春、能登をめぐっていくと、
どんな小さな神社やお寺にも、
必ず大きな花の木が植えてあることに気づく。
能登町にある平等寺は、「あじさい寺」として知られるが、
一年を通していろんな花が咲くお寺。
お寺のご家族が、手間ひまかけて育てていらっしゃる。
爛漫に咲く山桜や、しだれ桜の中に、
たくさんの仏像が鎮座して、華やいだ空気につつまれていた。
地元の人々にも愛されているのだな、
と思わせる光景がそこここに。
広い境内は美しく掃除され、
訪れる人をいつでもあたたかく待っている、
という気持ちが伝わってくる。
こちらの仏様たちは、掃除の間のお休み中。
目にも鮮やかな春の花々と、
アジサイをはじめ初夏に向けて生育中の植物たちから
いっぱいエネルギーを補充させてもらった。
能登路をずんずん進み、
半島の先端、珠洲市に入る。
いつも必ず立ち寄る、二三味(にざみ)カフェへ。
この一杯の珈琲のために、
ここまで足をのばすと言っても過言ではない。
地元でとれた新鮮な苺のタルトがまた絶品。
ほんのひととき、休ませてもらっていたら、
オーナーの葉子さんが、
「近くに大きな花木のあるお寺があるから一緒に行きましょう。」
と言ってくれたので、案内してもらった。
永禅寺というその禅寺には、
今が満開のしだれ桜と
あふれ咲く、真っ赤な やぶ椿が
艶やかに交わりながら競い咲いていた。
かなりの古木と思われる、こんもりした椿の下に、
なんと仇討ちで有名な、曽我兄弟の墓があった。
こんな奥能登に曽我兄弟の伝説があったとは . . .
ちょうど、お寺の奥さまが草むしりをしていらしたので、
いろんな面白いお話を聞くことができた。
このお寺は地元の人たちに「蟹寺(がんでら)」と呼ばれ、
蟹の伝説を、葉子さんも子供の頃から知っているという。
昔むかし、悪さを繰り返す妖怪がいて、
ある日、行脚の禅僧がその妖怪との禅問答で勝ったところ、
蟹の正体を現して、災いとともに消え去ったという。
本堂の軒先には、木彫の蟹が張りつけられていた。
蟹寺の奥さんは、
珠洲市のまた別の小さな集落のお寺から
嫁いで来られたのだが、
実家のお寺は、なんと蟹を神聖なものとして奉るお寺で、
そこの集落では、蟹は神さまなので、食べないのだという。
「ですからお嫁にきて初めて蟹を食べました。」
というコメディのようなお話に、
すっかり癒されてしまった。
ほんとに 能登は大らかな空気に満ちている。
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