同じく講談社文庫刊『昭和史 七つの謎』の続編。
今回のテーマは、
第1話 東條英機に利用されたゾルゲ事件
第2話 明かされる「大本営発表」の歪みと嘘
第3話 「陸軍中野学校」の真の姿をさぐる
第4話 吉田茂が描いた国家像とは
第5話 昭和天皇に戦争責任はあるか
第6話 「A級戦犯」は戦後なぜ復権したか
第7話 田中角栄は自覚せざる社会主義者か
の7本。
この手の本で最大の売物の一つは、松本清張の『昭和史発掘』にあったように、知られざる事件を明らかにする、という点にあろう。そのような意味からすると、類書があまりないものは、第1話、第6話、第7話くらいであろうか。
特に、第3話に関しては、最近になって新潮文庫から『秘録・陸軍中野学校』(畠山清行著のダイジェスト復刊。保阪氏の編集)、新潮新書から『昭和史発掘幻の特務機関「ヤマ」』(斎藤充功著)などが刊行されている。ということで、さほど新しい事実が発掘されているわけでもないし、新たな視点が提示されているわけでもない。
第7話にしても、小生が目を通したことがないだけで、このような説を述べた書があることを聞いたことはある。
となると、第1話が、最も新しい事実と視点が述べられているということになろうか。
あまり詳しい紹介をすると「ネタバレ」になるので、ここでは要点のみを記す。
第一の問題は、リヒャルト・ゾルゲが「なぜ」昭和16年10月18日に逮捕されねばならなかったか、ということである。ここに、東條内閣成立の鍵の一つがある、とするのが著者の見解。
第二の問題は、中野正剛が「なぜ」自決にまで追い込まれたか、という謎である。
普通、中野が反東條の立場から昭和18年元旦の「朝日新聞」に「戦時宰相論」を書いたことが、東條の逆鱗に触れた、と説明されている。しかし、それだけであっただろうか、というのが著者の見解。
このことについての仮説は、なかなか説得力があり、妥当性もあるように思われる。
本書の最も面白いところかもしれない。
第6話、第7話は、ともにアメリカ政府の意向が背景にあり、というのが、著者の視点(ただし、第7話のメイン・テーマは、田中角栄という特異な政治家の分析なのであり、アメリカ政府の意向が反映されたとするのは、その没落に関してなのであるが)。
以上、簡単に本文の要点のみを書いたが、最後に、本文以上に知的好奇心をそそったのが、巻末の対談(著者と原武史)「宮中祭祀というブラックボックス」だったということを付け加えておこう。
保阪正康
『昭和史 七つの謎 Part 2』
講談社文庫
定価:600円(税別)
ISBN4062749874
今回のテーマは、
第1話 東條英機に利用されたゾルゲ事件
第2話 明かされる「大本営発表」の歪みと嘘
第3話 「陸軍中野学校」の真の姿をさぐる
第4話 吉田茂が描いた国家像とは
第5話 昭和天皇に戦争責任はあるか
第6話 「A級戦犯」は戦後なぜ復権したか
第7話 田中角栄は自覚せざる社会主義者か
の7本。
この手の本で最大の売物の一つは、松本清張の『昭和史発掘』にあったように、知られざる事件を明らかにする、という点にあろう。そのような意味からすると、類書があまりないものは、第1話、第6話、第7話くらいであろうか。
特に、第3話に関しては、最近になって新潮文庫から『秘録・陸軍中野学校』(畠山清行著のダイジェスト復刊。保阪氏の編集)、新潮新書から『昭和史発掘幻の特務機関「ヤマ」』(斎藤充功著)などが刊行されている。ということで、さほど新しい事実が発掘されているわけでもないし、新たな視点が提示されているわけでもない。
第7話にしても、小生が目を通したことがないだけで、このような説を述べた書があることを聞いたことはある。
となると、第1話が、最も新しい事実と視点が述べられているということになろうか。
あまり詳しい紹介をすると「ネタバレ」になるので、ここでは要点のみを記す。
第一の問題は、リヒャルト・ゾルゲが「なぜ」昭和16年10月18日に逮捕されねばならなかったか、ということである。ここに、東條内閣成立の鍵の一つがある、とするのが著者の見解。
第二の問題は、中野正剛が「なぜ」自決にまで追い込まれたか、という謎である。
普通、中野が反東條の立場から昭和18年元旦の「朝日新聞」に「戦時宰相論」を書いたことが、東條の逆鱗に触れた、と説明されている。しかし、それだけであっただろうか、というのが著者の見解。
このことについての仮説は、なかなか説得力があり、妥当性もあるように思われる。
本書の最も面白いところかもしれない。
第6話、第7話は、ともにアメリカ政府の意向が背景にあり、というのが、著者の視点(ただし、第7話のメイン・テーマは、田中角栄という特異な政治家の分析なのであり、アメリカ政府の意向が反映されたとするのは、その没落に関してなのであるが)。
以上、簡単に本文の要点のみを書いたが、最後に、本文以上に知的好奇心をそそったのが、巻末の対談(著者と原武史)「宮中祭祀というブラックボックス」だったということを付け加えておこう。
保阪正康
『昭和史 七つの謎 Part 2』
講談社文庫
定価:600円(税別)
ISBN4062749874