烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

幕末・維新

2006-12-21 23:23:05 | 本:歴史

 『幕末・維新 シリーズ日本近現代史1』(井上勝生著、岩波新書)を読む。
今回から刊行開始となったシリーズで全10巻の予定である。第1巻は、黒船来航から西南戦争までの歴史を概説している。新たな知見に基づいて開国や維新の動乱の時代が従来の教科書的な記述とは異なっていることを教えてくれる。孝明天皇は攘夷論を主張していたが、その内容は時代の情勢を見誤った無謀なものだと批判されていたことが書かれている。当時天皇家や天皇家から親王が入って「王孫」となった貴族たちは、「雲上」という血族グループとなっており、「万王一系の神国」という神国思想を共有していたという。そして



詳しく見れば、天皇と貴族共同の「雲上」という伝統的な神国思想にくらべて、天皇(孝明)こそが、貴族(鷹司や九条)とちがって、神武以来の「万王一系」をつぐ貴種だ、という神話は、この時代に生まれたあたらしい神国思想である。こういう幕末政争の前史の上に、明治憲法で「万世一系」という天皇主義思想が創案される


ということだ。当時幕府側はかなり客観的にかつ冷静に情勢を分析していたのだということも教えてくれる。
 また当時の百姓一揆についても非暴力的なもので、3200件ほどの一揆で竹槍で殺害が発生したのは2件のみだという。駕籠訴(越訴のひとつ)の本人は獄門となったらしいが、要求自体に道理があれば事実上認められていたらしい。
 幕末の日本は今から思うよりは成熟した社会であったようで、経済的にも発展しておりそうした基盤があったために開国後の交易もスムーズに運んだようだ。
 日本の地を踏んだ欧米人は江戸の女性を高く評価したおり、感じがよく物怖じしない女性として描写されている。このあたりの記述を読むと当時の庶民の持っていた屈託のなさというのは、現代人が失ってしまった大切なものの一つであるように感じた。