地球族日記

ものかきサーファー浅倉彩の日記

「電通?なにそれ、おいしいの?」

2016年10月09日 | お仕事日記
会社員の労使関係には、物心両面の支配と依存がある。

前回のブログでは、
電通の新入社員が過労自殺した根本的な原因はそこにあるのではないかと考えた。

その上で言及しておきたいのは、過労自殺は悲しくあってはならないことだけど、
支配と依存が悪かというとそうとは言い切れない、ということだ。

一人ではできないことをするためにチームをつくり、
チームのみんなの利益になるように会社組織という形をとった場合、
その組織が続く中で自然に発生してくるものなんだろうと思う。

問題は、「そういうものだ」ということ知らずに、
自分を苦しめているものがなんだかわからないまま、
逃げる方法として死ぬことしか思いつかなかったことだ。

それが本当にもったいない。

今回自殺してしまった女性は東大卒でもあり、
想像でしかないけれども、これまで親や世間が示すものさしを真に受けて、
「他人と比べてできる私」で生きてきたと想像する。

世の中には、「東大?なにそれ、おいしいの?」「電通?なにそれ、おいしいの?」って感じで
幸せに生きてる人だってたくさんいるけど、彼女にはきっと見えていなかったと思うし、
見えていたとしてもひょっとしたら見下していたかもしれない。
(見下しているその刃が実は自分で自分に向けていると気付かずに。)

その「できる私」であるはずの自分が、与えられた仕事を時間内にこなせず、
上司からダメ出しをされるという許しがたい事態に陥ってしまった。
他人からの評価を人一倍真に受けるので、その許しがたい事態をなんとかしようと頑張った結果、
圧倒的な睡眠不足と栄養不足と孤独という心と体の飢餓状態に落ちていった。

一番近くにいる人たちはみんな忙しすぎて気づかない。
状況を俯瞰できる人たちは彼女自身が忙しすぎるから近づけない。
家族は「できる私」という自己像をつくった張本人たちなので「だめな自分」なんて見せられない。
つまり、圧倒的孤独。

その圧倒的に孤独な彼女を支えていたのは、会社に支えられたプライドだったんじゃないかと思う。
だから、辞められなかった。会社を裏切って寝られなかった。

何かに帰依し忠誠を誓うことで、自分自身の存在価値を確認し、
搾取されても抜け出せないって、悪い宗教みたいだ。

すべては想像の域を出ませんが。
この想像を事実と仮定するなら、
自分を死にいたらしめるような悪い宗教にはまらないように、
人間は、根っこの部分で、生きてるだけですばらしい ってことを、
感じながら大きくならないと、と思う。

それができなかったから、こうなった。
そう考えると、電通を断罪しても解決策としては断片的で、
彼女の精神を育ててきた社会そのものが、彼女を死にいたらしめたと考えるべきなんだと思う。

そういう社会を少しでも変えたいから、
少なくともわたしは、まわりにいる人たちに対して
世間のものさしを押し付けるようなことはするまいと改めて思うのであります。
そして、ものさしを無視しても生きる道はある、ということを、
微力ながら示していきたいと思います。


死ぬぐらいなら、寝ればよかったのに。

2016年10月08日 | お仕事日記

 いつどのくらい働いているかを、ちゃんと記録したほうがいい。
 深夜は1.25倍の報酬がもらえるはずなんだから。

 というアドバイスをくれた友人がいる。
 一流企業の人事部で働く友人だ。
 
 そのとき、その発想はなかった!なるほど!と思った。
 でも、今回の電通過労死事件を見て、
 そういう問題じゃないんじゃないかと思い直した。

 会社員は、一定のルールで管理されることで、利害が対立する労使関係において
 不利益を被らないように庇護を受ける。
 その前提にあるのは、「会社が生活と精神の拠り所であり、圧倒的不利な力関係の上で、
 拠り所を維持するためには基本的にやれといわれたことをやらなければならない」
 という鉄則だ。

 特に電通のような、そこの社員だというだけで有形無形のさまざまな恩恵を受ける
 「ブランド企業」の場合、会社と個人の力関係はさらに会社が有利になる。
 だから、新卒の女性社員は、死ぬ前に辞められなかったし、ぶっちぎって数日休んでガン寝して、
 翌日涼しい顔で「有給いただきましたー!ありがとうございます」って出社することもできなかった。
 死ぬぐらいなら、寝ればよかったのに。
 
 フリーランスはそもそも、
 生活も精神も特定の会社に依存していないので、
 管理と庇護が必要になるような圧倒的不利な力関係とは無関係だ。

 だから、好きでその時間にやっている深夜業務に対して
 1.25倍の報酬を要求する必要がない。
 そもそも目の前の仕事は、自らのオーナーシップを前提に
 やっているので、睡眠を優先するべきときは、自主的&総合的判断の上で、そうする。
 その結果、仮に仕事を失ったら、他の仕事をする余裕が生まれ、チャンスが広がる。

 管理と庇護の背景には、物心両面の支配と依存がある。
 そこにツッコミを入れるのは、ナンセンスですかね?

 若く優秀な人物の死を心から悼むとともに、ご冥福をお祈りいたします。