折にふれて

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ふらり…と、

2019-10-14 | 舌づつみ

 

秋が深まると…、というか、冬が来る前に急ぎ訪れたくなる場所があって 

そこは白山麓の小さな山里にある一軒宿「ふらり」だ。

金沢の中心部から車で一時間ほどの距離。

一時間といっても都会の時間感覚とは程遠く

公共交通機関なら一日わずか数本のバスしかない、というほど辺鄙な場所なのだ。

豪雪地帯で、「人里離れた…」などと書くと、

「近くに民家もあるのだから」と叱られそうだが、

本当のところ、周辺を散策していて人に出会ったことはない。

元々自然派だったというご主人が金沢で料理修行をした後、

家族とともに移住して開業したのが10年前。

ご主人を知る人から開業の話を聞いたときは

「勇気が要ったろうな」と思わなくもなかったが

門外漢の取り越し苦労だった。

たいへんな人気で週末などは予約がなかなか取れないからだ。

 

そんな「ふらり」のこと。

宿といっても、古民家を改装した小さなしつらえなので一日三組で満員。

元々はずいぶんと古い民家だったのだろうけど、

部屋や食事処、浴槽などはしっかりと作りこまれていて

改装とはいえ、ゆったりと居心地のよい空間となっている。

そして、なんといってもその魅力は白山麓の恵みをふんだんに使った食事。

ご主人はしっかりと料理修行をしただけあって

新鮮な食材を絶妙な調理と美しい盛り付けで供してくれる。

そんな繊細な料理の一方で、

イワナの姿焼きや刺身、

白山麓で大きく育ったキノコや

自然の湧き水で作った豆腐など、

ご主人が厳選した自然の食材をただいろりで焼いて供するという

野趣あふれる大胆さにも感激する。

 

 

次々と出される料理に舌づつみを打ちながら、

ふと、「ガストロノミー」という言葉を思い出していた。

美食学と訳されるらしいが、

美味しいことはもちろん、

その土地に内包された歴史や文化を尊重し、

精神としても昇華させた料理を指すのだという。

料理を出すのは奥さんの仕事で、

必ずそれぞれの食材の謂れを話してくれる。

それは、近在でキノコを育てる人のことだったり、

もっと奥まった山里で作られた豆腐のことだったり、

清流に泳ぐイワナや鮎の話だったりもする。

そして、良い料理になるのはすべて湧き水がおいしいからだと付け加える。

そんな謙虚さとご夫婦の人柄に感心しながら思った。

すべてはこの10年が育んだ土地と人とのつながり、

それがふらりのガストロノミーなのだろうと。

 

 

 

 

 

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