(
やない筆勝ブログより)
長尾一紘教授といえば、外国人に地方参政権を付与できるとする参政権の「部分的許容説」を日本で最初に紹介した学者で、政府が今国会提出を検討中の参政権(選挙権)付与法案について「明らかに違憲。鳩山由紀夫首相が提唱する東アジア共同体、地域主権とパックの国家解体に向かう危険な法案だ」と語り、自説を転回させた学者です。
その長尾教授の新しい論文が、「Will5月号」に掲載されています。法案推進派の理論的支柱であった長尾氏が、民主党政権が誕生したことでなぜ自説を覆して反省をし、参政権付与反対の立場に回られたのか、学者らしく一つ一つ検証されている論文です。
以下、一部ですが抜粋して転載させていただきます。
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外国人参政権は「反日」「反国家」 長尾一紘
日本列島は地球市民のもの
「地球市民的価値」これは民主党のもっとも重視する価値原理です。
「日本列島は日本だけのものではありません」 鳩山首相のこの発言には、異例の発言になれてきたはずの国民も驚かされました。この発言をたんなる思いつきの軽口とみることはできません。一つの信念の表白とみることができます。その信念とは、
地球市民論です。
日本列島は日本人だけのものではない。それは地球市民のものだ、といいたかったわけです。
「創憲に向けて、憲法提言」2004年に発表された民主党の公文書
・地球市民的価値が強調されている
・自由も民主主義もなく、ただ地球市民的価値のみが述べられている
・「連帯革命」…国境の垣根を声って「人と人とを横に結ぶ革命」
・「分権革命」…地方分権などではなく、東アジア共同体との国家主権の分有、共有
これらにおいて、地球市民的価値が最高のものとされ、「国家」と「国民」の価値は、その分低く見積もられることになります。むしろ、「国家」も「国民」も、地球市民的価値の実現を妨害する障害物とみなされる傾向にあります。
<民主党の外国人参政権論について>
地球市民の前には、外国人も日本国民もなく、また国家も国境もないという民主党の主張は、学説においてはほとんど類例を見ない特異なものである。
<憲法提言>
「国境の垣根はいよいよ低くなり、外国人であっても地球市民として、その基本的権利を保護する義務を政府は果たさなければならない」
この憲法提言で主張されていること
① 外国人に選挙権を与えることは「地球市民的価値」の要請するところである
② 外国人に選挙権を与えることは、日本政府の「義務」である
国境の垣根は低くなったとみているが、はたしてそうでしょうか。核ミサイルの完成に国力を傾注しつつある北朝鮮、異例の規模での軍拡を急ぎつつある中国をみれば、むしろ垣根は高くなりつつあるとみるべきです。
<民主党はカルト教団か>
民主党は「連帯革命」など「革命」という言葉を気軽に使いますが、地球市民が前提とされている限り、これを単なるレトリックだとして軽視することはできません。
民主党は、地球市民の名の下に、外国人と日本国民を選挙権との関係でも同一視しようとしています。また、国境の垣根を限りなく低いものとみなして、「国家」の観念をできるだけ軽視しようとしています。このような考えは、文字通り「革命」の名に値する根本的な変改を企画するものです。このような変改を進めていけば、日本という国はいずれ解体されることになる。これが「連帯革命」の帰結するところです。
民主党の言う地球市民とは、国籍の観念を捨象した人間、つまり
地球上の人類一般を意味します。民主党は国民の幸福ではなく、人類の幸福を目指しているということになる。人類の幸福のため国民がいかなる犠牲を払っても、地球市民的価値の立場からすれば、それは致し方ないということになります。(例:CO2の25%削減)
このことは、地球市民論の延長線上に位置する東アジア共同体論において、とくに顕著に示されています。しかし、人類の救済は宗教の任務です。民主党は宗教的幻想に酔って、カルト教団になってしまったのではないでしょうか。
国家の存在根拠は、人類(地球市民)の幸福をはかることではありません。国民の幸福をはかることにあります。
<「中国の核の傘」に入る>
民主党の重要な基本政策「東アジア共同体」の構成国は
・日本
・中国
・韓国
・北朝鮮
民主党案では、構成国に台湾は入っていません。日本はこの連邦国家の一支邦(しほう)国になります。それが
「国」と呼ばれるのか、
「州」と呼ばれるのか、それとも
「自治区」と呼ばれるのか。いずれにせよ、
日本の国家主権の重要部分は、すべて東アジア連邦国家に吸収されるとみる必要があります。
当然ながら、この段階では、日米安保条約など、とうの昔に解消されています。
共同体に参加することは、「アメリカの核の傘」から「中国の核の傘」に移動することを意味します。対等な三角関係などあり得ません。
沖縄、横田、横須賀などの基地には、アメリカ軍にかわって人民解放軍が駐留することになるでしょう。残念ながら、日本の選択肢はいずれの傘を選ぶかという点に限られているのです。
ちなみに、第三の選択がないわけではありません。日本自らが
核保有国になることです。
<連邦共和国の首都は北京>
東アジア連邦共和国の
首都は、おそらく北京。連邦議会の議席配分は、EU議会の例にかんがみれば、人口比例を原則とし、
常に中国人地区の選出議員が7~8割を占めると予想される。
<東アジア共同体の新憲法><東アジア共同体の新憲法>
力関係からみて、また人口比の点からみても、
中国、北朝鮮の一党独裁の価値原理が新憲法に採用され、これが日本にも及ぼされる。連邦憲法が制定されると、各支邦国の憲法はこれと矛盾する限りにおいて、V効力を失うことになる。
日本国憲法の場合、天皇制度、議院内閣制、権力分立制、人権などにおいて、ほとんどの規定が効力を失うものと思われる。
これが民主党の夢見る東アジア共同体の現実の姿です。
<民主党の党是は「国家主権の移譲」「国家主権の共有」>
民主党の
「創憲に向けて、憲法提言」(2004年発表)では、「21世紀の新しいタイプの憲法は
国家主権の移譲、主権の共有という新しい形を提言するものだ」と自画自賛していますが、日本の国家主権を誰に移譲するのでしょうか。誰と共有するのでしょうか。
形の上では、連邦国家としての東アジア共同体だということになりますが、実質的には中国だということになる。中国を中心とする国々が、日本から移譲された主権的権能を自らのものとして、連邦のシステムを通して日本を統治するということになります。
(要約 ここまで)
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※参考:
民主党 <創憲に向けて、憲法提言 「中間報告」>
民主党憲法調査会会長(当時) 仙谷由人
【1】文明史的転換に対応する創憲を(第一小委員会:総論)
-クローバル化・情報化の中の新しい憲法のかたちをめざして-
「21世紀型の新しい権利の台頭は、人間の尊厳が、
国家の枠を超えて保障されるべきものであるとの「
地球市民的価値」を定着させてきている。」
「
EUでは、「国家主権の移譲」や「主権の共有」が歴史を動かしている。国際人権法体系の整備は、一国の中の人権問題もそれを国際的な「法の支配」の下に置きつつある。国境の壁がいよいよ低くなり、
外国人であっても「地球市民」としてその基本的権利を保護する義務を政府は果たさなければならない。私たちはいま、こうした文明史的な転換に対応するスケールの大きな憲法論議を推し進めていくことが求められているのである。」
「21世紀の新しいタイプの憲法は、この主権の縮減、主権の抑制と共有化という歴史の流れをさらに確実なものとし、これに向けて邁進する国家の基本法として構想されるべきである。国家のあり方が求められているのであって、それは例えば、ヨーロッパ連合の壮大な実験のように、
「国家主権の移譲」あるいは
「主権の共有」という新しい姿を提起している。」
「国民の権利意識の向上と情報化の進展は、
家族における抑圧や、民族や宗教の名による人権の侵害、企業権力による不当な差別をも、憲法の下に据えることを要求している。」