Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 59

2024-09-17 16:52:58 | 日記
 住職さんは暗い顔付きになり、その表情は何やら煩悶しているのだが、私には彼のそんな状態その物が謎だった。その儘私達二人は暫く無言の儘だったが、見守る程に闇の深みへと沈み込んでいく住職さんの顔に対して、私の顔はどんどん元気を回復して行った。

 『喜怒哀楽以外の感情』、先程の彼の言葉が私の脳裏へと浮かんできた。すると未知の言葉に、私は次第に興味深々となってしまった。私は本堂を背に明るい大気に向き直ると、目をパチパチさせた。好奇心に富む明るい表情を浮かべると、『聞いてみようかな。』と思った。勿論住職さんにだ。そこで再び彼に向き直ると、私は物思う熱い視線を彼に送り始めた。これは、教えて教えてと言う、この世のあらゆる物に対する興味、向上心に富む童心から来ていた。それは何気無い日常、気儘な自身の普通の状態だった。知りたがり屋になる、私の年頃はそれで良いのだと思った。そこで私は頓着せずに、「喜怒哀楽以外の感情って、何ですか?。」と、問い掛けた。静々と彼の側に寄り、再びその質問した。だが、やはり彼は沈黙した侭だった。

 この時、彼は少し開いた扉の本堂の奥、中にいる人物を気にしていたのだが、私の方はそんな事はお構いなしだった。只、住職さんの顔が一段と曇り、遂には険悪な表情を通り越すと、鬼気迫る様な形相に変わった。ここで私は彼に畏怖を感じた。そこで頃合いを見量ると小さくそろりそろりと後退りした。『石段迄戻れるだろうか?。』、私がそんな事を考えて危惧していると、私のこの気配は住職さんに伝わったらしい。

 彼は行成私に視線を向けた。彼は何処へ行くんだと私に問い掛けた。もう帰りますと返事をする私だったが、彼は私の意に反して私を引き止めた。「もう少し此処にいなさい。」。

 その方が私も都合が良いのだ。住職さんは続けて私にそう言った。しかし事態の読めない私には何が起こっているのかと、尚更に奇妙に思う感情ばかりが湧いて来た。私の方は何方かというとこの場を離れたかった。時間の経過と共にそんな気持ちは募って来た。相変わらず住職さんは本堂の中を気にして言葉が無い。私は益々この場に居た堪れなくなって来た。今日のこの日の出来事等、何か知らずとも、如何でもよい事では無いか。遂にはそんな気持ちになった。

 「帰ります。」

姿勢を正し、住職さんにはっきりと聞こえる様にと、私はきびきびと声を上げた。すると、この日初めて彼は私に笑顔を向けて来た。「此処に居なさい。お前は人助けが好きだろう。」住職さんはそう言った。帰宅に向けて、既にスタート、用意、…の姿勢に入っていた私は、出端を挫かれた。

 予てより、私の父は「人助けせよ。」と、私に対して口にしていた。そこで私は常日頃、この言葉を肝に銘じていた。飛び出し掛けた私の足が一瞬止まった。『人助けか』、この言葉が私を引き止めた。この場は去った方が良い、この時私の直感はそう告げていた。判断に迷いながら私はその場で足踏みした。そうして半ば溜息を吐いた。私は一旦その場に留まった。が、また直ぐに二の足を踏みながら考えた。『帰った方が自分には良いのだ、でも、父の教えに従うべきだろうか?。』石段の前を行きつ戻りつ、横に数歩歩んでみながら私は決断を迫らた。

 「喝!」

雷だ⁉︎、私は身を低くして耳を覆った。一瞬閉じた瞼を開くと、私の位置より下方、石段横の地面迄降り立った場所に、不思議にも住職さんがいた。続いてガラガラ響く音に、雷だと確信した私は耳を覆った。住職さんも身を丸くするのが見えた。それにしても、彼はいつの間に、また何故?、本堂から離れた場所、しかも屋根の外に向かったのか、と、私には彼の行動が謎だった。雷鳴が轟けば、屋根の下、本堂の内に身を隠した方が得策と私には思えたからだ。

 その後も耳を塞ぐ私にガラゴロ音が聞こえたが、音は幾分小さくなった。ドンドンドン…、雷の音は遠ざかって行った。地面に降りた住職さんは頭上の様子を窺っている様だ。静けさが戻ると、彼はホッとした様子になり、程無く私のいる位置迄戻って来た。彼はやや決まり悪そうに頬を染めていた。そうして私の前に立つと相好を崩した。彼は茶目っ気のある瞳を輝かせると私に語り掛けた。「驚いただろう。」。

 私が大様に雷の話をすると、確かに、雷が落ちたなと彼は合点して見せた。そうして私の物知りを、ほほうとばかりに褒めてくれたが、その事に対して怪訝な顔付きをする私の顔に気付いた。彼は次第に私達二人の間に存在する意思の相違に気付いた。

 「雷親父」

知らない?、分からないのか。この年齢はそうか。住職さんは嘆息した。私達二人には又沈黙の時が流れた。この気不味さに、私は思い出した様に住職さんに尋ねた。喜怒哀楽の他の感情についてだ。すると住職さんは、雷親父を知らない私には話しても無駄だと決めつけた。


(想像出来た人もおられると思いますが、もう少し長くなりそうなので、一旦アップします。)

 

 



 

うの華4 58

2024-09-13 08:24:42 | 日記
 (さて、この話はこの回で最終回にしたいと思います。前回のうの華4の57回から長く経ちました。急な場面展開で御免なさい。)

 私は一人、何時も遊び場にしている寺の本堂前に辿り着いた。この場所での遊びが習慣になっているせいか、馴染み有る空気と風景に包まれ、目の前の建造物を目にすると、私はほっとして落ち着くのだ。今日はその安堵感を改めて感じた。数段の石の階段を登り詰めると、私は自分を確りと個として感じた。

 続いて私は一歩一歩、この寺のご本尊の納められている場所、御堂の入り口、その高所へと続く木製の、欄干に挟まれた古めかしい階段下へと近付いて行った。今日はここへ来る道すがら誰にも会わなかった。そして境内に入ってからもそうだ。この場所には人気が無かった。その代わり、境内はこの季節の樹木や大気、ごく一般的な自然の香と音で満たされていた。否、寧ろそれらは少ない環境状態で有り静寂だった。
 
 「お寺で一人らしい。」

私は孤独という物を感じもしたが、直ぐに頭を振ると、それも良いなと考えてみる。一人だと落ち着いて自分個人の思索に耽る事が出来る。私はこの時何の不足も無いと感じ、そんな平和を享受出来る自分の幸福を感じていた。将にそうだと私は思った。

 『何について考察しようか。』

階段に向かう足を止め、私は振り返りその場に佇むと、広い境内の内々に目を走らせて、これからの考察物、対象になる物の選別に入った。

 私があれこれと目を走らせていると、ふと何やら気配を感じた。何の気配だろうか?。ハッとした私はキリリと拳を握り、緊張すると直ぐにその場を離れて走り出せる様身構えた。その儘前方にキョロキョロと目玉を動かしてみる。視界には何も映ら無かった。それで私はホッとするとそれは気のせいだと思った。キュッと詰めていた息が洩れ緊張が緩んだ。私はホウッと息を吐いた。

 『まぁ立っている事も無い。』

今の緊張で私は疲労した。そうだ御堂の階段の縁に腰掛けよう。こう考えた私は緩やかに身を翻すと、今迄背を向けていた本堂へと歩み始めた。常より重い足を感じる。と、下の石造の階段の横、下方から前方に回り込んで階段を上がって来る黒い頭が私の視界に入った。私は思わず身構えた。

 常日頃誘拐犯注意の言葉が喚起されていた頃だ。私は逃げ腰になりながら、それでも注意深くその人物を観察した。それは背広姿の様だった。男の人だ!。私は身構えサッと緊張しようとした。が、直前同様の気合が咄嗟には入ら無かった。緊張という物は連続して出来ない様子だ。覚束無い肢体の私は霞そうな目でのみ対応するしか無かった。私は近付いて来る男を必死で観察しながら、只々『ここへ登ってこ来無いでくれ。』と願うしかなかった。私の動悸は激しくなり足もガクガクした。
 
 上着にズボン、男の人の姿はラフな正装という感じだった。変な人でも無さそうだ。私はやや安堵した。しかし、私がホッとしたのも束の間、次の瞬間、私の願いとは裏腹に彼は石段に向きを変えた。本堂に来る気らしい。その儘彼は一歩一歩階段を登ってくる。俯きがちな彼は暗い表情をしている様子だ。歳の頃は若者とは言えない様だ。遂に階段の上に迄来た彼は、私に向かい歩み寄って来る様だ。私は逃げたかったが、足が動かなかった。こうなると度胸を決めるしかない、と私は思った。

 「お前何をしているんだ。」

ハッとした声で、男性は今私に気付いたという調子の声で言った。「こんな所で」、「一人で」。どうやら私の事を知っているらしい。そこで私はよくよくその人の顔を見詰めてみる。すると、声の主はこの寺の住職さんその人だった。

 彼は普段と違う洋装をしていた。普段と勝手が違うので、私は目を上下させて住職さんを眺め回すばかりだった。そんな私に住職さんは、お前こんな所で…と、独り言の様にポツポツ続けた。「本当に、間の悪い時に、選りに選って…。」彼は嘆息した。私の方は不審な人物が住職さんだと安心すると、何時もの様ににこやかな笑顔を浮かべ、こんにちはと挨拶した。

 が、この時の彼は子供の相手をする所では無かった。

 「本当に間の悪い子だ。最初の時といい、今といい。」

住職さんは頗る加減が悪かった。「私がこんな状態の時に此処に居合わせるなんて。」住職さんは黙として口を閉じると寡黙になった。そんな彼に私は愛想よく言葉を掛けた。子供というのはそんな物かもしれない。その後の遣り取りは私が一方的に進めた。不機嫌が私のせいなのかと思い尋ねてもみた。違うと分かると、住職さんの不機嫌な理由を尋ねて、その機嫌の悪さが気持ちの落ち込みだと察すると、彼を励まそうとした。あれこれと話す私に、遂に住職さんは言った。

 「私は怒っているんじゃない、悲しんでもいない。」

只、…。彼は言い淀んだ。

 「世の中には『喜怒哀楽』以外の感情がある。私は今その感情に囚われている んだ。」

きどあいらく、私は何日か前に父から聞いたこの言葉を思い浮かべた。喜び怒り悲しみ愉快、楽しい事さと、人の感情はこの四つに大別されるのだ。と父は教えてくれた。少しは分かりそうな気がする私だったが、はて?、それ以外と言うと、ここで私は行き詰まった。私の理解の範疇を超える事態に直面した。

 (短く纏めたかったのに、長くなったので、次回で最終話にしたいと思います。)


暑い日が続きます

2024-09-05 09:46:33 | 日記
 本当に近年は暑い日が続く7、8、9月です。今夏は汗疹に悩ませられる歳周りとなりました。頭の中も痒いので、スッキリとショートカットにしてきました。洗髪がし易くなりました。そして、見た目高齢者スタイルの定番になった感じがありありです。

 さて、長休みしがちな私のブログ。今年ももう9月に入り、そう大した実績を残さずに過ぎてしまいそうです。うの華も途中だし、エッセイもポツポツUPです。少しずつ纏めて行きたいと思っています。
 
 今日はこのページに来ています。こようと思えばすぐ来れるのに。不思議と足が遠ざかってしまいます。ここでふふっと、この表現で良いのかしらと思ったりしています。書き物なので、何かしらの手先表現がないかなと考えたりするのです。手が止まる、筆が止まる、目前で何をどうと考えているとそうですが、短期長期にお休みしがちな書き込みだと、休稿を使ったものかしら?。スランプ中とか。

 まだまだ未熟ですが、気ままに書いている私です。本も良いですが、編集は疲れます。ぽつぽつですね。少し涼しくなって、意欲が湧けば、また何かしら書きに来れると思います。