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それにそれはあっという間に思い出したというだけのものになってしまう

2008-04-22 18:15:02 | 













それに名前をつけるほど俺は暇じゃない、そんなものは勝手口から外に放り出してなかったことにしてしまえよ、そんなもののことをいつまで気にしているんだ、トウヘンボクめ
気にしなくちゃいけないものの名前をスケッチブックに書き出して壁の空いてるところへ貼っておけ、そら、そこの
ジャニス・ジョップリンとジム・モリスンのあいだに…そこなら万が一やり遂げることが出来なくったってなんとなく嫌な気はしないから、俺の言ってること判る?やることもやり遂げることもある線上を越えてしまえば大して違いは無いんだってことだよ


朝からなんにも食べずにふらふらしていたせいで腹ペコだったので、郵便局から二つ目の角のパン屋で焼きたてのパンをいくつか買った、店の中にそこそこのスペースがあって、テーブルと、イームズもどきの椅子が何脚か並べられていて――そこでのんびりと食べることも出来たのだけど、「誰がなんと言おうとあたしたちはオシャレなの」と言わんばかりのOL三人組が下品な鳥のように騒いでいたので持ち帰ることにした、そのOLたちは確かにパシッとしたスーツを着こなしていたが――三人が三人とも、それが少し似合わないと感じるくらいにふくらはぎが太かった
まあ、俺が誰かのファッションを批判するなんておふざけもいいとこだけれど
パン屋を出たところで缶コーヒーを買った、プルタブを開けて――一気に飲み干して捨てる、ほんの数百メートルを歩くのにガソリンが要るのさ、これと言って目的の無い移動は決まって燃費を悪くするとしたものだ――このパン屋は昔もう少し橋に近いところにあった…その頃は販売もやってる工場で
もちろん店内で飲食が出来るようなスペースなんてなかった、そのせいかどうか判らないけれど
あの時のパン工場がいまここでこんなこじゃれた店になっているのだと気づくまでに凄い時間が掛かった、正確には…30数年
思い出を探りすぎると現実が上手く把握出来ない、俺は帰り道を辿る、思い出の中ではない、現実への帰り道
あの頃住んでいた家はもう駐車場になっていた
鶏や犬やジュウシマツを飼ったり、何処かから拾ってきた板に裏庭で火をつけようとした記憶の上に誰かが停車している、ひと月八千円とか、そんなくらいの契約で…トムとジェリー、みたいに幼い俺の残像はそこでぺちゃんこになっている、あの頃住処の隣には小さな旅館があって
旅館と俺の家とのあいだにある壁と壁の隙間にもぐりこんで、裏側の民家の壁を伝って…その先の通りへ出るのが好きだった、厨房から漏れてくる蒸気なんかを嗅ぎながら、カニのように横歩きで…あるとき俺は泥棒と間違われたらしくて、家に帰ると母親にえらく叱られた、あのときは何があったんだかてんで理解出来なかったけど
見知らぬ子供が自分ちの壁の上を這ってたら誰だって泥棒だと思うよなぁ
でも歳をとって泥棒になったのは俺じゃなかった、まあそれはまた別の話だけど


そんなこと今まで一度も思い出したことはなかった、どうして今まで思い出さずにいたのか、またなぜ、パンを買ったとたんに思い出したのか――イースト菌に含まれている古代エジプトからのノスタルジアの作用なのか――?近頃クドくなりすぎた缶コーヒーの後味に顔をしかめながら小さな信号を適当に渡って、現在の住処に戻る、もちろん隣に旅館はないし、俺を泥棒と勘違いするやつも居ない、俺は電波状態が悪い場所にあるテレビの室内アンテナみたいに、いろいろなものを取りこぼしながら受信し続けていて、そのせいでインスタント・コーヒーを入れるための湯を沸かしっぱなしにしてしまう、ミルクパンに残った湯はカップの半分にも満たなかった、やり直しだ
ミルクパンの中で弾ける沸騰した僅かな湯は何故だかまるで軽薄に思える
記憶を見ていた、パンを食べながら…
記憶を見ていた、コーヒーの湯気の向こうに
俺であってもう俺でない俺が
やはり俺であってもう俺でない俺の成り立ちを
それが記憶だと言われても遠すぎて釈然としない、思い出すのに適さない時間というものが必ずある、なにもかもはっきりと思い浮かぶのに――生身に返ってくる感覚が何もない、それを進化と呼ぶか成長と呼ぶか、はたまた退化と呼ぶかは気分によって違うところだけど――


たとえば明日は雨になるらしいから、俺はこれを多少疎ましく感じるんだろうね

パンの味は確かだった、だけど





記憶とはそれはまったくひとかけらも

リンクせずに
胃袋に収まったのだ

















青白い空(悟ったからって別に)

2008-04-19 20:27:50 | 











青白い空に僕が飛ぶ
青白い空に僕が飛ぶのだ
明け方の淡い夢の様に
暮れ方のカゲロウの羽ばたきみたいに
青白い空に
青白い空に



息をし始めてからこれまで
確かに吐いたことなどなかった
古い
水の様によどんだ
いつかしらの息が
確かな線を殺していた
確かな線を
ぶつ切りにしていた
青白い空
もっと青くなっても
犯されたものは
二度と
綺麗になることはない
青白い空に流れる風は
そんな
瞬間を
ターン・テーブルのEP盤の様に
ぎこちなく
ぎこちなく繰り返す
その時に乱雑に混じる
ちぎれるみたいなノイズの
ことを
確かに
この僕はむかし飲み込んでいた


青白い空
青白い空
青白い空
青白い空で
ミルク色の
満月が迷子になってる
今日のすべてが沈むまで
あいつは
心もと無いのだ


いつか死んだうさぎ
いつか死んだ犬
いつか死んだ猫
いつか死んだ金魚、みんな
青白さの向こう側に
居たんだね
僕は再会する
再び
出会うべきなんかじゃ
きっと


なかったんだろうけど


みんなの鳴き声
みんなの鳴き声が
合唱団となって
架空の地平で長く尾を引いてゆく、その流れに乗る、その流れに乗れば


僕は
思っていたなにかを知る


青白い空
青白い空
青白い空
青白い空

ああ、だけれど確かに高い
確かに
手には届かない


欲しがっていた
欲しがっていたのだ
確かに
欲しがっていないふりをして
喉から手が出るほど
確かに求めながら

果てしない
感情が零れていく
僕は
鳴き声に参加した、だけど
僕のものだけが



激しく
落下して行ったのだ


青白い空
あ、あ、青白い空
なにも
哀しいことなんか
なかったよ


求めることにだって
僕は





ずっと
距離を置きすぎていたんだ












ブラッドなんて感覚を決め台詞にするのはよしなよ

2008-04-19 20:25:47 | 










何かが転げ落ちて紛失
俺の
向こう側の感覚、鮮やかに喪失
失われた概念的な胎内そのがらんどうに
途方もなく哀しい灰色の風が吹く
灰色の風がどこか
忌々しい地域から巻き上げてきた
来世のような匂いのする砂が
銃撃の後の血飛沫のように、張りつく、張りつく、張りつく…そこに傷みはないが
俺の身体は潜在的な感覚でそれを拒絶し
水銀のように排除しようとするも
根を生やしたかのように砂は、
砂は、ぽつぽつぽつと
がらんどうに色を添えてゆく、良くないことだと感じてはいるが
愛しいものでは別にないから
悪戦の前に結論を投げる
投げられた結論は、ガラステーブルの端っこの
処理の甘いところでこめかみの辺りを切り大げさに血を流す
でもやつは痛いとも痒いとも口にすることはないから
俺はやつがそのまま死んでしまうのではないかと余計な気を揉んでしまうのだ
砂が張りついてからの数時間、俺の気分はほんの少し
ざらざらしたままで過ぎる
落ちて失ってしまったもののことはもう思い出せない、きっとそうなって初めて失くしたと胸を張れるのだ
それを人は誇りというのだ、そうだ
誇るたびに愚行が増えてゆく
日記帳に糞色のペンで出来事を綴るみたいさ、聖者に憧れたわけじゃないが
もうすでに断罪されたみたいな
幻覚が目のはしでチラつくのは何故だろう
ベートーベンのピアノソナタの中に
金属工場のプレス機の響きを見つけることがある、きっと俺は武器になるほどに気の毒な
診察券をひとつ持つべきなのだ
誰もがそれ以上一言も口を挟むことが出来なくなる
最高に気の毒な詳細が記してある診察券を
俺は狂っちゃいないよ
俺は狂っちゃいないよ
俺は狂っちゃいないよ
俺は狂っちゃいない
幻覚の中から蝶がはみ出して、現実の中の電灯をよぎる、ほほ、ははは、と軌道に書いてある
ほほ
ははは
俺はそれを指でなぞった、余計な鱗粉をたくさん吸い込んだに過ぎなかった
口の中で蝶の命が舞う、それはやがて唾液で墜落してゆく、ああ
それは生きていられない場所なんだ
幻覚の蝶の鱗粉は
生きていられない場所を選択してしまった
幻覚なのに墜落した、幻覚なのに
なすすべもなく死んでしまった
センチメンタルに過ぎて俺は腹を立ててしまう
手当たり次第に破壊したくなる衝動に駆られるが
何かを破壊しながら詩を書くことなど到底出来やしない
破壊し、破壊し、破壊し、墓石
埋葬の手順を間違えないように黙読している
友達が言っていたんだ、埋葬を省かれるととても哀しい気持ちになるって
だから俺は埋葬の手順を間違えないように黙読している
そうしている間にも概念的な胎内で砂はザラつき
口腔で鱗粉は墜落してゆく
墜落には墓石は立てられないよね、ああそれはそうだよね
どうすることも出来なくなって手を合わせた
何に向かって、誰に向かって祈るつもりなのか俺には判らなかった、いや
祈りということがここに何をもたらすのかということも理解してはいなかった、だとしたらそれは
ショーウィンドウをきれいに磨きすぎることとまったく少しの違いもない
誤差を愛せないなら詩を綴る必要もない
俺は言葉を使って誰かを殺したのか
俺は言葉を使って誰かに殺されたのか?
疑問符が乱立する森に足を踏み入れて
わざと哀しい思いをしようとしてるんだろう
上手に痛がるやつを愛してくれるやつは思ってるよりも大勢居るもんだぜ、みんな、
深刻な傷みのそばに居たいのさ
痛い思いをするよりも実際ドラマティックだからね
時には
そこで血を流してるやつよりも痛そうな顔をしてるやつだって居る、いいかい、それはずっと余裕があるからさ
痛み止めはないかい、痛み止めはないのかい、安いやつでいいからあるんならおくれよ
駄目なやつでもいいから譲っておくれ、傷みが無くなるんなら他のどこが駄目になったってかまわないから
どうせそうやってひとつずつ壊れてゆくんだから
無くしたものの数を数えてくれ、壊れた物の数を数えておくれよ
誰かが涙を流せるように余裕を持ってドラマティックに
余裕を持ってドラマティックに見えるところに並べておいてくれ
俺はそれに頼ったりなんかしないから
俺はそれに頼ったりなんか絶対にしないから
いつか砂が胎内に生やした根が
心臓の弁にきつく巻きついて壊してしまうけど
そこまでいったらもう傷みたなんてきっと呼べやしないから
だから俺そこに居るんだ
だから俺そこに居て
こぼれた血を
血を――














けれどももしかしたら砂浜のことを忘れているのかもしれない

2008-04-09 22:12:33 | 











足元の砂のことは気にしないで、ゆっくりと時間をかけてここへ来て、まるでふたりのあいだにとてつもなく手強いドラゴンがいるみたいなシチュエーションで、この短い距離をあたたかな緊張で満たして欲しい、時刻は夕暮れ、雨の予報のせいなのか、釈然としない空模様で…語り合うにはいまひとつの灰色だけれど
足元の砂のことは気にしないで、どこか他のところから降ってきたのに違いないから―だって今日は砂浜のほうには出かけていないもの、そんなものが靴下に混ざったりすることなんてありえない、ゆるやかな態度がすべてをニュートラルに戻せることをどうか忘れないで
音楽は流れ続けているけど、何を歌っているかなんて気にしたりしてはそこからいろいろなものがこぼれ落ちるから、空中をただよう蜘蛛の糸のようになんとなく見つめるだけにして―真剣さについて少し簡単に考えすぎているでしょう、そんなことはないと言ってもそんなことはあなたが決めることじゃない、足元の砂のことをいつまでも気にしていたりはしないで、本当にどうしてここに落ちているのかまったく見当がつかないのだから…今日は砂浜には行っていない…砂浜になんて一歩も踏み入れたりなどしていない、いつか話したことなのかどうかもう覚えてないのだけど、ときどき真っ白になってしまうことなんてあれは遠い昔のお話、いまはデジタル時計のカウントと同じくらい正確に把握している―雨の音が聞こえた?予報ではまだずいぶん後のことのように言っていたけど…早くなったり遅くなったりすることなんてそんなに珍しいことじゃないから―緊張感が判らないのならコーヒーでも入れましょう、洒落っ気があるのならサイフォンの方を選んで
雨の音について考え込んだことがある?世界に落ちる最初の一粒が弾ける音を聞くのはいったいどういう種類の人なのかって…ミルクを少しだけ入れて……それがいつの間に落ちてくるのかということについて考え始めると時間が溶けていくような気がする、最初の一粒なんてきっと誰にも耳にされることなく弾けていくのだ…雨の音とサイフォンの音が奇妙なシンクロを始める、シンクロは不思議だ、なにか目にとまらないものたちがかすかな和音の中でゆっくりとかたちを変える…その動作をどことなく感じているみたいな気分になる、じっとしてそれを聞いていると雨がコーヒーを作っているのだと…少しずつ漂ってくる豆の香りは世界の外からくるのだと、そんな気がして…ミルクを少しだけ入れてってもう言った?洗っているマグカップはいくつある…?次第に雨足は強くなる、アフリカのパーカッションが数百と鳴っているみたいな―響き、エコー
マグカップに口をつけると、濡れた紙のように蒸気が張りつく、ミルクが溶けて…コーヒーは新しい匂いになる、匂いが変わるだけで…新しい飲み物になるのだ、呼び名はそのままで…飲むのはもう少しよそうと思う、せめてミルクの渦がゆっくりと茶色に沈んでいくまで…
雨は降っている?雨はまだ降っている…?さっきまで強い音がしていた、あれは確かにここで鳴っていたはず―気まぐれさが空で踊るような雨なのかもしれないゆっくりと、時間をかけて、あたたかな緊張を持って―最初のひとくちを始める、ピアノ協奏曲の最初のタッチのような感覚が下りていく―それは食道を伝い―まるで身体の中でコーヒービーンズのマーキングが行われているみたい…母なる大地の身に私は身体を捧げる、雨の音がまた聞こえだす、よかった、あれはずっと昔のことだもの…雨の音などに神経質になる必要なんてどこにもないのだ
コーヒーを飲みながら雨の音を聞いている、役目を終えたサイフォンが安堵の息をつく…








かみなりのない雨は好き
















春の日、膿んだ傷みの反芻

2008-04-07 01:10:46 | 










どこへ行くこともなくその空で遊んでいたきみ、クリーム色の雲がまだ少し寒い季節を足早に過ぎていく、そんなエターニティ
綴った手紙の文句は何度もリテイクされた挙句続きを書かれること無く
アドレスを押すたびに会えるような気がしていたのは純粋無垢の証だったのか
プラトニックを笑えばシニカルだなんて、かっこいいけど誤った認識を抱きしめたままいつの間に大人になったのだろう
口ずさめる歌はすべて一昔前のメロディ、ラブソングはところどころ君の名前で記憶していた、あの日の公園、あの日の約束、匿名性の中にありありとある景色
春は足早に思い出をさらうように強く吹きつけて、咲いたばかりの淡い花弁は覚えられたとたんに忘れられる
いつもは留まらない記憶ほど、こころには果てしなく響くのかもしれない
雨が多すぎたあの年には、甘い香りが余り無かった、今にして思えばそれがすべてだったのかもしれない、苦しみや悲しみが
よく出来た絵画のように思い出されてしまう今となっては、もう
もう余り水を吹き上げなくなった中央公園のベンチに腰を下ろして
バターロールのような雲が飛行船のようにしとやかに移動するさまを見ていた、ハロー、聞こえますか
こちらは少し埃がひどいです
通信は誰かと繋がるためのもの、いったいこれまでに幾度、オフのままの通話口に呼びかけてきただろう、返事をすでに怖れてしまっていたのだ、そこから何かが返ってくることを
それが装いであれ正直であれこの上なく怖ろしいものに違いなかった
強い想いの中に本物の恐怖がある、飲み込んだ空気に少し砂が混じるみたいに、強い想いの中にある本物の恐怖
青信号のメロディが聞こえる、僕はそこに向かって歩いたりはしない
行く先を忘れたみたいにずっと腰をおろしている、頭の中には確かに当面こなさなくてはならないことがあったはずだけれどそんなことはもうどうでもよくなって
そんなことはもうどうでもよくなって空を見上げたり汚れた靴の先を眺めたり
深呼吸を繰り返した挙句肺の空気を一瞬すべて失って、「どうか」という言葉の正しい響きを知った、それは足元に都合よく落ちているパンくずを探す鳩たちに話したところで到底伝わるはずも無く
と言って他に口を開くための口実はそこいらには見当たらなかった
口実を探し続けることで僕らは饒舌になっていく、意味を考えるまでもなく吐いた言葉をついばんでいくのはすでに死んだ詩人たちの列だ「こんなに」「こんなところにまで」「こんなことまで」彼らのさえずりはそんな風に聞こえる
ごめんなさい、でも許してくれとは言いません、時代は常に変化しているのです、さまざまな形態が選択出来るこの時代に遺産ばかりに目を向けているわけにはいかないのです、なんて
気をそらせてみようと下らないごたくを並べてみたけれどもちろん何も変わるはずは無く、とたんにどんどん冷えていく胸のうちと、突然爪が伸び始めた誰かをなぞるためだった両手、さらすことを躊躇った傷がもうかゆくてかゆくて
叫ぶことが出来ない叫びというものを歌うためにどんなスペルを用意しようか、そんなものを得るためには
水が出なくなった噴水の吹き上げ口を探すべきなのかもしれない、僕は人工的なたまりの中に足を突っ込んで
裾を濡らしながらジャブジャブと歩いた、近くに腰を下ろしていた老婆がねえ、あなた、と声をかけた
もちろん僕は答えたりしなかった
噴出し口に片目を近づける、ちょうど顕微鏡を覗くときみたいに繊細な注意を払って
なにかが、映る
映ろうとしたそのとき、警官が僕の腕をつかみ、噴水の外に引きずり出した「こんなところでなにをやってるんだ、ここに入ってはいけない、さあこっちへ来なさい」僕はぼんやりと彼の顔を見つめてみた、僕と同い年かあるいは少し上くらいの屈強な警官「なぜそんなことをする?」僕はぽかんとした表情を作って首を傾げてみた、もちろん彼が何を言っているのかは重々理解してはいたけれど
警官はもう少し何かを言いたそうにしていたけれど面倒になったらしく僕を噴水から遠ざけて去っていった「何をやっているかは全部判っていたさ」僕は演劇的にそうつぶやいた「そうだね」背後で声がした、僕が噴水に足を踏み入れたときに静止しようとした老婆だった
「パンでもお食べなさい、おにいさん」彼女はそう言いながら小さなビニール袋からあんぱんをひとつ取り出して僕に渡した「あたしは少し買いすぎちゃったから」そう言ってそそくさと去っていった
彼女が去った後僕はあんぱんを見つめながら
もう少ししたら暑い季節がくるのだなと



ふと、胸を傷めたのだ