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チョットヴィシャス

2022-11-28 13:14:59 | 詩人PV

 

 

 

チョットヴィシャス

 

幼い中身に釣り合わぬプライド

ご都合主義のリアルでっち上げて

半径五十センチ以内の総統

自己満足で貫き通すライフ

 

ライツ・ナウ

おまえはチヨットヴィシャス

勝てない喧嘩は大人の対応

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

無理を通して引っ込めた道理

 

倫理もモラルも道徳もマナーも

そんなことなにも知ったこっちゃない

言うことが通ればそれでいい

誰の迷惑もお構いなし

 

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

駄々こね続けて墓場まで

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

努力と理性は棚の上

 

ええとね、「ヴィシャス」っていうのは「危ない」とか、「ヤバい」みたいなことで、かの、パンクの始祖、「セックス・ピストルズ」の二代目のベーシスト、「シド・ヴィシャス」のネタ元でもあります、で、サビに使用してる「ライツ・ナウ」っていうのは、彼らの代表作のひとつ、「アナーキー・イン・ザ・UK」の冒頭のフレーズを拝借させていただきました、取り急ぎ説明まで

 

強気な態度のその裏で

見えては隠れるコンプレックス

空っぽの自分を呪うように

やたら振りかざすオレサマムーブ

 

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

粗暴も罵倒もルールの枠内

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

野良犬を気取る哀れな飼犬

 

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

偉そうに語るよくある話

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

視線を外して小さな声で

 

いやそもそもね、いい大人がさ、すぐ感情的になって声を荒げたりね、ものに当たったりとかするのってどうかと思うわけよ、おまえその歳までなに経験して生きてきたんだっていう感じしますよね、明らかにジジィみたいなやつでも俺より年下かなぁって思ったりしちゃうよね、あまりに言動が幼過ぎて…だけどなんかこう、ちょっと聞き分けがないみたいなさ、いわゆるただの駄々っ子がさ、ただお行儀いいやつより恰好いいみたいな変な理屈こねたりしてさ、そんなもん普通にお行儀いいやつの方が恰好いいに決まってんだろって思うんですよね、ちゃんと出来ないからそういう言い訳作って自己肯定してるわけですよ、ご都合主義のリアル、って、つまりそういうこと

 

 

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

突き抜けられない澱んだ人生

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

口先だけの柔らかな拳

 

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

大人ごっこで幾年月

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

果ては一言だけのゴリ押しモード

 

ライツ・ナウ

おまえはチヨットヴィシャス

勝てない喧嘩は大人の対応

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

無理を通して引っ込めた道理

 

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

駄々こね続けて墓場まで

ライツ・ナウ

おまえはチョットヴィシャス

努力と理性は棚の上

 

ライツ・ナウ

ライツ・ナウ

 

ライツ・ナウ

ハハハハハハ…

 

ただただ世間体やらを気にして、必死で大人面してる連中の薄っぺらい化けの皮、一枚剥がせばそりゃあ見苦しいもんさ…あんたも覗いてみるかい?簡単なもんさ、もしもあんたが、きちんと自分を生きているならね…

 

 


はじめから手遅れ

2022-11-21 14:37:46 | 小説

 

 

ぼくにしてみればそれはとても上手く行っているように思えたし、彼女にしてもそう考えていると感じていた。でも、こうして突然ぼくの前から消えたということはきっと、ぼくの方になにか問題があったのだ。そこに疑うべき部分はなかった。他人との関係性に関して、ぼくには非常に希薄というか、まるで興味を持たないといってもいいくらいの感覚があり、そのせいであまり誰かと深く関係を持つということがなかった。それでも何人の人間かはぼくという存在にどういうわけかひどく興味を持ってくれて、友達になったり恋人になったりした。彼女は特に果てしない藪を丁寧に擦り抜けるみたいにぼくの深い部分にまで接近してきたので、お互いに深い信頼関係の下、夫婦になったはずだった。ぼくらの生活は、ぼくの叔父が持っている古い日本家屋で始まった。叔父は少し障害があって、ホームの方で世話になっていた。とにかくどんなことでも溜めずに話し合おう、生活を始めるにあたってそれだけがぼくたちの数少ないルールのひとつだった。どんな小さなことでも解決するまできちんと言葉を交わしたし、そのたびにぼくらの中は穏やかなものになっていった、はずだった。それがまさか、四年目にしてこんなことが起こるなんて、それはとても馬鹿げていることだった。居なくなった、と気付いてまず最初にぼくがしたことは家探しだった、彼女の寝室(ぼくたちは寝室をそれぞれ別に持っていた)にも、リビングにも、彼女は何も残していかなかった。それでぼくはこれはマジなやつだと思って、何人かの共通の知り合いに連絡を取ってみた。誰一人彼女の居場所を知らなかった。あるいは、知っていてもぼくに教えようなんて考える人間は居なかった。自分が知っている限りの彼女の友達にも連絡を取ってみた。その結果分かったことは、ぼくはあまり彼らに好かれていなかったのだということだった。彼女たちの言葉の端々に、ぼくを嘲笑するような響きが隠れていた。おそらくはぼくの方に問題があるのだろう。思えば彼女たちが家に遊びに来たのは初めのうちの数回程度だった。ぼくの両親はすでに他界していたので、彼女の実家の方に連絡をしてみようかと思ったけれど、とりあえず少し様子を見てみることにした。ひととおり電話を終えてしまうと、それでもうすることを思いつかなかった。探しに出る?どこに?私物を全部持って近場をうろついているなんて思えなかった。空港や駅に電話をして、彼女が利用した形跡があるかどうか調べてみようかとも思ったが、そんな安手のドラマみたいな話に彼らが協力してくれるとも思えなかった。ぼくはとりあえず昼飯を食べながら今後のことを考えることにした。冷蔵庫にあるものを適当に刻んで、冷飯を使ってピラフを作って食べた。食べると眠くなったのでソファーで転寝をした。

 

夕方、玄関のベルの音で目が覚めた。ぼんやりした頭で出てみると、彼女が買ったものらしかった。ぼくは礼を言ってリビングに戻った。化粧水かなにかのようだった。一瞬、開けてみようかと考えたが、そんなことをしても彼女の居場所が書いてあるわけでもない。ひとまずそれは彼女が使っている化粧台の上に置いておいた。家を出て行こうというときに、ネットで買物などするだろうか?要するにこれは、彼女にとっても予期せぬ出来事だったということなのだろうか。ぼくは違う可能性について考えてみた。なにかしらの事件が起こった。誘拐や殺人。考えてみるだけでゾッとした。だけどすぐに、それは現実感がないと思った。家の中に荒らされた形跡は無いし、なにしろ彼女の持ち物があらかた無くなっているわけだから。それは自発的に行われた行為だと結論づけるのが妥当だった。ぼくは掃除をすることにした。掃除機を出して、家じゅうの床にかけた。それから雑巾を出して、フローリングの部分を拭いた。それが済んでしまうともう夕食の時間だった。ぼくはパスタを茹でて簡単な具を炒めて合わせた。どうでもいいテレビ番組を見ながら食べた。タレントたちはみんな無理をして笑っているように見えた。

 

三日目にぼくは、彼女の実家に電話をかけ、実はこういうことが起こっている、と告げた。彼女の母親は心底驚いたようで、それはつまりそこにも彼女は居ないのだということを意味していた。「警察に行こうか迷っているんです。」彼女の母親は、自分も心あたりに連絡してみるからそれは少し待ってくれ、と言った。わかりました、とぼくは答えて電話を切ろうとした、ごめんなさいね、と彼女の母親は言った、いえ、とぼくは答えて電話を切った。謝らなければいけないのは多分ぼくのほうなのだ。

 

ひと月が過ぎた。彼女の行方は依然として知れなかった、どこかで見かけたとか、実はわたしの家にずっと居るの、なんて話もまるでなかった。彼女はまるで荷物と一緒に完全にこの世界から消え失せたかのように思えた。警察にも顔を出してみたが、事件性が感じられない限り積極的に探してくれることはなさそうだった。子供ではないのだ。ぼくは仕事から帰るたびに空っぽの部屋を見てため息をついた。そして代り映えのしない食事を作っては一人で食べた。テレビはもうつける気がしなくて、CDをひたすら流していた。テレビ番組というのはある意味で、標準的な幸せのエッセンスなのだ。

 

 

三か月目の日曜の朝、ぼくの孤独は突然に終わった。小さな庭に出て洗濯物を干していると、どこかで木の枝がたくさん転がるような音がした。ぼくは音の聞こえてきた方を見た。数十年前、この家がリフォームされる前に使われていた風呂と便所のある小さな小屋があった。鍵が壊れていて開けることすら出来ない小屋だった。そんなものが庭に在ること自体ぼくは忘れていた。ひどい胸騒ぎがした。洗濯物を放り出してぼくはその小屋へと走った。小屋の木戸はなにかでこじ開けられていた。引き開けると嫌な音を立てて外側へと倒れた。中には、天井から吊るされたロープに引っかかって揺れている頭蓋骨と、床に散らばった白骨があった。念入りに磨いたみたいに真っ白だった。散らばった骨の後ろに、大小ふたつのスーツケースと、一足のパンプスと、倒れた椅子があった。ぼくは、膝から崩れるように地面に落ちた。いつまでかかってるのよ、と言わんばかりに、真っ白な骨に空いた真っ黒な眼窩がそっぽを向いた。ぼくは茫然と、彼女が消えてからの数ヶ月を思い返していた。

 

 

 

 

―なんてこった。

 

 

 

 

                       【了】


反動

2022-11-14 16:20:54 | 

 

 

無音の川の側に立っている、辺りは夜のように暗い、だが、夜なのかというとそうではない…なにか異常な理由があって、夜のような闇が演出されているという感じだ、根拠になるようなものはなにもない、ただ、そこに漂う空気の中に、人ならぬものの意図が感じられる、そんな風に言えばなんとなく想像も出来るだろうか…身を屈めて、流れの中にゆっくりと手を差し入れてみる、水の流れは速い…温度はなく、ただ、さらさらとした液体の感触が手のひらにその勢いを伝えるのみだ、立ち上がり、デニムパンツの腰の辺りで手を拭い、耳を澄ましてみる、川には音がない、それは最初にも言った、だが、それ以外の音はある、風が吹き、落葉がそれに煽られて裏返ったり、踊りながら少しばかり移動したりしている、そんな様子が聞き取れるくらいだ、生きものが―例えば野良犬なんかが、俺が食えるかどうか考えながら身を潜めているといったような感じはまるでしない、おそらくここには生きものと呼べるようなものは存在しない、ただ無音の川があり、その周囲に必要な最低限の環境が、可も不可もない感じで設えられている…言うなればそんな感じだ、けれど、それがこの世界のすべてなのかどうかは、なんとも言えない、しかし少なくとも、なんらかの理由によってこの場所にフォーカスが当てられていることだけは間違いないようだ、なにもするべきことを思いつかなかった、そもそもこんな場所に居る理由すら釈然としなかった、夢を見ているのか、それとももっとなにか―違う世界観の中に連れ込まれたのか―確証に至るような材料はどこにもなかった、あまりにも唐突で、あまりにも無意味にそんなところに放り込まれた、そんな感じがした、そのせいなのかどうかはわからないが、あまり能動的に動く気持ちにもなれなかった、そんなときにはなにもしないことだ、感情をフラットにして黙って立っていれば、おのずと自分のするべきことは見えて来るだろう、そう腹を決めていた、「川の音だけが存在しない」そんな場所にいるせいか、どこか現実感を欠いていた、おそらく、そんな場所であれこれと嗅ぎまわってみたところで、なにか納得が行くようなものを見つけるのは無理だろうという気がした、俺は黙って立っていた、時折風が吹いては、落葉が行き場所を探して路面を突っついた、この世界は動いているのだろうか、突っ立ってそんな音を聞いているとそんなことを考えた、不自然に構築された世界に居るような気がした…そのうちに喉の渇きを覚えた、川の水を飲むくらいしか思いつかなかった、そもそも周囲になにがあるかなどまるで目に入りはしないのだ、迷いはなかった、それが唯一自分の身体に起きたアクションだったからだ、手で水を掬い、一口飲んでみた、ただの水のように思えた、砂や石といった不純物は入っていないように思えた、山頂に近い川の水を掬って飲んだ時のような感じだった、相変わらず温度は感じられなかった、何度か同じように掬っては飲み、喉は潤った、だからまた黙って立っていた、ふと気づけば風の音もしなくなっていた、無意味なほどの無音がその場を支配していた、そんな場所のことをいつか夢想したことがあったのを思い出した、音のない世界―そんな世界に行ってみたいと考えていたのはいつのことだったか、まだあまり歳を重ねていない頃のことだった気がする、日常の中にある音があまりにつまらないものに思えていた時期があった、そう…小学校二年生くらいのことだったはずだ、朝起きて、母親と交わす会話、朝食、着替え…登校や友達との会話、朝の挨拶、授業、ちょっとした喧嘩、給食…下校、車やバイクの音、救急車やパトカー、大人たちの靴音、住宅地から聞こえてくる生活音―そういったもののいっさいが下らないと感じていた、こんな音がまったく聞こえてこない世界に行きたいと、子供にしては強く願っていたものだった…そんなことはすっかり忘れてしまっていた、もう何十年も昔の、ほんの一時期のことだったのだ―不意に蘇ったそんな記憶は、不思議と心をざわつかせた、思えばあの頃考えていた以上に、なにかを願ったことなどなかったような気がする、たまたま感情が抜けなかった死体だと、思春期にはそんな風に自分を称して青臭いシニカルな笑いを浮かべていた―(つまり、ここは…)そう考えずには居られなかった、俺はなにか、奇妙な入口を潜り抜けて、あの頃望んでいた世界を手に入れたのだと…俺は首を横に振った、俺が勝手にそう考えただけのことだ、この世界にはなにも、存在する理由なんて見受けられないじゃないか…けれど、少し前に考えた通り、アクションに従うとするならば、それが間違いなくその世界の理由だった、認めたくはなかったが、確信さえしていた…俺は声を上げようと思った、その世界の成り立ちに抗いたくなった、理由などなかった、本能的な衝動だった、俺は声を上げようとした、だが声は出なかった、口を塞がれているみたいだった、そういえば―俺は呼吸をしていただろうか?それはなにか真っ当な方法では行われていなかったような気がする、少なくとも俺の耳は、俺自身のそんな蠢きを少しも聞いていなかった、それは断言できる―俺は闇雲に手を振り回した、なにかの感触に出会いたかった、でも、ますます深くなる闇の中には、それ以上俺の手に触れるものはなにもなかった、恐怖がやって来た、俺は悲鳴を上げて―悲鳴を―途端、誰かが手を叩いたみたいに世界は入れ替わった、眩しいライトが俺の目を突いた、「気が付いた」ものものしい格好に身を包んだ見知らぬ男が、俺を見下ろして安堵のため息をついた。

 


剥き出しの鉄を打ち鳴らす

2022-11-06 16:22:50 | 

剥き出しの鉄を打ち鳴らす

 

ツクツクボウシが啼きそびれたみすぼらしい晩夏からそのままスライドした秋の曇天は、思考回路が壊れた若い母親が道端に投げ捨てる紙おむつの色合いで、ホームセンターのワゴンから掴み取ったスニーカーの靴底は、昭和後期のままのアスファルトの路面で容赦なく擦り切れる、幼いころの擦過傷の記憶、貼り付けたまま数週間が経過した絆創膏が皮膚に植え付けていった悪臭は、まるで前借した急逝の臭い、父親の携帯電話はいつだって役に立たなくて、極潰しの息子たちは街金のATMで人生を塗り潰す、ろくでもない職にしか就けなくて白目は澱むばかり、仕方なく胃袋に注ぎ込むインスタントラーメンの涙のような塩味で真夜中は満員だ、小さな音で流れるラジオはいつだって肉親の葬式に似ていて、枕に飲み込まれる狂気は自分自身に瓜二つの奇妙な虫を産み落とす、暴力沙汰のニュースが頻繁にワイドショーを奮起させるその裏で、決して明るみに出ない殺人が途方もない単位で繰り返される、なぜ人を殺してはいけないのですかと自己顕示欲に過ぎる間抜けな子供の質問に、ルーティンワークで摩耗するばかりの大人たちは本気で頭を抱え込む、本当のことは決して教えられない学校の未使用の教室で、新任の教師と色ボケの女子高生がトレンディな性欲に溺れ、校長は会議が終わるたびに不必要なほど大きな机に隠れた下半身でマスターベーションを繰り返す、退屈な親たちは暇潰しに徒党を組んで、絶対に届くことのない願いを掲げながら満面の笑みで街中を練り歩く、餌に群がる蟻の半分にも満たない真剣さでダラダラと続く列は、まるで擦り切れた安保闘争のなれの果てだ、公園の土を掘り起こして、産まれることの出来なかったツクツクボウシのサナギを拾い上げ、どうかいまからでも産まれてくれないかと懇願する俺は、もはや季節の変わり目すら神の策略かと疑っている、夏はもう逝ってしまったんだよと街角の詩人が精液のようなロマンチシズムを振りかざし、トサカに来た俺は大人のおもちゃでそいつを刺殺する、通りがかった三人の女子高生がそんな俺を指さして大声で笑いながらどこかへと去っていく、返り血に塗れた俺はまるで時代遅れのスプラッター映画だ、ここぞというときに死ぬことの出来る、ヒット作の役者どもは幸せだ、大人のおもちゃは手の中で破裂する、俺は自分自身の血までダラダラと、季節の変わり目に引く風邪のせいで止まらない緑色の鼻水のように垂れ流しながら、アーケードの中を酔っ払いのように練り歩く、何度も警官と擦れ違うのに、彼らは決して俺を呼び止めることはなく、俺はふざけやがってと口走るものの、手の中にもうなんの武器もないことを思い出す、人間が人間を殺すときに必要なのは、明確な武器の存在なのだ、憎悪などきっと文庫本の栞程度の後付けの理由だ、ジョン・ライドンは妻の介護で忙しく、ラモーンズはとうとう卒業してしまった、半端な田舎のアーケードなどあっという間に終わってしまう、廃業してしまったタワーパーキングにバリケードの隙間から潜り込み、呪いの言葉を叫びながら剥き出しのコンクリートに頭を打ち付けるも、血が流れるばかりで砕けるなんてことは決してない、貪欲な人間ほど頑丈に出来ているのだと、はみ出した鉄筋の切れ端が笑っている、がらんどうの建物にこだましてそれはまるで、もう二度と来ない夏の記憶みたいだ、人間が人間を殺すときに必要なのは明確な武器の存在だ、俺は階段を駆け上がる、最上階から見えるこの街の景色は、きっとこの世の果てに違いない、ツクツクボウシの声が聞こえる、ツクツクボウシ、なんでそんな風に鳴こうと思ったんだろうか、どうでもいい割になかなか忘れられなさそうなそんな疑問が、膝をがくがくさせながら最上階を目指して走る俺の脳裏でループする、見上げた時にはこんなに高いなんて思わなかった、ろくに動かしたこともない身体はとっくに悲鳴を上げている、最上階に行くと何が見えるだろう、世界の果てとはいったいどんな場所だろう、息が上がり、咽こみ、涙が流れる、啼きそびれたツクツクボウシたちの無念が俺の中で渦を巻いている、重たい鉄の扉を開けて俺はとうとう辿り着く、屋上、夢にまで見た最上階、そこに在るのはただの街の景色だった、俺は絶望して悲鳴を上げる、うずくまった途端に襟首を捕まれ引き起こされ、青筋を浮かべた警備員の顔を見る、余計な仕事を増やすなと擦れた猿のような声でそいつは言う、俺は息を切らしながらどうしようもなくこみ上げる怒りに、叫びながら警備員を突き飛ばす、彼は悲鳴を上げながら開口部を落下していく、車のリフトに何度も何度もぶつかりながら…俺は尺取虫のように屋上に倒れ込む、少しだけ眠ろう、少しだけ眠れば季節はまた変わるかもしれない、少しだけ眠れば蝉だって産まれるかもしれない、貪欲な人間ほど頑丈に出来ているのだ…

 

 

 

 

冬が来る頃にはすべてを忘れることが出来るかもしれない。