学生時代のたわいない所業を思い出しながら、雑木林沿いの小道を歩き始めていた。
RICOH GR DIGITAL Ⅲ F5,1/32sec,ISO-130
友人との待ち合わせで、初めて降り立った東京郊外の私鉄駅。
駅の建物を出ると、すぐそばまで雑木林が迫っていて、その奥を眺めればうっそうと木々が繁っている。
さらに、駅のコンコースから遊歩道が整備され、雑木林の奥へと続いている。
「武蔵野だ!」 一瞬に心がときめいて、
約束の時間までかなり早く着いたこともあり、すこし歩いてみようと思いたったのだ。
都会にあこがれて東京の大学に進学したくせに、一方でビル街に垣間見える自然にも惹かれる。
そんな矛盾した思いのひとつが武蔵野への憧れだった。
東京に出て間もない頃だったと思う。
何かの雑誌で、当時の国鉄武蔵野線沿線には、武蔵野の面影を色濃く残す景観が残っていることを知った。
車窓からの景色を思い浮かべ、気持ちは逸ったものの、
西東京の府中から、浦和など東京に隣接する埼玉を横断して千葉の松戸まで、
都心からの移動も含めると100Km近く電車に乗ることになる。
つまり、当時の学生にとってはかなり高額な運賃が必要となるわけだ。
ところが、その記事にはその運賃を超格安にする裏ワザ的利用方法も記載されていて、
そのワザを使えば、ひと駅間分の料金(当時は30円)で武蔵野の景観を楽しめるとあった。
解説によると、駅間の運賃はその最短距離で定められるものだから、
どこを経由しようと、改札を出ない限り、その料金が適用される…という規定を利用すればよい、というのだ。
それを鵜呑みにした私は、水道橋駅で30円の切符を買い、隣の御茶ノ水駅へ武蔵野線を経由して向かうことにした。
水道橋駅から御茶ノ水駅へは、総武線の千葉方面行に乗れば、ひと駅なのだが、
まずは逆方向の三鷹方面行きに乗り、その後、中央線に乗り換え西国分寺駅を目指した。
そして、西国分寺駅で武蔵野線に乗り換えて、
目的だった沿線に広がる武蔵野の景観を存分に楽しみながら新松戸へと向かう。
新松戸からは常磐線に乗り換えて、その後、山手線、総武線と経由して御茶ノ水駅に至る。
途中、車掌が来たら、「なんて言おう」などとビクビクしながら、
2~3分で着く距離を、やがて半日をかけて移動したのだが、
金は無くとも時間ならたっぷりある学生にしかできないこと、
いや、今なら、学生すら興味も持たない奇妙な所業だったのかもしれない。
そんなことを思い出し、苦笑しつつ歩いた武蔵野の小道。
雑木林が揺れるたびにさす木漏れ日が眩しい午後のひとときだった。
The long and winding road / The Beatles
2013年にリリースされたNaked バージョンから
The Long And Winding Road (Naked Version / Remastered 2013)
「赤裸々な...」とあえてこだわったシンプルなバージョン。
ストリングスなど過度なアレンジを除いたシンプルな演奏がかえって心に沁みる。