国民は二の次になった日本の政治家
武士道教育に力入れる~李登輝元台湾総統インタビュー
2011.01.02(Sun) JBpress
マット安川 坂本龍馬の「船中八策」をはじめ、戦後の歪んだ歴史教育ではあまり重視されない「日本の知」が、李閣下の口からはあふれんばかりに飛び出してきました。
閣下は今でも日本政界と交流を保ち、たびたび訪日されています。
台湾の発展に尽くし、アジアにおける微妙な立場を信念と戦略をもって乗り越えてきた経験からか、日本のことが日本人以上によく見えている、そう感じるインタビューでした。
■台湾で新渡戸稲造の「武士道」を教える
李登輝 李登輝学校では、思想哲学から科学技術などを研究し、心の改革などを推進しています。とりわけ日本の内閣府が専門重視に赴く中で、私は教養教育、リベラルアーツの重要性を認識し、台湾の歴史、道徳、家庭教育の実践などに力を入れています。
そこで私は新渡戸稲造の『武士道』を解題し(『「武士道」解題』)、公(おおやけ)と私(わたくし)の問題を李登輝学校の教えとして台湾でも深く展開しております。
私の思う指導者の条件というものは何かというと、結局ここですよね、「公と私」。そして誰もやらないことを自分でやる、と同時に、信仰を持ちなさい、自分は権力だとそういうことを考えてはいけない。
そして人民を可愛がりなさい、人民に対して嘘をついてはいけない、誠(まこと)をもって人民に相対する態度が必要です。
このように考えたときに、最近の日本の指導者はどうですか。私に言わせると内閣総理大臣、本当に人民のこと、国のこと、将来のことを考えながらやっていこうとする人は、あまりなかったなあ。
国を変えようとするときに官僚は必ず反対する
公選によらず根回しで決めていく。官僚政治が主体になってね。官僚はものすごく頭が良くて、いろんな法律を作りますがね、国を変えようとするときには反対ばかりしている。
私が台北市長になったときに、こういう話がありますよ。
台北市の農村では農民が絶えず家を修築したいと言っている。だいたいあそこらへんの農家は100年くらいの歴史があるんです。そんな古い家には窓もない、便所もない、風呂場もない。
若い子は絶対住まない、みんな山を下りて都市に住んでいます。そうすると農村では誰も働かないのよ、年を取ったじいさんばあさんばっかりで。これが私のふるさと、私の生まれた場所です。もう潰れかかっている。
ああいうようなところは家を建て替えてあげなくちゃならないんだが、私がそれをやると言ったら建築管理處は、いままでの所有主全員の捺印が必要だと言うんです。
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官僚を通さず進めた結果、台北は綺麗な町に
考えてみてください、100年の歴史の中でいったい、どれだけの持ち主が関わっているか。不可能ですよ、絶対。ほとんど死んでしまって残っているのはいまの人だけなんだから。
こういう官僚の作った法律をどうすべきか。私がやったのは、建築管理處には一切関係させず、協同組合に話して協同組合のそれぞれの区域の農家に申請書を出させました。
そして35種類の新しい設計図をあげて、どんな改築をしたいか選ばせた。だから建築家に設計を依頼する費用がかからない。そして申請書は建築管理處ではなく台北市の建設局に持ってこさせました。
建設局では書類を受け付けたら整理して市長の私のところへ持ってくる。そして私が直接許可証を出すわけです。
1200戸の許可を出しましてね、それは結局、建築管理の規則を破っているわけです。間違っているというなら訴えたらいいじゃないかと言いましたが、結局彼らは何もできず、台北市の近郊はいま、ものすごくきれいな家が出来上がっていますよ。
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アイデアは日本の大学教授の論文
これは私の考えだけじゃなくて、日本のNIRA(総合研究開発機構)の雑誌にある大学教授が書いた論文があって、「農村の将来の発展の方向は観光事業と結びつける必要がある。観光事業と結びつけるには農家の改善をやらなくてはならない」というところをヒントにね、誰もやらないから私がやりましたよ。
いま私、その近くに住んでおりますがね、家の前を通りかかるといつも呼んでくれてね、いらっしゃい、お茶をどうぞどうぞ、とね。そういう関係ができているんだよ、そこの農民とは。
同じようなことは繰り返しあるんですよ、台湾に。法律でできないいろんなことをやったのは、蒋(経国)総統のとき。日本では池田(勇人)内閣時代に『農村は変わる』を書いた並木(正吉)さんという人がいました。
あれはだいたい日本の農村の労働力が減って老人人口が上がり始めた頃でしょ。日本にはこういういい例がたくさんあるんだが、それを総合的にやっていく指導者がいない。困るのはこれなんだ。
日本全体の問題がここの、指導者がいないということに懸かっているというのは、例えばアメリカが何か言えば「Yes, Yes」と言いなりでしょ。日本人としてアメリカに対して好意的に深く話し合う人がいないんだよ、怖くて怖くてアメリカに言い切らないんだよ。
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第1は憲法の修正、第2は教育基本法の修正
日本はアメリカに対して思い切って話をすべきなんだ。これだけアメリカの国債を買ってアメリカの経済を助けてきたんだから、日米同盟のあるべき姿を検討しましょうと言うべきなんです。
そのときいちばん大事なのは、憲法修正をやることです。第2には教育基本法の修正。憲法修正と同時に、これからの日本をどうすべきかということを教育から変えていかなくてはならない。
戦後、アメリカは軍事力が世界一大きいし政治力もあるからアメリカの主導で連合国で国際連合をつくり、次にブレトンウッズ協定でGATT(関税および貿易に関する一般協定)を作った、いまのWTO(世界貿易機関)です。それにIMF(国際通貨基金)。
ところがこの4つの組織はうまく運行していません。アメリカの一部分の金持ちや資産家とか投機屋、ことにウォールストリートの連中がでたらめをやっている。
グリーンスパンが最近初めて、昔の政策は間違っていたと言ったように、これは明らかに間違っている。こんな問題が起きるのはIMFが機能していないからですよ。
いまオバマが金融機関に対して規制を強化しているでしょ。この連中に制限を加えたり法律を作って規制したりしないと、本当のお金じゃないお金が世界を回って途上国のお金を吸い回るんです。
(続く)
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