烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

集中講義!日本の現代思想

2006-12-06 21:46:14 | 本:社会

 『集中講義!日本の現代思想』(仲正昌樹著、NHKブックス)を読む。
 1980年代に「流行した」ポスト構造主義の思想を振り返り、それまで主流だったマルクス思想と対比しつつ現代思想の見取り図を示してくれる。その序は「かつて、『現代思想』というものがあった」という題で始まる。ここで著者が指す「現代思想」は、いわゆる哲学的思想とは異なり、「体系」を志向しない、自ら信用すること、されることを回避される思想であるというのが特徴だと著者は指摘する。脱アカデミズム的、脱領域的、脱近代的な「現代思想」の特性は、90年代になって社会に余裕がなくなってきて軸足の定まらなさが世間に受け容れられなくなって、その支持を失ってきたというのが著者の診断である。
 通読してみて感じるのは、社会や時代から超越しているかに見える思想も実際はその時代や社会の色彩を反映しているということだ。特にバブル期とその後では明らかにその陰翳が異なる。時代が浮かれているときには、思想も真摯さというものを失うのだろうか。しかし近年グルーバリゼーションが進むにつれて、ますます国の独自性が危機に曝されているという意識が蔓延し、それに対する場違いな反応が出てきていることや、競争(狂騒?)社会により余裕がなくなってきている現在の状況からすると、まだそんなのどかな風景もあったのだという奇妙な感覚にとらわれてしまう。