不定形な文字が空を這う路地裏

sealed


囀るな、囁くな、嘯くなよ、腐肉に群がる小蝿や蛆のような薄汚い愚民ども、俺の人生にお前らを相手にしてる暇はない、俺がこの世界で息をし続けている理由はただひとつ、容赦ないポエジーと相対するためさ…あらゆる種類の快楽をそこから得てきたんだ、あらゆる種類の快楽をそこから学んできたのさ、はん、こんなことを言ったってどうせ、ほとんどの人間には伝わりはしないんだ、だけどさ、俺はそのためだけに、生きて、声を上げ続けていかなけりゃいけないのさ、理由?そんなことはどうでもいい、俺はそれを選択した、いや、もしかしたら、最初からそれだけが残されていたのかもしれない、俺はずっと、それだけを求めて飢え渇いていたのかもしれない、本当はどうだったかなんてもちろん思い出せない、だけど、いまとなっては、そう考えるのが最も自然なことのように思えるよ、俺は憑りつかれて、とち狂って、ぶっ飛んでいたいのさ、ヤバい話じゃない、イルーガルな話なんかじゃないよ、想像力と集中力でそこに辿り着くのさ、そんなに難しい話じゃない、そうさ、俺にはちっとも難しい話じゃない…どうしてそれなのか?嘘偽り、虚飾や意図が一番存在しない世界だからさ、生身の感覚だけを、思考の感電を記録していくだけなんだ、そうして無作為に吐き出されていった言葉たちが俺の構成を塗り替えていく、それは輪廻に近い感覚と言っていい、生きながら死ぬことが出来る、それがポエジーの本質ってものさ、どうせお前は鼻で笑うんだろう、小理屈をこねて知ったような顔をするだろう…だけどそんな小細工が、俺がここに差し出したものを超えることは決してないのさ…自己紹介させて欲しい、我が名は、ホロウ・シカエルボク―深紅の混沌の中で、ポエジーの根源を叫ぶものさ…渇望するものは決して手に入らない、飢えは、完全に満たされることなどない、次のなにかを手に入れるには、胃袋に落ちたものをきちんと消化吸収しなければならない、だけどその頃には、次に手に入れようとしていたものは随分かたちを変えているだろう…初めはそのことがとても苛立たしかった、どうしてそのままのかたちでは無いのか、どうしてタイミングを失ってしまうのか…違うんだ、違うんだよ、かたちが変わってしまったのではない、それが本当はどんなかたちなのか、絶対に認識することが出来ないというだけの話なんだ、どんなに脳味噌を絞り上げても、手に入れることが出来るのはそのかたちの破片くらいなんだ、そしてそれはきっと、一生賭けてもきっと全貌を知ることは出来ないのさ、それはとてつもなく魅力的な代物だぜ、俺はきっと一発で参っちまったのさ、参っちまって、抜けられなくなってしまったんだ、幸福だと思うかい、それとも不幸だって思うかい?そんなことどっちだっていいんだ、人生の目標なんてものにするには、それはちょっとプリミティブに過ぎるのさ…人生は短い、そうだぜ、目にすることが出来るリアルはどのみち瞬間しか在り得ない、次の瞬間には記憶のフォルダの中に収まっちまう、たった一瞬の灯りのためにマッチをこするみたいなものさ、しかもその火は燃え移る暇もなくあっさりと消えてしまうんだ…虚しいって?無意味だって?そんなことないさ、そいつは確実に心臓に食い込んでくれるもの、貨幣価値や社会的地位なんてものとはわけが違うんだ、生命の根源さ…「ポエジーの根源」って、俺さっき言ったよな?ポエジーっていうのはつまり、生命の根源に肉薄するための正当な手段なのさ、細工の無い文字の羅列だけがそこに辿り着くことが出来るんだ、お前はそんな景色を見たことがあるか?もしも見たことがないのなら、俺がお前に語り掛ける日は二度と来ないってこと…そいつにひととき触れた瞬間の高揚が、まだこの俺が薄汚い街で蠢いている理由なんだ、囀るな、囁くな、嘯くなよ、魂を白日の下に曝せ、引き摺り出したそいつが、太陽の光に焼かれて溶けていくのを眺めるのさ、それがポエジーの在り方なんだ、俺は自分を証明しようとするとき、俺以外の誰も必要とはしない、いつだってたった一人で、俺自身を曝け出すのさ、自己紹介させて欲しい、我が名は、ホロウ・シカエルボク、深紅の混沌の中で、ポエジーの根源を叫ぶものなり、お前が俺を陳腐な正しさで叩こうと目論見る時、お前の口もとに溢れた唾からはとてつもなく嫌な臭いがするだろう、自己紹介させて欲しい、我が名は、ホロウ・シカエルボク、他のどこにも無い詩を綴り、自らの声で生命に変えるものさ、聞こえるか、腐肉に群がる小蝿や蛆のような薄汚い愚民ども、我が名は、ホロウ・シカエルボク、深紅の混沌の中で、ポエジーの根源を叫ぶものなり…

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