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南北アメリカ史再入門 の入門 入り口はあるのか  その1

2013年10月04日 | 中南米・カリブ海・キューバ革命・ゲバラ

  ▲ 歴史学研究会 編 『南北アメリカの500年』 全5巻 青木書店 1992~1993年刊行

下の『アメリカ史研究入門』にも参考文献として紹介されていたもの。

 

2009年『アメリカ史研究入門』を書店の新刊書コーナーで見かけ、退職後の世界史の再入門の参考資料にしようと買っていたのだが、ようやく、震災後の本の片付けが少し進み、バラバラだった本もまとまりができてきた。1980年代後半くらいから、90年代初頭までは、ぽつぽつアメリカ史の本とか、翻訳のあるボルヘスの小説などを読んでいたのだが、湾岸戦争以降、「怒り心頭に発した」といおうか、かくも世界の警察を自認する傲慢さはアメリカの国家形成の歴史そのものに何か起因するのか、とても気になっていた。気になるどころか、暴発の火の粉もかぶる気配すら出てきた。いやおうもなくアメリカ精神形成の不思議さと暴力に向き合わざるを得ない。

 

南アフリカのネルソン・マンデラ 1997年の言葉

「なぜ傲慢にも、どちらへ行くべきか、どの国と友好関係を結ぶべきか、われわれに指図できるのだろう。・・・一つの国が世界の警察としてふるまうことを、われわれは受け入れることができない。」

              ワシントン・ポスト 1997年 11月4日

 

このようなマンデラがきびしく非難したような、傲慢かつ行動的な 「明白な天命」 とも呼ばれていた 国家意識、世論形成はどのような道をたどったアメリカの歴史から形成されてきたのだろう。

このことがアメリカに関する一番の関心事、これが分かればこの病から抜け出る治療法も見つかると思うのだが。 

 

 

 ▲ 有賀夏紀・紀平英作・油井大三郎編 『アメリカ史研究入門』 2009年12月 山川出版社 

最近 のアメリカ研究の動向を網羅した入門書

といっても、アメリカ史の門外漢の私には、今度の第2版の巻末の参考文献の多さには、ちょっと圧倒された。ネット収集出来る資料案内は便利。

1970年代から80年代初頭までのアメリカ史入門書は、時代の潮ともいうべき「アメリカ帝国主義批判」の趣が強かった。

新版では時を経てそれぞれの研究分野が深く専門的になった分、

「で、それを通して見えたアメリカ分析を、通して見えるアメリカと私はどう向き合うか」 

「研究する私の、立ち位置は何」 というのが、かなり霞んでみえた。

その昔外務省の日米安保担当職員が、「読んでおくマニュアル」風の小冊子があったそうで、

そこには

「アメリカが日本を守ってくれるかなどという疑念をもつこと自体、アメリカに対して失礼である」

という文言が刻まれていて、かつて外務官僚時代の天木直人がそれを読んで驚いたそうである。

先入見を極力排し資料にあたることは、研究者として、基本態度であるだろう、この本はアメリカ研究者の層も格段に厚くなって、優秀な研究者がしのぎを削っている本だなと思う。 でも

 「アメリカに失礼のないように、ことばと心に留意しすぎてはいないだろうか」 というのがこの本から受ける率直な私の感想だった。

ネオコンの思想と空の帝国主義批判を並列に扱い、予防戦争という(珍)概念を軍事思想にして通時的に扱うのは、すでに現実にアメリカに存在するものの記述であり、アメリカの自己理解の仕方として、別にめずらしいものではないのだろう。

さすがに自国を帝国主義として自己理解し、諸外国にも理解を求める国はないと思われるが、今や、帝国ということばを否定的にとらえてはならないような論調がアメリカや、アメリカ研究者の中にあるのであろうか。だから、これまでのアメリカ批判は「古典的帝国主義論」という名前でひとくくりにされ、過去の遺物・や遺跡のように扱われる。

アムネスティの活動家や、ネルソン・マンデラは、古典的帝国主義論者なのだろうか?

すでに1996年の段階でアムネスティ・インターナショナルは声明を発表していた。

「世界中で、毎日毎日、政府や武装政治集団の手により、男性や、女性や子供が、家を追われ、拷問を受け、殺害され、「失踪」している。多くの場合、米国はその責任の一端を担っている」  『ヒューマンライツ & US セキュリティ アシスタンス 1996,p1』

歴史を読むということは、歴史を創るということと密接不離なもの。倫理行動マニュアルを作ってくれと頼むことは無意味であろうが、専門のたこつぼに陥らない保証はどこにもない。

どうも私は、60年末・70年代から80年代初頭の頃の、清水知久や『アメリカ・インディアンの歴史』を書いた富田虎男などが呼び覚まさせた 「帝国批判としてのもうひとつのアメリカ史」の熱気にいまでも浸っているのかもしれないが・・・・

「予防攻撃」という新?発明の厳然とした史実に、軍事思想の変遷という視角で語られる雰囲気、また、「9.11の同時多発テロ」ということも、まだ検証が終わったわけでもないのだが、9.11事件が次なる軍事政策や外交の変更の根拠とされ、現代のアメリカが要約される。

アメリカの政策批判という視角では、チョムスキーや、チャルマーズ・ジョンソンらの意見を紹介しているが、批判の紹介はそこまでである。

これには不満が残る。

例えば世界外交の分析で鋭い論説をインターネットで発信している日本の田中宇は、9.11事件直前、当時パキスタンのISI(アメリカの中央情報局にあたる)長官だったマフムードと言う人物が、アメリカに行き、アメリカの国防幹部と相談していること、また彼の命によって、9.11事件の実行犯だったとされるモハメド・アッタにパキスタンから10万ドル送金している事実に触れ、9.11事件後長官職を追われたという報道を紹介していた。このような事実は、田中宇によれば、複数のメディアにより、報道されているので、事実とみてよいとしている。 田中宇 『アメリカ「超帝国主義」の正体』 2003年6月 小学館文庫 21頁~23頁

▲ 「目から鱗」 の 田中宇 『アメリカ「超帝国主義」の正体』 2003年6月 小学館文庫 当時定価 514円+税

この本は、こっそりと文庫に書き下ろされ、初版完売後はどうも増刷された気配がないようだ。

この本は平積みになって、書評も、また通常の版型で出して欲しかった。外交研究家や、アメリカ研究者は読んでいるのだろうか。陰謀論の閉架書庫にしまわれるか、大量に買い占めされ、裁断され焚書処置されてしまったのではないかと思われるほど市場には行き渡らなかったのではないか。どうもこの本の市場での消え方は尋常じゃないと見える。古本屋で見つけたらすぐ購入だ。日本人の書いた9.11以後のアメリカ現代史はこの本をおいてないのじゃないか。9.11事件はどこか海外の推理作家の「小説」「絵空事」じゃないことが、豊富な資料提示の検証から割り出す。

 

パキスタンのカラチニュースによると

「パキスタンのマフムード長官は911事件が起きる1週間前の9月4日からワシントンを訪問しCIAのテネット長官のほか、国防総省やホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)の要人たちと相次いで会合を持った。マフムード長官は、そのころ、3ヶ月間に2回、ワシントンを訪問しており、それまでISI長官の訪米はめったになかっただけに、大きな緊急の課題があるのではないか、という憶測がパキスタンの新聞に載った」 田中宇 『アメリカ「超帝国主義」の正体』22頁~23頁

また田中宇は同じところで、アメリカとパキスタンのことについて触れ、以下のように書いている。

「アメリカとパキスタンとは、以前からの同盟国である。パキスタンの諜報機関ISIは、アメリカの諜報機関と昔から親密な関係があった。ISIはパキスタンの国家組織の中でも特に強力な組織である。2002年5月6日に「タイム」誌の記事によると、ISIはパキスタンの「影の政府」「政府内政府」であるという。パキスタンでは、首相や大統領でさえISIが何をしているか、把握しきれていない部分がある。」 田中宇 同書 22頁

 

パキスタンの大手新聞 dawn ドーン」

CNNテレビ 2001年10月6日報道

タイム 2002年5月6日

ロサンゼルスタイムス 2002年1月23日報道 

などにパキスタンからのアメリカのモハメド・アタへの送金のことが報道されていた。

タイム誌がパキスタンに2002年1月の時点で「裏政府」・「政府内政府」があるとみているなら、当然、パキスタンに援助を惜しまない指導国である自国アメリカにもこのような闇の政府があるのかどうか自問すればよいし、自問しなければならないと思うのだが!?

タイム誌のこの報道の事実確認からすれば、9.11の捜査は、自爆犯人であるとされる足取りを追うだけでなく、パキスタンの「裏政府」 「政府内政府」 またそれを指導しているアメリカ政府にも問いを向けるべきであったと思うが。「裏政府」 「政府内政府」とは何?パキスタンにあって、米政府にはない?パキスタンの「裏政府」「政府内政府」があると認識しているなら、パキスタンが軍事費ひとつとっても単独で機能している国家ではない。巨大な経済援助費、軍事費をアメリカが支援している。国家との関係も「裏政府」「政府内政府」と関係がないと言えないであろう。タイム誌は、はからずも「裏政府」」「政府内政府」の存在を裏付けてしまったようである。

残念ながら、「9.11同時多発テロ」という用語・用法が『アメリカ史研究入門』の総説にあることは賛成できない。

まだ、9.11事件は謎の多い巨大な未解決事件であると私は考えている。真相の究明はこれからのはずではないだろうか。

すでにかつて『ベトナム秘密報告』 のリーク文書には、政府・国務省からの政策遂行方針からも離れて自由に動きまわる現地裏組織の活動が記録されていたではないか。

これでは、社会的地位を捨て、エルズバーグが命を賭して、「ベトナム秘密報告書を」持ち出したことの意味と価値が、全く水泡に帰すことではないだろうか。数十年間の間に、政府の報告書に隠されたものの厖大さの裏読みも一切しない研究者が誕生したということだろうか。

内田樹のいう通り、「だれも見張っていないところに歩哨をたてて見張らない」と、政府は簡単に腐る。秘密を監視しないと、いつでも腐る。

 

  ▲ 世界のエリア別事典 『アメリカを知る事典』 1986年 平凡社 本体4000円

随分昔買ったなぁと思っていたが、やはり、奥付の発行年は1986年。27年たっていたのか、1冊でアメリカをカバーしていたので重宝していた事典。第2版も2000年頃でているようだが買っていない。

大修館から『事典 現代のアメリカ』 2004年が出版されているので、最近はこちらの出番が多くなっているが、平凡社の事典は署名入りの小項目なので、今でも、古い時期の事項は使いやすい。インターネットのウィキペディアは、無署名で、独特のイデオロギーのフィルターがかかっているのがある。ネット右翼が操作しているらしき痕跡のもあるので、そのまま使うのは禁物。やはり署名入りの項目は安心できる。

『アメリカを知る事典』 には参考書目がなく、残念だった。新訂増補版では、文献目録がついているのだろうか。

 ▲ 『事典 現代のアメリカ』 2004年 大修館書店 価格16000円+税

価格が少し高かったが、購入。退職した今では、定価1万超の書物はタブーにちかい。事典類も10年経つと、古びるものが出てくる。事典 現代のフランスの例からすると、このアメリカ篇も、今頃、増補改訂版の企画が持ち上がっている頃かもしれない。

 

 

 

  ▲ 『ラテン・アメリカを知る事典』 1987年初版 平凡社 

当時 定価5500円これには参考文献がついていて、80年代後半までのものが収録されている。私の関心も仕事柄古代史に係わるものはラテンアメリカのものはぽつぽつとあるのだが、ボルヘスなどの文学は70年代半ばくらいまでの学生時代でとぎれている。その後、なかなか、趣味に時間と金をさけずに、ラテンアメリカの本は、買っても細々と新書の類になり、バブルがはじけて以降は退職近くまでほとんど空白の期間がある。この本も新版が出版されているはず。

しかし処分せず、残していたボルヘスの本が実家の庭の書庫から出てきたときは思わず、40年も捨てられずに、生き延びた本に小躍りしてしまった。 

 

 ▲ エドゥアルド・ガレアーノ 『ラテンアメリカ500年 収奪された大地』 1986年 新評論 本体3600円 

現在は新装版が 藤原書店から出版されている。1997年 定価5040円

1980年代、ラテンアメリカで多数の軍事・開発独裁国が存在していた。このときこのガレアーノの『収奪された大地』 は発禁本の筆頭格にあげられた。発行したものならず、読んだものまで罪とされるほど、この書物の持つ力と伝播力があった。

「ラテンアメリカ南部の国々では・・・・形式的民主主義は、権力が権力を掌握している者の手から逃れたりはしないということが保証される限り、存続するであろう・・・」

 ずばりスペイン帝国、植民地主義者、アメリカ帝国と多国籍企業、軍事独裁者が君臨していたたラテンアメリカで、何が起きていたか。新自由主義の実験のはるか手前から、略奪のすべての「帝国のワークショップ」であったか。この本を読むとわかる。

また今は亡きベネズエラのチャベス大統領が盛んにこの本を国連その他で、本を持って推薦していたのを想い出す。

この本ちょっと価格が高いのが難点。早く文庫本にすべし。

「OAS首脳会議で、反米左派のチャベス・ベネズエラ大統領がオバマ米大統領に『収奪された大地』を贈呈!

(19日に閉会した)トリニダード・ドバゴで開かれていた第5回米首脳会議の席上で、ベネズエラの反米強硬派チャベス大統領がオバマ米大統領に贈った『収奪された大地』が各国で話題に!売り上げが伸びているのを踏まえ、

チャベス大統領はオバマ大統領に 「これで、ひと商売しよう」 とジョークを飛ばした……。」 

なんていう情報も、現在の版元の藤原書店にあったので、掲載させて頂く。確か、私もテレビでチャベスが宣伝していたジョーク映像を見た記憶がある。、ユーチューブの動画に今でもあるのではないか。藤原書店さん、ぜひ廉価版作って一儲けしてくださいよ!

「アメリカは癌になる薬を発明したのか」 なんて、自分の病もジョークにしていた故チャベスもよろこびますよ。

儲かったお金はラテン・アメリカ・カリブ海共同体のため寄付してあげようよ!

新装版 収奪された大地

 ▲ 現在刊行されている、藤原書店版のカバー表紙

 

 

この項続く

以下掲載予定なのだが、年末まで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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