先日、栃木県那珂川町の馬頭広重美術館で川瀬巴水の木版画を見たのだけれど、これがなかなか良かった。
川瀬は明治生まれで、大正から昭和にかけての作家。木版画の絵師として活躍しました。彼はいわゆる「新版画」のひとりで、これは江戸時代の浮世絵以来の絵師、彫師、摺師の分業制で作品を仕上げるもの。いわば、近代の浮世絵バージョンなんですね。川瀬の風景に対する視点が、確かなデッサン力によって裏付けられ、それが彫師と摺師の高度なテクニックによって、ひとつの作品と完成していました。それらを見ていくと、川瀬は「版」で何か新しい表現を目指した、というよりも、目に独特のカメラを持っていて、それをもとに日常の何気ない風景の一場面をパシャリと取ることを得意としていたよう。私の好みで言えば、特に夕暮れや夜の場面がとてもいい。例えば《大森海岸》で舟を見送る女性の後ろ姿、《瀧之川》の上にかかる橋を子どもと母親が連れ立って歩く姿…それらの周りの民家や店からこぼれるぼんやりとした光。美しい風景のなかに、人間の生活感がただよう。たった100年前まで、日本にはこれほどの情緒が残っていたのかと驚かされる、とともに、なんでこういうものが今に残らなかったんだろうと。
展示の仕方は玄人好み。川瀬作品の一部はマットに入れられた額装状態ではなく、ガラスケースのなかで作品そのままを展示しています。ですので、和紙の風合いや作品の余白、そうしたものも楽しむことができる趣向です。さらに校合摺も展示してあって、作品が出来上がるまでのイメージもわかりやすく紹介してあります。とても満足度の高い展覧会でした。
川瀬は明治生まれで、大正から昭和にかけての作家。木版画の絵師として活躍しました。彼はいわゆる「新版画」のひとりで、これは江戸時代の浮世絵以来の絵師、彫師、摺師の分業制で作品を仕上げるもの。いわば、近代の浮世絵バージョンなんですね。川瀬の風景に対する視点が、確かなデッサン力によって裏付けられ、それが彫師と摺師の高度なテクニックによって、ひとつの作品と完成していました。それらを見ていくと、川瀬は「版」で何か新しい表現を目指した、というよりも、目に独特のカメラを持っていて、それをもとに日常の何気ない風景の一場面をパシャリと取ることを得意としていたよう。私の好みで言えば、特に夕暮れや夜の場面がとてもいい。例えば《大森海岸》で舟を見送る女性の後ろ姿、《瀧之川》の上にかかる橋を子どもと母親が連れ立って歩く姿…それらの周りの民家や店からこぼれるぼんやりとした光。美しい風景のなかに、人間の生活感がただよう。たった100年前まで、日本にはこれほどの情緒が残っていたのかと驚かされる、とともに、なんでこういうものが今に残らなかったんだろうと。
展示の仕方は玄人好み。川瀬作品の一部はマットに入れられた額装状態ではなく、ガラスケースのなかで作品そのままを展示しています。ですので、和紙の風合いや作品の余白、そうしたものも楽しむことができる趣向です。さらに校合摺も展示してあって、作品が出来上がるまでのイメージもわかりやすく紹介してあります。とても満足度の高い展覧会でした。