しつつ現在でも根強い支持を持っている
キャラクター、トリフィド。
今回のマーミットさんによるソフビ化は
オリジナル解釈によるSFモンスターオブジェとして
デスクにもちょっと飾れる渋めなソフビといった仕上がりですね。
非常にソフビ向けなキャラクターでありながらこれまで立体化の機会が
得られなかったのですが、ようやく遊べるアイテムとして
SFキャラの立体化に目がないファンたちの手元へと届くことになりました。
人類と生存をかけた死闘を繰り広げるトリフィドが、静かに攻撃の機会を
待っている。。。そして獲物を追ってじわじわと動き出し間合いを詰めてくる恐怖。
ソフビのカンチャクによる可動で、独特の習性を持つ
食人植物の静と動の双方の状態を再現できる
このトリフィドは、小説世界から飛躍してソフビのカタチになったソフビのリメイク
映画とでもいえる、有意義な製品化を果たすことになったのではないでしょうか。