桜の開花とともにやって来たジャクソン・ブラウン。
その東京公演に行ってきた。
この年になって「今さら」という思いもないではなかったのだが...。
行ってよかった。コンサートを心底から楽しむことができたからだ。
ジャクソン・ブラウンとの出会いは十代。
彼のファースト・アルバムを衝動買いした高校生の時だった。
その時以来50年、折にふれて彼の音楽に耳を傾けてきた。
だが、過去何回かの来日公演があり、出かけるチャンスもあったにもかかわらず、
直に彼の音楽に触れようとはしなかった。
確かに、高校、大学時代とジャクソン・ブラウンの音楽に共感し熱狂もした。
けれども、社会に出てからというもの、
都会でしか開催されないコンサートに
休みをとってまで出かけようとは思わなかったのだ。
ところが今回は違った。
昨年暮れにジャクソン・ブラウンの来日を知った時、
最初は「ふーん、来るんだ。」程度の反応だったのだが、
彼がすでに74歳となっていることを知り、
ひょっとしたら、これが最後の来日になるかもしれないと思ったら
間近で彼の音楽を聴いておきたいとの思いが急に募り始めた。
幸いにして、今は仕事量を調整しやすくもなっているので
この機会は絶対に逃せない、と東京での追加公演のチケットを
発売開始と同時に申し込んでいた。
それからの3か月。気後れしないようにと最新アルバムを中心に
現在のジャクソン・ブラウンの音楽を繰り返し何度も聴いてきた。
昔のように歌詞を覚えるまで聴き込めたわけではないが、
どの曲が始まっても楽しめる準備は整っていた。
そして、公演の当日。
開演を待つ列に並ぶ人たちのほとんどが私と同年代。
彼の音楽に共感した人たちが同じ世代にたくさんいたことをうれしく思いながら開演を待っていた。
コンサートの選曲は意外にも大半が初期の4枚のアルバムから、
私がもっとも熱狂した時代の曲がほとんどだった。
公演の始まりこそ、だれもが大人しく聴いていたが、会場は次第に熱気を帯び
終盤には私自身も立ち上がって、若い頃に聞きおぼえた歌詞を熱唱していた。
観客総立ちの中、2回のアンコールの後のこと。
ジャクソン・ブラウンは演奏メンバーはもちろん、
日本人の運営スタッフもステージに呼び出し、
「Thank You Tokyo!」と手を振りながら、舞台の袖に消えていった。
その後も鳴りやまぬ拍手の中。
コンサートが完全に終わったことを確かめながら
私もゆっくりと会場を後にした。
そして、渋谷駅への道すがら。
「最近、これほど熱狂した時間を過ごしたことがあったかな」と
高揚のあまり、いくつかの曲を口ずさむ自分を不思議に思いつつ、
さらにこんなことを思ったりもしていた。
終盤の会場のどよめきを思う限り、私だけでなく観衆の誰もがあの時間を楽しんでいた。
そして、ジャクソン・ブラウンもまた、あのアンコールの曲『ロード・アウト』の歌詞のように
日本での最後の公演を満足してくれていたらいいな、と。
Jackson Browne The Load Out/Stay
『ロード・アウト』
客席は空っぽ。
さあ、設営スタッフにステージを受け渡そう。
会場は取り壊され、荷造りが始まる。
彼らは最初にここにやってきて、そして最後にここを出る。
わずかな賃金で働いてくれて
そして、別の街でまた会場を準備してくれる。
今夜、観客はとても素晴らしかった。
ちゃんと列を作って待ってくれていた。
そして、立ち上がってショーを盛り上げてもくれて、
すごく心地よかった。
でも、今、僕の耳には観客が聞くことがなかった
椅子を片づける音やドアが閉まる音が聞こえているんだ。
片付けが進んで、最後のギターが仕舞われても
僕はまだ歌っていたいんだ。
だからピアノを片づけるのは待ってくれないか。
みなさん。僕たちのコンサートに力をくれるのはあなたたちです。
座って待つのもいいけど、僕たちを引っ張ってください。
僕たちと一緒に歌いましょう!
『ステイ』
みなさん。もう少しだけいてください。
僕たちはもう少し演奏していたいんです。
開催者だって気にせず許してくれるでしょう。
だから、時間をとってもう一曲歌いましょう。
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