地球族日記

ものかきサーファー浅倉彩の日記

R水素社会の解体新書 前編

2010年04月11日 | お仕事日記
R水素社会とは、Renewableな一次エネルギーと水素でつくる、「枯渇せず」「偏在せず」「排出しない」エネルギー供給構造のこと。一次エネルギーの取得から各種二次エネルギーの消費までのプロセスで、ほとんど温室効果ガスを排出しません。そこでは、一次エネルギーがどのようにして、電力や乗り物の燃料、冷暖房や温水シャワーになるのでしょうか。そのしくみを、ひも解いてみましょう。

Big Question1
みなさんは、「発電」とは何のことか、知っていますか?

火力発電・水力発電・原子力発電などの言葉は耳にした事があって、いくつか方法があるようだ、ということは知っていると思います。ところが、実のところ、どの発電方法であってもやっていることは同じなのです。

Answer
 「発電」=「タービンをまわす」

これが、質問の答えです。ほとんどの場合は、「なんらかの熱」で水を沸騰させて水蒸気に変え、水蒸気の勢いでタービンをまわしています。この「なんらかの熱」を生み出すために、石炭・石油・天然ガスを燃やすのが火力発電。原子炉内で濃縮ウランを核分裂させるのが原子力発電です。言ってみれば、お湯をわかすという目的のために、現在選ばれている手段が「化石燃料の利用」だということになります。さらに、これらの方法では、化石資源の採掘・運搬、石炭・石油・天然ガスの燃焼、ウランの濃縮により温室効果ガスを排出します。(グラフ2)また、化石燃料は地球上の偏った場所にしか存在せず、量も限られているので、奪い合いの原因になっています。

賢い文明が次に選ぶのは、枯渇せず、偏在せず、排出しない手段で、タービンをまわす発電方法です。それが、地熱・風力・太陽光・中小水力などの再生可能エネルギーを利用するやり方です。

再生可能エネルギーの利用は大切ですが、なぜそれを水素にする必要があるのでしょうか?

まず、ほとんど知られていないキーとなる事実をお伝えします。

Answer1
電気は貯めておくのが難しく、送電線に流せる電気の量は決まっている

発電の現場では、24時間態勢で電力の需要に合わせてタービンをまわしたり止めたりして、発電量を調整しています。電力会社は以下のように、原子力をベースロード、石炭をミドルロード 石油と天然ガスをトップロードというように使い分けて、送電線がパンクしたり供給が足りなくなって停電が起こらないように調整しているのです。

Answer2
再生可能エネルギーの中には、発電量が天候に左右されるものもある。

再生可能エネルギーのうち、地熱発電や海洋温度差発電は、24時間365日安定的に発電することができるので、現在は原子力発電が担っているベースロード電源向きと言えます。逆に、最も需要の多い季節や時間帯に合わせて発電をすると、それ以外の時間は電力が余ってしまいます。一方、太陽光発電や風力発電は、日照や風があるときのみ発電します。いずれにしても、再生可能エネルギーだけでは、電力の需要に合わせた供給は望めません。そこで、供給の波を需要の波に合わせるために、発電量が需要を上回ったときに(余剰したときに)蓄積しておく蓄電装置が必要なのです。そうでないと、例えば需要の少ない夜間に強風が吹き、許容量以上の電力が送電線に入り、送電線がダメージを負うことになってしまうからです。

Answer3
水素は、電力を貯め、運ぶことができる

蓄電装置として最も身近なのが「電池」。最近では、世界各地の風力発電所で、出力安定化のためにNAS(ナトリウム硫黄)電池が併設される例が増えています。一方、R水素社会が最も進むデンマークのロラン島では、風力発電所の出力安定化に、NAS電池のような電池ではなく水素を利用する取り組みが始まっています。電池には、長時間の蓄電が難しく、ハイテクなために高価で一社独占になりやすく、劣化しやすく、廃棄時の環境負荷が大きいというデメリットがあるからです。普段の生活の中でも、電化製品のバッテリーが本体と比較して高額だったり、すぐに劣化することは、よくありますよね。

水素は、電池に比べてロスが大きい反面、長時間貯めておくことができ、水素タンクが安価で寿命が長く、廃棄時の環境負荷が小さいというメリットがあります。また水素は余剰電力を、蓄積するだけでなく、運びやすくしたり、利用価値を広げることができます。

Big Question3
余剰電力から生まれた水素は、どうやって運ぶのでしょうか?

Answer
液体アンモニア化したり、気体のままパイプラインで運びます。

現在のシステムでは、発電所でつくられた電力は、高圧電線・変電所・電線を通って需要者まで運ばれ、そこで電灯や機械の動力源や熱源に変換されて使われます。

電力供給網とは別に、自動車・飛行機の動力源であるガソリン・ジェット燃料や、都市ガス・プロパンガスは、電力とは別の系統で生産・運搬・供給されています。水素は、これらの化石燃料供給インフラを使って運ぶことができます。

水素の元素記号H。これに、空気中の窒素Nを加えることで、NH3=アンモニアになります。アンモニアを液化(20℃では0.857MPaで液化)すると、既存の液体燃料輸送用タンクローリーや、灯油の販売網を使って運ぶことができます。

また気体の場合、日本全国の都市部で全長23万8827kmにわたって整備されている都市ガス導管網が使えます。世界的に見ても高い安全基準をクリアしている耐候性・耐久性・耐震性に優れたもののため、水素脆性(水素原子が、サイズの小ささゆえにパイプの金属組織に入り込み、金属の強度を弱める性質)についても、定期的な点検・交換さえきちんと行えば大きな問題にはならないといわれています。

同様に、プロパンガスの供給網の利用も考えられます。

つづきは次回!