いせ九条の会

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自民党新総裁の思考パターン/山崎孝

2006-09-23 | ご投稿
朝日新聞9月21日の記事に「歴史観はどこへ向かう」という見出しの記事がありました。抜粋して紹介します。

歴史認識をめぐる焦点の一つは、戦後50年の1995年8月15日に当時の村山内閣が閣議決定した「村山談話」だ。アジアに対する「植民地支配と侵略」を反省した内容で、歴代政権は「同じような認識」などと説明してきた。安倍氏は「精神を引き継ぐ」としながらも「植民地支配と侵略」がアジアに損害を与えた部分について「基本的に歴史家に任せるべきだ」と記者会見で述べた。

村山内閣で総務庁長官だった江藤隆美・元自民党衆院議員は「アジア各地に迷惑をかけたから、談話の精神を引き継ぐのはわかる」一方、植民地の朝鮮半島でも学校や病院をつくったなどとして「談話の中身は勉強不足で軽率だった」と振返る。「日本と相手国がお互いに同じ歴史観を持つことはあり得ない。歴史家が判断すべきだという安倍氏に賛成だ」。

安倍氏の思考パターンを考えてみます。紹介済みですが、北朝鮮のミサイル発射実験に関連した安保理決議について、安倍氏と歴史観の一致すると思われる「産経新聞」は、「第7章削除」受け入れについて、「『日本の国家としての意思を問われている。中国の拒否権行使もいとわない』と考える麻生、安倍両氏にとり『制裁』の根拠となる7章の削除は苦渋の決断だった」と述べる。「こちらが突っ張ったから、中露は議長声明から非難決議に譲歩したんだろ」の麻生発言や「こちらはすでに第7章40条(暫定措置)に限定するところまで譲歩しているではないか」という安倍長官の“不快感”の発言も伝えています。

このような外交経緯であったにもかかわらず、安倍氏は7月の自民党総裁選挙に関連するパネルディスカッションで、北朝鮮をめぐる「国連決議は私と麻生外相の『ダブルA』で原則を決め、初めて国連安全保障理事会の主役となった。国益を守るため、時には主導権を握る外交を展開するべきだ」とほらを吹いています。

「村山談話」の精神を「精神は引き継ぐ」としながらも「植民地支配と侵略」がアジアに損害を与えた部分について「基本的に歴史家に任せるべきだ」とする考えは、安倍氏の考え方を代弁したと思える江藤隆美氏の考え方を見れば“全体像から乖離した部分的側面を強調して、自らの考えや行動の正当性を見出したいとする思考パターン”です。要するに事柄の全体像から物事を捉えない精神構造です。日本が『ダブルA』で突っ張ったから「中露は議長声明から非難決議に譲歩したんだろ」ではなくて、この問題で国連安保理が課題としたことは、「一致して北朝鮮に国連のメッセージを伝えること」が、最重要と考えた英仏が国連憲章第7章を前提としない妥協案を示したから、中国とロシアも「一致して北朝鮮に国連のメッセージを伝えること」が良いと考えて歩み寄ったのです。

『ダブルA』の外交がリードしたのはごく論議のスタートの段階だけで、英仏の妥協案が出されたら、北朝鮮のミサイル発射実験を直接的脅威と思っていなかった米国は妥協案の方に傾きました。日本の外務省に国連憲章第7章の前提の立場を貫けと発破をかけていた『ダブルA』の指示ですが、経緯を見れば安保理の論議の主役から転がり落ちていたのです。主役を退いてからは米国の説得もありしぶしぶと安保理の方向に従いました。それなのに安倍氏は「初めて国連安全保障理事会の主役となった」と、最初の部分的局面だけを強調して全体を評価しました。

江藤隆美氏の述べた日本が植民地の朝鮮に学校を作ったとしてもその目的は、朝鮮民族の独自性を奪い、日本への同化を図ることが目的でした。朝鮮総督府編纂の「初等科国語」教科書は「ああ、かがやく日章旗、ぼくらは興亜の少国民だ」と書いてあります。このように日本語の教科書で朝鮮の子供たちに皇民化教育を行っています。この成果が日本の兵隊となり、特攻隊員にさえなる朝鮮の若者が現れました。そして、映画「ホタル」の話のような悲話が生まれました。NHK放送の韓国ドラマ「クッキー」に、主人公が1945年8月15日に、これで日本語の教科書や看板が無くなると喜ぶ場面がありました。植民地政策において、民族の同化政策をとったのは日本だけだと言われています。

「日本と相手国がお互いに同じ歴史観を持つことはあり得ない」としても、歴史の重要な事実(主要な側面)は認めなければなりません。これでなければアジアにおいて日本は孤立します。

参考資料 7月16日の朝日新聞電子版(抜粋)

北朝鮮のミサイル発射問題をめぐる国連安全保障理事会の制裁決議案をめぐる協議は15日、日米両政府が修正案で示した「国連憲章第7章40条」に基づく措置との表現をめぐって、共同提案国の英仏がこの表現を削除する提案を示し、中国は受け入れる考えを表明。米政府も「7章」の文言にはこだわらず、「十分な拘束力を持つ明確なメッセージを送ること」(ボルトン国連大使)を重視し、全会一致を求める姿勢を強め、歩み寄りを示している。日本も「7章の表記にはこだわらない」(外務省幹部)としており、日米は「7章」の表記を抜いた決議案の採決を同日午後の安保理で行いたい意向だ。

ボルトン米大使は15日午前(日本時間同日夜)、「7章の効力を持つ決義であれば、米政府は支持する」と述べ、「7章」の文言にはこだわらない姿勢を示した。(中略)

中国の王光亜国連大使は、英仏提案について「まだ抵抗している国が1.5カ国ある」と述べ、米国が姿勢を軟化させていることを示唆。「日本だけが7章にこだわった場合は、協議は終わる」と日本を牽制した。(以下略)。このように中国を追い詰めようとした外交を行いましたが、最終局面では逆の立場に立たされるはめになっています。

第40条〔暫定措置〕

事態の悪化を防ぐため、第39条の規定により勧告をし、又は措置を決定する前に、安全保障理事会は、必要又は望ましいと認める暫定措置に従うように関係当事者に要請することができる。この暫定措置は、関係当事者の権利、請求権又は地位を害するものではない。安全保障理事会は、関係当事者がこの暫定措置に従わなかったときは、そのことに妥当な考慮を払わなければならない。