![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/6d/a16d4dee23177119e7a011dc27a9db5c.jpg)
▲ 『トルーマン回顧録』 1・2 恒文社 1966年 定価当時1800円×2
『戦後アメリカ大統領回顧録』 の余白に
『トルーマン回顧録』 1・2 恒文社 1966年 その1の1
戦後のアメリカ大統領のうち、引退後も健在で、理路整然とした『回顧録』をきちんと残しているように見えているひとたちは確かにいる。けれども、歴史資料を提示したり、典拠をあげて回顧録をつくり、読んでみたいと食指が動きそうなのは、『アイゼンハワー回顧録』くらいしか思い当たらない。(このような感想も、大統領府を取り囲むプロパガンダ作戦の効果なのかも知れないと疑ってみる必要もあるのだが)
では敬意を払いぜひとも読んで見たいと思えないのに戦後アメリカ大統領の回顧録をなぜ読もうと思うのか、と言えば、アメリカ政治が、国内だけの問題ではなく、いつも世界に強い影響力を及ぼし、また、時には厄災を振りまいているからなのである。言ってみれば、回顧録をその影響力の巨大さや、厄災の痕跡や証拠、プロパガンダとして読んでみたいという関心があるからなのなのかも知れない。
ウォーターゲート事件の後、ニクソンの回顧録が自己弁明のように見えたことはいたしかないと見えるが、なお、今日ではニクソンの醜態をさらさせ、大統領府から引きずり降ろしたのは、「ワシントンポスト」の二人の記者だけではないのは確かなようである。次なる利益をもくろむ、共同謀議として読む必要があるほど、アメリカの大統領は「お飾り」でしかない可能性がある。(レン・コロドニー&ロバート・ゲトリン著 『静かなるクーデター』 1993年 新潮社 は そのことを示唆していた。)
いわゆる、「得をしたやつが犯人だ」、あるいは、「生き残って権力を影で操っているものが真の犯人グループだ」ということである。
これを、偉大なる「アメリカのジャーナリズムの勝利、やアメリカの民主主義の自浄能力」として賛嘆の嵐に飲み込まれてしまってはならないはずである。
元「ワシントンポスト」の記者だったバーンスタインは「メディアにはアメリカ中央情報局や軍から送り込まれた多くの情報提供者(スパイ)がいる」と言っていたはず。
大統領の回顧録を彼自身の時代認識、として読むことは大事ではあるが、またその時代のイデオロギーや解釈や宣伝として、「プロパガンダ」資料としても読んでもいきたいからである。
だから回顧録を1冊のまとまりのある作品として扱うこと自体が、シナリオ通りの「思うツボ」の罠に嵌るのでは?と留意することが必要と思われる。
2014年にオリヴァーストーンと、ピーター・カズニック共著の本『オリヴァーストーンが語る もうひとつのアメリカ史』 早川書房 2013年 を読んで、教科書では教わらなかったもの、またこれまで語られなかったあるいは語られてはいたが、一般国民には伝えられてこなかった史実が、おびただしくあったことを教えられたのである。この2人よって、再構成された米国20世紀史と戦後史を理解するための、「大統領の回顧録」を補助史料として利用してみようと思うのだ。
アメリカ史の基本的な基礎史料では、日本語化されたものでは『原典アメリカ史』 岩波書店 現在まで全10巻があり、建国以来の最重要史料はここに収録されている。
『原典アメリカ史』 岩波書店 現在10巻まで刊行中
「大統領回顧録」は戦後アメリカ大統領の在任時代の自己理解の共同作品であるとも言える。書いたのは、大統領ももちろん含むが大統領補佐官その他のゴースト・ライターも含めた多数の大統領府とりまき共同利益共同体の実作者特定不可能な総体なのである。そう思って読めば、その時代の自己理解の姿は不完全ながら表現しているわけで、これを、「イデオロギー&プロパガンダ史料」として利用しない手はないのである。
ルーズベルトは急死したので、回顧録は残していない。歴史家や、ジャーナリストなども動員して、ルーズベルトの時代は回顧録とは別に回顧しなければならないだろう。
戦後のアメリカ大統領で回顧録を残しているのは青色で記した(日本語訳のあるもの)
ルーズベルト(在任中死亡で回顧録なし)
→ トルーマン
トルーマン回顧録 (今回紹介)恒文社 1966年
→ アイゼンハワー
アイゼンハワー回顧録 1・2 1965年 みすず書房 当時定価1700円×2
→ ケネディ(暗殺により回顧録なし。しかしケネディ家の依頼で作られた、ケネディの死に至るまでの記録にはウィリアム・マンチェスター 宮川毅訳 『ある大統領の死』 恒文社 上下2巻 1967 がある。)
ウィリアム・マンチェスター 宮川毅訳 『ある大統領の死』 恒文社 上下2巻 1967
→ ジョンソン (晩年疾患のため回顧録なし?)
→ ニクソン
ニクソン回顧録全3巻 画像は2巻目 小学館 1979年 原著は1978年刊 当時定価1600円×3
→ フォード
フォード回顧録 サンケイ出版 1979年
→ カーター
カーター回顧録 上巻 1982年 日本放送出版協会刊 当時定価1700円×2
→ レーガン(疾患のため回顧録なしか?) → パパブッシュ(回顧録なし?) → クリントン(『マイライフ クリントンの回想』 2004 ) → ブッシュJR (『決断のとき』 2011?) → オバマ → ?
(クリントン以下は未読 戦後大統領の先の回顧録紹介終了後に購読紹介予定)
これまでのところ歴史的評価を受けているのは、アイゼンハワー大統領のものが先の大戦からの記憶も豊富で、今でも再版されているところからすると読まれているようだ、みすず書房では、2000年に新装版を出している。定価3万円を超えているので、私は、旧版の方の2冊を揃えようと、まず、1巻目を古書店で入手。2巻目は古書店に出るのを待つこと7・8年、未だに2巻目は単独で古書店市場出ないので入手していない。それでは待てないと、基幹の公共図書館で借用して必要部分だけでも複写しようと試みている間に、なんと3・11の大震災が起き、後半部の読破はできないまま、図書館に返却してしまうことに。相変わらず、完読が未了のままになってしまっている。この本は縁のある本になってしまった。
以前、ケネディ大統領関係の資料を集めて読んでいたとき、アイゼンハワー大統領の退任演説のいきさつを、回顧録ではどう書いているのか、気になり、借り出した記憶がある。もう数十年も前のことである。
『アイゼンハワー回顧録』の2巻目を入手してから、「戦後アメリカ大統領」回顧録のいくつかをシリーズで紹介しようと思っていたのだが、2巻目入手には、上下揃いで買うしかないような状況で、今しばらくかかりそうなので、順不同で、『トルーマン回顧録』から先に紹介していくことにする。
『トルーマン回顧録』 1・2 恒文社 1966年 は、出版から50年近くも経ち、日本では冷戦期の問題について関心のある人はともかく、トルーマンをこれから調べようとする一般人はほぼ稀なことだろう。従って、『アイゼンハワー回顧録』のように版元から新装再出版というのはありそうにない。それに恒文社は、最近新刊書を出したという話は聞いていないのでどうなっているのかわからない。一度倒産しているので、再版はされないだろう。
公共図書館にまだあるなら、、『トルーマン回顧録』を読んでみるかという、絶滅危惧種のような貴重な人々・奇特な方々へ向けて、この本の、詳細目次を掲載しておきます。
トルーマンやそのほか、政府要人は、原爆投下の後、時代が下れば下るほど、原爆投下により、日本の戦争を終わらせるために戦闘で犠牲になるはずの米国軍隊の(仮想)戦死者数を増やしていったと言われているのはご承知のことと思うのだが、私もこのことに関心があった。
オリヴァーストーンと、ピーター・カズニック共著の本『オリヴァーストーンが語る もうひとつのアメリカ史』 早川書房 2013年 では1巻の365頁から366頁にかけてこう記述している。
『オリヴァーストーンが語る もうひとつのアメリカ史』 早川書房 2013年
「連合国の勝利は原爆によってもたらされたものであり、原爆のおかげでアメリカが侵攻するまでもなく戦争が終結し、何十万人というアメリカ人の命が救われたという神話が、トルーマン、スティムソンその他によって広められた。」
「1991年、ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ元大統領(パパブッシュ)は、トルーマンの「何百万人というアメリカ人の生命を救った・・・・・・・・用意周到にして不屈の決断」を擁護したほどだ。」
『オリヴァーストーンが語る もうひとつのアメリカ史』 (366頁)
では、1956年の『トルーマン回顧録』 では、原爆投下のことに関わる章で、原爆が救った米国軍人戦死者数は何人としているだろうか。
「6月18日 グルー(国務長官代理)・・・・沖縄作戦の終末と同時にその宣言を発表するのがよいというのに対し、軍首脳は、本土進攻軍が、実際に進攻し、敵の抵抗にぶつかった直後がよいと主張した。」
「そこで、対日宣言の発表(日本に降伏を勧める進言のこと)は、来るべきポツダム会談の折りやるべきであると決心した。・・・・・・そのときまでにまたつぎの二つのことがはっきりしてくるだろうと思われた。第一はソ連の参戦、第二は原爆の効果であった。われわれは原爆の方は七月半ばに、第一回テストができることを知っていた。もしこのテストが成功するならば、この新しく獲得した武器の力を使用する前に、戦闘をやめる機会を日本に与えたかった。テストが失敗に期した場合は、直接日本を征服するよりも、その前に降伏させるようにするのが、もっと必要であると考えた。マーシャル将軍は敵本土に上陸して屈服させれば、五十万の生命を犠牲にすると語った。」
「しかし、テスト(原爆実験)は成功した」
『トルーマン回顧録』( 296頁~297頁)
1956年トルーマンは、この回顧録で、マーシャル将軍が語ったこととして、日本を屈服させるのに、日本本土上陸により米国軍人50万の生命が犠牲になると記している。
その後パパブッシュはトルーマンの原爆投下を評価した上で
1991年 原爆投下は、何百万人というアメリカ人の生命を救ったと言った。
歴史にもしも、は、ないのだが、ルーズベルト大統領が、彼の推薦通り副大統領を、それまでのヘンリー・ウォレスのままにしていたなら、ルーズベルトの急死の後には、トルーマンではなく、ヘンリー・ウォレスがアメリカ大統領になっていたのである。彼のそれまでのニューディール時代から引き継ぐリベラルな政策からして、原爆の日本投下はあり得ず、そして冷戦は存在していなかったかもしれない・・・・・という夢想が心の片隅に残る。
ヘンリー・ウォレスという人物に対する興味は、戦後初期の石垣綾子の米国日記にも記されていて関心が湧いたのだが、オリヴァー・ストーンが上に上げた著書で大変評価していることもあり、トルーマンとヘンリー・ウォレスの確執のことも調べてみたい誘惑に駆られる。このあたりの史料まだ私は読んでいない。
▼ 『トルーマン回顧録』 1 恒文社 1966年 目次
▲ 『トルーマン回顧録』 1 恒文社 1966年 目次
▼ 『トルーマン回顧録』 2 恒文社 1966年 目次
▲ 『トルーマン回顧録』 2 恒文社 1966年 目次
今やアメリカという破綻帝国・国家・宗主国に、従順についていくのは、日本のみの状態になってきた。
2015年は、アメリカの孤立と衰弱が世界的に可視化される年になりそうである。
4月末の安倍の米国議会講演、安保法制、沖縄基地問題 何を密約してくるのか。
以前に紹介したのだが、在日米軍への日本の受け入れ支援額と米軍1人あたりの支援額の比較をした表がある。米軍駐留を認めているドイツほか、他の国家と比べてみると、前にも引用したことがあるのだが、日本の異常な支援のサービスぶりなのである。1人あたりではドイツの10倍以上の支援をしている。アメリカは異様なほどの金額の支援を受け、宗主国としてのサービスをもらい、その上日米合同協議で、こうしたいと要求する。また日米地位協定では、最終的には要求を受け入れる片務的な諸関係が基本であり、日本国憲法の上位に位置する旧植民地的条項であることは疑いようがない。「何を密約させられてくるのか」について注目していかねばならないだろう。
▲ 久江雅彦 『米軍再編 日米「秘密交渉で」何があったか』 2005 講談社 21頁
▼ 以下は2015年4月1日 発行 岩波書店 臨時増刊号 「沖縄 何が起きているのか」の目次
▲ 岩波書店 『世界』 2015年 4月 臨時増刊号 「沖縄 何が起きているのか」 定価1080円
▼ 目次
今日はここまで
続く