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岩波講座 『天皇と王権を考える 2 統治と権力』 2002 岩波書店 その1

2013年03月18日 | 王権

 岩波講座 『天皇と王権を考える 2 統治と権力』 2002 岩波書店 のピックアップ。樺山紘一の序論も入れて13本の論考。「王権の地位と権力は、現実の統治行為のなかで、どのように観念され、実際に機能するのか」 その1では、樺山の序論のコメント収録

2巻  統治と権力
国王・天皇の地位と権力は,現実の統治行為のなかで,どのように観念され,実際に機能するのか.地位の根拠とその継承の論理,「戦う」「裁く」といった王の機能と行動,王を取り巻く貴族層のあり方,宮廷の構成,また植民地統治,帝国統治をめぐる問題まで,多面的な切り口から,王権・天皇制の骨格に踏み込む論点を提示する。

樺山紘一 「序論」  
1 王という人格   2  王という実在   3 統治の集団と機構  4 集約と服属の原理 5 本巻の構成 

1 身分と行動
   
鈴木正幸 「天皇大権とその内実」 

 はじめに  1 帝国憲法と憲法諸法案の天皇権    2 帝国憲法における天皇・政府・議会  3 国民の天皇統治権理解とその変化   4 憲法外大権をめぐって  5 おわりに                       

青木 康 「議会政治と立憲君主ーイギリス近代」

はじめに   1 君主と議会    2 18世紀の議会政治と君主   3 君主の私事  

おわりに

2 機能と行動
                                                                                 
和田 萃 「神器論ー戦う王、統治する王」  

1 戦う王、統治する王  2八咫鏡と草薙剣  3 小結

 
佐藤彰一 「戦う王、裁く王 ー西ヨーロッパ初期王権論」

 はじめに    1 移動と戦争ー東ゴート王権  2 定着と奉仕ーフランク王権  3 聖化と地上の権威ーカロリング王権  おわりに
3 競合と連繋

本郷恵子 「公家と武家」

はじめに  1 院政の成立と武士の出現   2 保元の乱から平治の乱へ  3 平氏政権の成立  4 王権の論理  5 鎌倉幕府の成立 ー後白河から後鳥羽へ  6 当事者主義の圧力

土肥恒之 「近代の閾に立つツァーリ権力ー17世紀末のロシア」
はじめに  1 新旧潮流の交錯  2 「二人のツァーリ」と摂政ソフィア  3 17世紀のロシアの宮廷と「地方」  結びに代えて  

4 永続と断絶

新田一郎 「継承の論理ー南朝と北朝」  1 「傍証ノ疑」の起こる時  2 論理としての「反正」 3 歴史といての「継体」  4 「天皇家」の成型   むすび

松浦義弘 「フランス革命と王権ー王の身体表象の変化を中心にして」  
はじめに   1 復古王政期における王の表象  2 アンシャン・レジームにおける王の表象  3 フランス革命における王の表象   4 「王党派」における王の表象   おわりに
5 宮廷の構成

久保貴子 「近世天皇と後宮・側近」
はじめに  1 霊元院期の朝廷   2 「院政」不成立期の朝廷  3 おわりに

岸本美緒 「皇帝と官僚・紳士 ー明から清へ」   はじめに  1 「専制権力」のパラドックス  2 皇帝権力をめぐる議論   3 明から清へ   おわりに

6 内から外から 


尹 健 次 「植民地と天皇制」   1 植民地支配と民族問題  2 日本のアジア主義  3 朝鮮の「文明化論」の落とし穴   4 植民地支配の論理と天皇制イデオロギー  5 朝鮮知識人の思想的苦悩

鈴木 薫  「帝国の異文化集団支配ーオスマン帝国の場合」  1 政治単位の諸タイプと異文化集団間関係  2 イスラム世界における異文化集団支配の伝統  3 オスマン帝国における異文化集団支配  4 ナショナリズムの衝撃と伝統的システムの解体

 

このうち、5世紀の倭王権を考えるのに役立ちそうなものは 私には

樺山紘一 「序論」 

和田 萃 「神器論ー戦う王、統治する王」 

佐藤彰一 「戦う王、裁く王 ー西ヨーロッパ初期王権論」

松浦義弘 「フランス革命と王権ー王の身体表象の変化を中心にして」 

 

などであった。

樺山紘一 「序論」については

「わたしたち歴史家は、しばしば次のような言説をおこなう。かくかくしかじかの国王は、ある法令を発したと、あるいは、ある王は戦争をおこしたとか。だが、その法令とか、戦争は、はたしてほんとうに一人格としての国王が、決断し執行したものだったのであろうか。それとも、その行為が、たんに、特定の王の名義によって遂行されたために、そのように指称されているだけのことなのか。歴史家は、この設問に対してあまり熱心に答えてこなかったよようにみえる。人格としての王が、決断したのか、あるいは王の名をかたる権力保持者たちが、恣意か、悪意かによって、そのように行為したのかという点について」

「王が、かりにみずから政治上の決断や、行動を行わなかったとしても、その名を体現した特定の集団や組織が実行力を発揮したはずである。問題はその形態や機能を実情にそくして解明することである。」

                                                            (1ー2p)

 「国王は現実の統治業務にあって、その真価を問われる局面があった。典型的には、王の戦闘能力、もしくは戦闘指揮能力である」 (p4)

「歴史上、国王はまた、「裁く」王でもあった。多くの歴史社会や現存する部族社会にあって、王は、国内における最高の裁治者として行動している。かりにみずからが立法者でないにしても、あるいは、明確な立法をおこなわないからこそ、司法上の最終決着は、王にゆだねられるといってもよい。(p4)

統治の集団と機構

「国王の統治は決して王個人によってのみ完遂されるものではない。統治主体の構造や、機能の具体的な分析が求められるゆえんである。」

「国王とは、何にもまして王室もしくは王族の総称である。王と妃、王弟ほかの血族と姻族と、統治のための集団を形成している。しかも多くの場合にあっては、権力が分割された上で、王室により保有されるのではなく、宮廷という名の共同空間のなかで共有され、執行される。その様態についての分析は、多様な成果を産み落とす」

「王権の名のもとに構築される統治機構の全容が、問題となる。・・軍備制度、財政制度、地方制度といった歴史を貫く共通項目から、・・・議会制度に至るまで、諸統治機構は、いずれも王権を正当性の根拠としつつ、時には独自の行動をとる。それが、王権に寄生しつつ、自己の利益を追求する場合もあり、また明確に王権と対抗を意識しながら、しだいにその権力基盤を拡大してゆくこともある。」

「王権の叙述にあっては、専制や独裁といった、皮相の観察に終始しがちであったり、あるいは王権の弱体をいいつのるあまり、王政に固有の人間関係の重みを軽視しがちである。こうした欠陥を回避するためには、王権を実際に発動させる集団をめぐる、より広範な人間関係を考慮に入れざるを得ない。」 (6ー8p)

 

などが印象に残る。倭国の王権の分析、古事記・日本書紀の読みにも使える視点であると考える。

しばしば倭国の4世紀末から5世紀・6世紀の王の系統が、変更されるが、たとえば対高句麗戦争の倭の敗退にあたり、王の交替あるいはある王統を推挙していた、王権を支える有力豪族集団の変更があったのかどうか。その際の、有力豪族集団の連合、文献史的にいえば、統治集団であるとされる、大連・大臣(前夫制)などの機構への影響・関係、王妃を出す姻族の政治への関係など、新たな視点が開拓できそうである。

ある王権の「専制 ・独裁・ 衰退」などを口にして、単純化する前に、王権の大切な能力として要請される「戦争指揮能力」 について、具体的に、王と統治集団・姻族などのからみあいを含めて解読できる動態分析を進めねばなるまい。

 

(この項続く) 次は 和田 萃 の 「神器論ー戦う王、統治する王」 のピックアップ。

 

本日はここまで。

日録備忘録

本日 九州福岡 葦書房より3月13日注文の2冊届く。 

1981年1月 『史林』 64巻1号 湯浅幸孫 「倭国王の上表文について」 収録

1992年3月 『古文化談叢』 第27集 岩永省三 「日本における階級社会形成に関する学説史的検討序説 (2)」 収録 

このほか、この号には、川西宏幸 「同型鏡の問題 画文帯重列式神獣鏡」 小田富士雄 「日本における武寧王陵系遺物の研究動向」 ほか1991年3月13日、九州大学で「中国考古学の回顧と展望」と題する講演の岡本秀典による翻訳も収載され、1950年中国社会科学院考古研究所設立以来、中国考古学の40年の歩みが整理されていて、中国考古学に疎い私には便利。しばらく楽しませてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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