「紳士用品売り場に行ってみませんか。」
そうFさんか連れの若い子に言われて、私達は、今ではもう何階か覚えがありませんが、下りは階段を下りて、紳士服の吊られて並んでいるコーナーへとやって来ました。
そうか、父に買って帰ってもよいなと、私は並んでいるズボンを物色してみます。なるほど百貨店だけに品が良さそうで柄も豊富でした。既製品の所謂吊るし売りされている商品なのでお値段は安いだろうと思いましたが、流石に百貨店、良いお値段が値札に付いていました。とても手持ちでは買えません。
「カード払いでもいいですよ。」
と、Fさん。カードは持っていないんですと私。実際に当時クレジットカードなど持っていませんでした。旅での私の支払いは、常に現金かトラベラーズチェックでした。
直ぐにFさんはもう1人の連れの所へ行ってしまい、彼女自身の買い物の物色も始めたようでした。私は商品を見てもとても手の出ないお値段に、手持無沙汰で当ても無くきょろきょろと売り場を眺めていました。そして、商品の向こうにとても垢抜けたハンサムな男性がいることに気付きました。
『ハンサムな人』、しかも結構若い男性です。と、もう1人ハンサムな男性が現れました。そうと気が付くと、それがあちらにもこちらにも何人も歩き回っています。如何も皆紳士服コーナーの店員さんのようでした。なるほどファッション関係に携わっているだけに、誰も彼も、皆ファッショナブルで洗練された容姿です。それが多国籍で雑多に配置されているようです。商品も従業員もえり好んで置いてあるのだなと感じました。そう気付くと、若くて身綺麗で、洗練されたハンサム揃いの売り場でした。
『きゃー、目の保養!』と、私はとても嬉しくなってしまいました。イギリスのバラの代わりにこんな良いものをゾロっとみてしまったのですから、こんな事もあるのだなぁと感嘆しました。こちらのお店の紳士服売り場は一見の価値ありの売り場です。女性必見ですね、可笑しな話ですが。
さて、閉店時間らしくてアナウンスと曲が掛かり、私達は慌ててお店から飛び出しました。入ってきた入り口と同じ扉から出ると、直ぐに後ろでドアマンらしい人にカチャリと鍵を掛けられてしまいました。私達が最後のお客だったようです。