いせ九条の会

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誰に対して、”優しさが満ち溢れた”ものか/山崎孝

2006-09-29 | ご投稿
【自民党と安倍政権の財政政策の姿勢を見る】

★日本政府、グアムで米兵の住宅建設費全額負担の方向

在沖縄米海兵隊のグアム移転計画として日本国民の税金を投じてグアムに建設される米軍家族住宅や単身用隊舎が、沖縄からの移転部隊のためだけではなく、グアムに一万人規模の「海兵旅団」を新設するためであることが、9月27日に分かりました。米太平洋軍が今月下旬に公表した「グアム統合軍事開発計画」で示されています。

 日米両政府の在日米軍再編合意では、在沖縄海兵隊の一部とその家族をグアムに移転するとしています。そのために家族住宅約三千五百戸の建設が必要とし、費用(二十五・五億ドル=約三千億円)は全額日本負担としています。移転対象部隊として例示されているのは、第三海兵遠征軍司令部や地上・航空・後方支援部隊の各司令部で、実戦部隊は含まれていません。

 ところが米太平洋軍の計画によると、グアムには、沖縄から移転する司令部に加えて、地上・航空・後方支援の実戦部隊からなる「海兵旅団」(九千七百人)を新設します。全体で家族住宅が必要な兵士は三千六百二十五人で、日米が示している「約三千五百戸」とほぼ一致します。

 同計画では、地上・航空部隊などを「さまざまな場所から(グアムに)移転する」としており、「沖縄からの移転」にはまったく言及していません。しかも計画が移転で最優先しているのは、司令部ではなく、UDP(部隊展開計画)に基づいて米本土やハワイから交代配備される地上戦闘部隊(歩兵大隊)です。これらの部隊の兵士は単身ですが、単身用隊舎も約四千五百人分を日本の負担で建設します。

 在日米軍再編合意では、沖縄にも一万人規模の海兵旅団が残ることになっています。沖縄とグアムに二つの旅団を設け、太平洋地域での米海兵隊の殴り込み能力を強化するため、日本国民の税金投入が狙われており、「沖縄の負担軽減」のためでないことは明白です。

★内政面では

 安倍首相は、法人税の「減価償却」の限度額を拡大することによって、初年度で六千億円規模に上回る大企業減税を来年から実施する意向だといいます。

会計上の「減価償却」は、毎年の企業の損益を平準化するために、建物や設備・機械にかかった費用を、耐用年数に応じて毎年一定の割合で費用として計上するやり方です。

 毎年の利益から差し引けるため、現実に設備に支出した年の翌年からは、税額を減らして企業の手元資金を増やす効果があります。日本の法定耐用年数は実際の耐用年数より大幅に短く、膨大な設備を持つ大企業には有利な減税策となっています。

 この「減価償却」をさらに拡充せよというのです。

 日銀の統計から推計すると、大もうけと減税で、大企業を中心に企業には百兆円を超える余剰資金が滞留しています。ため込んだ資金が投資額よりもはるかに大きくなっているのであり、減税は実際の経済効果を考えてもまったくの無駄です。

 いま大企業はバブル景気の時の一・五倍という空前の利益を上げています。ところが至れり尽くせりの大企業減税を続けた結果、大幅に増えた利益とは逆に法人税収は19兆円から13兆円に減っています。政府の税制調査会でさえ大企業・大銀行向け減税の縮小を求める声が上がっています。政府税調の委員からは「政府は大赤字、個人はやっとトントン、黒字になっているのは企業だけ」と、いっそうの大企業減税への疑問も出ています。

 他方で安倍首相は、来年の参院選後には消費税増税の議論を始めると語っています。

 小泉「構造改革」は不安定雇用を大幅に増やし、大企業と大資産家に減税する一方、庶民には増税と福祉削減で犠牲を押し付けてきました。異常な大企業中心主義の政治が、働いても働いても生活保護の水準以下の収入しか得られない生活を多くの若者に強いています。住民税や健康保険料が何倍にも膨れ上がり、多数の高齢者を直撃しています。障害者や母子家庭など社会的に弱い立場に置かれた国民にしわ寄せする「改革」は、格差と貧困を大きく広げてきました。

 尾身財務相は自民党の税制調査会の副会長として大企業減税の旗振り役を務めてきました。中川秀直幹事長は9月26日のテレビ番組で、大企業減税の効果を強調し、減税は企業にとっては財政を出動する「補助金」と同じだと断言しました。

安倍首相は首相就任後の記者会見で「活力とチャンスと優しさに満ち溢れた国にしていく」として、発足させた内閣の名前を「美しい内閣づくり内閣」と名付けました。従来からの自民党政府の財政政策の姿勢を引き継ぐ安倍政権の姿勢を見れば、誰に対して、”チャンスと活力を与え”、誰に対して、”優しさが満ち溢れた” ものであるかは明瞭です。

本田由紀東京大学助教授は、「安倍新政権を問う」という朝日新聞コラム欄で「自由な競争や効率を至上価値とする今の社会は、すでに多くのきしみを生んでいる。少なからぬ人が安い賃金、不安定な雇用、長い労働に耐えながら、生活や生存の展望を確保できない状態にある。この国は教育や雇用・労働の面では美しくない。…」と述べています。安倍氏は小泉政権の要職にいました。小泉政権は美しくない側面を加速させた政権です。安倍氏もその責任があります。それでいて小泉政権の政策を土台にし、少し色付けした政策を実行しても「美しい国」になるはずがありません。

(しんぶん「赤旗」電子版複数の記事情報、朝日新聞記事情報を参考にしています)