埒もない解説が多い文庫本ですが、この巻末解説は、なかなか読ませる小林信彦論となっています。
筆者は山田正紀。
さすがに実作者としての「目」が光っています。この点、評論家のものとは一味違っている。
評論家諸氏の解説となると、書誌的事実/文学史的位置づけあるいは理論的分析となりがちですが、山田正紀の解説では、なぜ人が文学作品を書くか、ということを、自分の例を裏に潜めて述懐しているのが、なかなか興味深い点であります。
まずは、カフカの作品を例に挙げ(これは小林作品に、カフカについての言及があるからでもありますが)、
これを小林作品に当てはまると、
また、
ここで『ぼくたちの好きな戦争』が、この『裏表忠臣蔵』の先行作品と位置づけられていることは、妥当でありましょう。
両作品を読んだ方には、「舌足らず」と山田が限定を付けて述べている、次のような説明を諒解することができることでしょう。
両作品は、
表現論に続いて、小林の「違和感」「不機嫌さ」を指摘した点は、ことさらオリジナリティのあるものではありませんが、それでも大事な特徴ではありましょう。
ということで、小林作品の解説として、かなり図抜けた出来と言えるでしょう。本編と併せて、一読をお勧めします(『ぼくたちの好きな戦争』もね)。
小林信彦
『裏表忠臣蔵』
新潮文庫
定価:378円 (税込)
ISBN978-4101158235
*文春文庫版もありますが、山田正紀解説は、新潮文庫版です。
筆者は山田正紀。
さすがに実作者としての「目」が光っています。この点、評論家のものとは一味違っている。
評論家諸氏の解説となると、書誌的事実/文学史的位置づけあるいは理論的分析となりがちですが、山田正紀の解説では、なぜ人が文学作品を書くか、ということを、自分の例を裏に潜めて述懐しているのが、なかなか興味深い点であります。
まずは、カフカの作品を例に挙げ(これは小林作品に、カフカについての言及があるからでもありますが)、
「『変身』でしか、あるいは『城』でしか、表現することのできない状況があり、カフカが一連の作品を執筆して初めて、その状況が人々の目にあらわになったのである」としています。
これを小林作品に当てはまると、
「小林信彦は自分が文学表現の新たな発明をなしとげたことに気がついている」となります。
また、
「おそらく、小林信彦は『ぼくたちの好きな戦争』を書いたとき、これこそが自分が追及したかった、本当のテーマだ、とそんな手ごたえを覚えたはずなのだ」としていますが、この辺りの表現論は、やはり実作者のものでしょう。
ここで『ぼくたちの好きな戦争』が、この『裏表忠臣蔵』の先行作品と位置づけられていることは、妥当でありましょう。
両作品を読んだ方には、「舌足らず」と山田が限定を付けて述べている、次のような説明を諒解することができることでしょう。
両作品は、
「事実を事実として書き、事実のはらんでいるグロテスクさ、黒い笑いを、その事実をして語らしめる」方法論の小説であるということを。
表現論に続いて、小林の「違和感」「不機嫌さ」を指摘した点は、ことさらオリジナリティのあるものではありませんが、それでも大事な特徴ではありましょう。
ということで、小林作品の解説として、かなり図抜けた出来と言えるでしょう。本編と併せて、一読をお勧めします(『ぼくたちの好きな戦争』もね)。
小林信彦
『裏表忠臣蔵』
新潮文庫
定価:378円 (税込)
ISBN978-4101158235
*文春文庫版もありますが、山田正紀解説は、新潮文庫版です。