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政権人事に表れた安倍首相の歴史観と国家観/山崎孝

2006-09-28 | ご投稿
政権人事に表れた安倍首相の歴史観と国家観/山崎孝

戦後50年の1995年8月15日に当時の村山内閣が閣議決定した「村山談話」は、アジアに対する「植民地支配と侵略」を反省した内容で、歴代政権は「同じような認識」などと説明してきた。安倍晋三氏は、「精神を引き継ぐ」としながらも「植民地支配と侵略」がアジアに損害を与えた部分について「基本的に歴史家に任せるべきだ」と記者会見で述べています。安倍晋三氏はこのように歴史認識をあいまいにしています。

しかし、安倍晋三氏は、「党内基盤を安定させるため、自民党総裁選で功績のあった派閥やグループに配慮しながら、首相の政治信条に近い保守色の強いメンバーを積極的に起用した人事となった」また、「…国家観や憲法観、家族観で、日本の伝統を重んじる保守的な人物が目に付く、首相の意向も相まって、新内閣の政策はより保守色を強める可能性がある」と9月27日付け朝日新聞は報道しました。

以前から派手に出していた「自虐史観を批判する」歴史観を最近は出さないように努めているようですが、人事には色濃く反映しました。問題はこのような歴史観の人材布陣で隣国や世界との信頼関係を築ける外交が展開できるかどうかにあります。

朝日新聞の複数の記事や社説を参考にしながら幾つかの例を拾ってみます。

麻生外務大臣 総裁選で安倍氏と似た憲法観や歴史観の主張を展開した。ダブルAで安保理決議外交で対中国封じ込めを念頭に置いた強硬路線を走り挫折した。解釈改憲を主張。

久間章生防衛庁長官 9月26日の就任記者会見で、集団的自衛権行使をめぐる解釈について「今のところ従来の解釈を踏襲しながらやっていく」としながらも「現実に即した場合、そういう解釈で乗り切ることが出来るかどうか、具体的に検討する余地があるのではないか」と述べた。

中川昭一政調会長 1997年「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」会長になっている。同会は扶桑社の歴史教科書をバックアップした。同会で活動した高市早苗氏が沖縄・北方相に就任、同会事務局次長だった下村博文氏が官房副長官に就任。同会所属であった山谷えり子氏が教育再生担当の首相補佐官に就任した。

下村博文氏は最近、教育再生会議のテーマのひとつに「自虐史観の歴史教科書をやめさせる」と述べている。山谷えり子氏は「いまだにレーニンの言葉を守っているんでしょうか、自虐的な内容の教科書をつくっている」と述べている。扶桑社の歴史教科書を自民党が強力な採択運動を行ったが、極めて低率の採択の成果が上がらなかった。しかも採択権が教師から教育委員の手に渡った状況のもとでの低率採択率でした。このことは扶桑社の歴史教科書が他社に比較して偏向していることの証左です。両氏の発言は、歴史を一応正視する教科書を作るな、扶桑社の教科書みたいな記述にしろと教科書会社に言っていることと同じです。このようなイデオロギーを子どもたちに教育をしろと言っていることと同じです。世界の物笑いになる子どもを育てよと言っていることと同じです。これと関連してワシントン・ポストの社説の一部を後で紹介します。

安倍氏は自らの歴史観をあからさまにしなくても、仲間を政権内に入れて代弁させるような奥の手を使うのかも知れません。そして国民に自らの歴史観を広めていこうとしていると考えられます。

再度述べますが、最大の問題はこのような布陣で、隣国や世界との信頼関係を築ける外交を展開できるかどうかにあります。

9月25日、米紙のワシントン・ポストは「新しい首相は歴史に誠実でなければならない」と題した社説で「現在の政策は、過去への率直な誠実さに裏打ちされていなければならないことを認識する必要がある」と苦言を述べています。社説は、安倍氏の東京裁判の正当性への疑問、村山談話を踏襲しないことを挙げて「安倍氏は過去を美化することでは、小泉首相を上回る」と懸念して「安倍氏は日本のプライドを主張することに政治的な利点を見出している」と述べています。

安倍首相は「美しい国づくり内閣」と名付けました。だが、就任早々、米有力紙にこのような痛烈な批判を受ける日本は「美しい国」と言えるでしょうか。