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永遠に消えてゆく

2024-01-26 14:56:57 | 

 

 

蒼い夜に沈んだ

あなたの真意が

しんとした空気に濡れるころ

空にはいくつかの言葉が

亀裂のように浮かぶ

渡り鳥は平衡感覚を忘れ

目当ての星を見失う

それは人の為にあらず

だからこそ

祈りは切なるものとなる

 

祭壇には切り刻まれた神

滑らかに捌かれた天使たちが

もはや空っぽの目をして

ステンドグラスのギロチンでオブジェと化す

聖歌は逆回転で流れ

蝋燭は一瞬で燃え尽きることでしょう

外はいつしか嵐

巨大な獣の咆哮のような風

機銃掃射のような雨の音

身を低くして

窓を覗いてはなりません

それがどんな夢だろうと

現実にならないという保証はどこにもないのです

 

引き裂かれるような世界の中

吊り上げられる思い出には傾向があり

わたしは血の涙を流しながら

指が折れんばかりに両手を組み

昔覚えた聖書の言葉を呪詛のように繰り返す

誰に祈るのですか

聖堂の拒絶

パイプオルガンが低い声で唸る

あなたにもしも牙があるなら

わたしの喉笛を掻き切ればよろしいのに

 

願いなど在るはずもなく

また信仰など

余興程度にも持ち合わせてはいないのに

壁には人いきれが張り付いていく

古い油のように固着した場所からは

獣の肉のような臭いが微かにする

わたしはあなたを罰するでしょうか

あるいはあなたがわたしをそうするでしょうか

問いは山ほども繰り返されるのに

解答が用意されないのは長過ぎた逡巡のせいでしょうか

わたしは薄汚れた剣を構え

雷を望むかのように掲げる

両開きの扉が風に煽られて悲鳴のような音を立てる

ある程度重ねられた人生のあとの

目覚めるという使命には畏怖すら感じたりする

 

戯れに花を手折る時

その花の名を訊かないでください

枯れてしまうことがわかっているものを

わたしに愛させようとするのはやめてください

激しい雨は胸の内の壁まで濡らす

讃美歌を歌いたいのに

それはわたしの知っている伴奏ではない

鍵盤に触れているのは誰

周囲の人をつかまえてはそう尋ねてみるけれど

みんな興味がないというように首を横に振るばかり

わたしは少し高いところにあるその席を

何とか眺めることが出来ないかと背伸びをするけれど

どんなに頑張ってもつむじすら認めることは出来ない

 

夜が

夜が

夜が

雨のかたちになって降りてくる

聖堂を飛び出して

その夜に触れようとするけれど

あらゆる扉を施錠したのは誰だろう

オルガンの音色に魅せられてはいけなかったのだ

風、雨、それと雷

撃ち抜かれる

人も、街も、夜も、なにもかも

わたしは自分の血が降り注いでいるような気になって

氷を抱いたかのように冷たい床に膝をつく

 

幸福は誰が決めた

不幸は誰が決めた

晴天のもと、豪雨のもと

それに似た歌が選ばれてしまうのはどうして

階段を歩いていた数百年前の信者は

膝から絶えず血を流し続けていた

あなたはきっとそういうものを信仰と呼ぶだろう

わたしはしたり顔で指についた血をひとなめする

今夜だってきっと誰かが

都合のいい額縁の中に収まりたがっている

首の無い天使の亡骸は腐敗を始める

わたしはその臭いを嗅ぐことをきっと怖がっている

落雷の衝撃で聖堂は少し揺れる

聖堂の裏には、昔

薔薇を敷き詰めた庭がありました

しかしある日、わたしの叔父が

「臭いが鼻につく」と

すべて燃やしてしまいました

それだけでなく、彼は

そのまま火に巻かれてしまい

あれほど嫌っていた薔薇と共に

真っ黒い灰になりました

 

わたしはなにも決めない

わたしがさまざまなものごとを思い出すとき

薔薇の棘が食い込んだ脳はじくじくと傷む

いつもそう

記憶に埋もれるときには

激しい雨が降っている

まるで

いつかの火を消してしまおうと躍起になってでもいるかのように

わたしはなにも決めない

雨が降っているだけ

だけど、どうして

金切り声で啼くみたいに降らなければならないのだろう

あの雨の中に出て行けば

わたしは記憶を整理出来るだろうか

そしてあなたはあの椅子に戻って来るだろうか

もやもやと炎のようなかたちに窓が曇っている

もう外でなにが起こっているのかなんてついぞ気にしてはいなかったのに

哀しい思いが胸に爪を立てるのはどうしてなのだろう

 

わたしは止むことを待っているのか

それともそんなことはどうでもよくて

ただ朝がやってくるのを待っているだけなのか

天井のステンドグラスから誰かがこちらを覗いているように見える

でもそれは低過ぎる黒雲なのかもしれない

オルガンはもう沈黙している

だからもう

そこには誰もいないのだということがわかる

天使たち、ねえ、腐敗してしまうあなたたちは

やはり地獄へ行くのですか

それともなにか、死とは違う理の中で

これまでのすべてをやり直すのですか

人生は、もしかしたら

失われるすべてのために歌われる鎮魂歌なのだ

わたしは使い物にならなくなった箒を持ち上げ

一番近い窓を叩き割る

雨と風が吹き込んで、小さな破片がわたしの頬をかすめる

手のひらで拭うと

絶望的なまでに赤い血液が

「あなたも人間である」

囁いていたのだった

 


密度流

2024-01-17 21:26:33 | 

 

 

僅かな振動、それは肉体の中で生まれていた、リズムが求められ、理由は求められなかった、進展が求められ、完成は求められなかった、渇望は凶暴だったが、今夜はそのまま表現されることは望まれなかった、暴風の中でかすれた口笛の旋律を拾うような作業だ、でもそれを成し遂げなければ、今夜いい気分で眠れないことは分かっていた、常にいくつかのパターンが生まれ、たったひとつだけが選ばれた、ひとつ間違えたらそこで終了してしまう、今日はそんな気分だった、肝心なのは今自分に最も適した速度はなんなのかということだった、痛みが生じるほどに耳を澄まし、辺りに散らばるものの正体を掴もうとしていた、二十一時を少し過ぎたところで、上手く使える時間はあと少しだった、音楽とそれ以外の静寂の中で、手探りは黙々と続けられた、僕は君のようにこれを読んでいる、その意味が君に理解出来るだろうか、だだっ広い野原、誰も居ない朽ちかけた家屋、忘れられた海、そんな場所に佇むことはもうすでに詩として成立している、誰にも見せる必要がないのなら、それで…でもそんな完結はいつか自家中毒に繋がるだろう、望むものに出会えた時、それは変換して吐き出されなければ、身体の中で行き場所を失くしてしまう、振動が生み出していく波形をしっかりと読み取っていなければならない、ある時まで僕は、それは速ければ速いほどいいと思っていた、指先が追いつかないほどの速度で思考を記していくことが大事だと考えていた、でも―ある瞬間に、そんなことはさほど重要なことではないと悟った、僕がこれをどんな速度で記していようと、目にする君たちにとってはどうだっていいことなのだ、僕は余計なスタイルを排除した、でも生み出されるものには一見違いはなかった、でも僕には分かっていた、確実に書き続ける段階に突入したのだと…生まれた羅列の形だけがすべてだ、それ以外にどんな解説も必要はないはずさ、どこにも綻びが生じないように並べることは、先を焦って指を走らせるよりもずっと綱渡りで刺激的な行為だった、君はきっと気付いているだろう、僕は変わり続けている、変化こそが自分で在り続けるための手段なのだ、そうでなければこんなことにいちいち時間を費やしたりするものか、僕はもう意味を求めることはしなくなった、もう何度か説明しているけれど―そんなものは勝手に生まれてくるものだ、コントロールしてはならない、整理された途端に鼓動は失われてしまうだろう、生まれた羅列の形だけがすべてだ、時々は手を止めて音楽に耳を傾けたりする、昔はすべてで一行だと考えていた、でも今は一行がすべてを作るのだと考えている、それは似ているようでまるで違う、あらかじめ理想とされる集合と、結果的に集合となる一行の連なり、真逆だと言ってもいい、そんな一行を継ぎ足し続けていると、感覚は次第に奇妙なサイレントの中に溶け込んでいく…静寂は凶暴だ、あらゆるものをとらえられてしまうからだ、狂気と正気の間には境界線などない、静寂を恐れることなく、拒むことなく、力を抜いて漂っているとそのことがよく分かる、狂気とはなんだ?それはあるがままをあるがままに理解出来る瞬間のことだ、その、膨大で漠然としたデータを畏怖することなく受け止める瞬間、全身を駆け巡る微細な電流が狂気の正体だ、つまるところそれは―芸術の正体だといって差し支えないだろう、僕が芸術などという言葉を口にするのはおこがましいと君は思うだろうか?では芸術の定義とはなんだ?世間に認知されることか?―もしもそれが芸術の基準だというのなら、君はすべての表現から手を引いた方がいい、辞めちまえばいい、それはごく非常に一般的な、社会的な意見だ、自分の中に基準が無いのなら、大人しく時間を社会に献上して給金を貰って過ごすべきだ、いや、確かに僕自身、芸術なんて言葉には少しよそいきなものを感じてしまうけれど…芸術なんて本来、学術的な意味で語られるような言葉ではないはずだ、僕はそれは熱量のことだと思うのだ、あらゆる種類の熱量のことだ、ただ闇雲な、勢い任せのものだけのことじゃない、芸術の中にはそれだけしかないと思う、なのに、インテリゲンチャどもがそいつの意味を捻じ曲げてしまった、豪邸やポルシェ、上等なワインみたいなものにしてしまった、まったく、すぐに定義に走る連中はろくなことをしない、それはどんな階層に居る人間もそうさ、僕はそんな連中に唾を吐き続ける、そんな連中が僕について分かったような口をきいていると、悍ましい虫を見たような気持ちになる―

 

 

 

世界は毒ガスに満ちている、だから、僕は仰々しいマスクを装着するのだ

 


甘く無残な鼓動

2024-01-06 22:15:54 | 

 

 

脳裏で吹き荒ぶ嵐を、飲み干して制圧したい、闇雲に振り回した拳は、触れてはならないものだけを破壊した、影の中に隠れ、目論む感情のリカバリー、人差し指の傷を舐める、舌にこびりついた血は堪らなく苦かった、ガラスの破片、いっそ肉体に混入して、体組織の一部になればいい、焼却場の炉の中で輝くだろう、闘いの概念、結局は精神の在り方さ、指揮統制、すべては自分の為だけに、禁止区域を抉じ開けて進軍を続けろ、目を逸らしたいものこそが本質だ、肉体を持つ以上綺麗なものではいられない、悲鳴が聞こえる、或いは、昂ぶりの果ての絶叫かもしれない、どちらにせよなにも無いよりはマシというものだ、産まれることにも生きることにも、本来意味などたいして無いものだ、闘いを求める意志だけが、そこに意味を見出していく、俺の精神はいつだって闘いの中に在る、折れそうな牙をひけらかしてる暢気な連中とは違うのさ、傷を穿て、溢れ出した血を啜れ、言葉は犠牲者の記録だ、一度飲み込んですっかり忘れてしまえ、忘却の中に在る奇形化した記憶、その歪み方が、その歪み方がどうしようもなく愛おしいことさえある、能面みたいなまともさなんか御免だ、俺は自分の血を撒き散らす、そこから漂う圧倒的な生と後悔の臭いの中で生きている、文脈は俺を解体する、化学物質によって保存され、見世物にされた死体に憬れる、複雑な血管のネイキッド、どうしようもなく昂る気持ちがお前に理解出来るかい、叫びに思えたものは渦巻く風だった、四方八方、身を隠す場所もなく、弄られながら俺はいくつかの文節を叫ぶ、聞こえない詩、聞こえない言葉、そこには無限の意味があった、そんな種類の無意味が俺を生かし続けてきた、空っぽの空間では様々なものの反響がよく聞こえる、小さなスコップでそれを埋め尽くそうとしているのさ、一生を費やしても達成出来ない、そんな遊びだからこそ夢中になれる、それは固定されたものではない、すべては変化する、アメーバのように、スライムのようにね、確信など幻想に過ぎない、変化の過程と速度への執着、それが人生の正体さ、正気は狂気、正常なんてただの真直ぐな線だ、数値化出来ることになんてどんな興味もない、飲み込んだ嵐は内臓の形を変える、心拍が跳ね上がり、なのに血液は冷えて行く、最高の混乱、バッド・インフルエンス、でも満更じゃない、そこには常に、次を模索する試みがある、身体が音を上げる時ほど、精神は先に行きたがるものさ、そら、限界を超えて見せろ、身体が軋めば軋むほど新しい言葉が落ちてくる、無理は効くんだよ、そしていつからか、それは無理ですらなくなる、そしてさらに深みへとのめり込む羽目になるのさ、理解した瞬間に腹は括った、俺が欲しいのは栄光なんかじゃない、社会的な認知でもない、そんなものどうでもいい、俺は書きたいことを書き続けた、死ぬまで、死ぬまで、それをやり続けた、俺が残したいものはそれだけさ、人生、運命、宿命、使命、すべてを疑え、すべてに抗え、生身の肉体が感じるもの以外はすべて取るに足らないものだ、玉砕覚悟じゃない、玉砕するのさ、彩色されて浮き上がった血管はそのまま舞い上がり竜になる、バリバリと、バリバリとそいつが筋肉や骨から剥がれてゆくその時のサウンドは俺を常世へと導くだろう、俺は俺の世界の神だ、誰に文句を言う筋合いがある?余所見をしている暇はない、空っぽの空間はすべてを飲み込んでしまう、思考する速度だけが一瞬そいつを超えることが出来る、指先は自動書記のように動き続けて好き勝手綴り始める、俺はただ手を添えているだけさ、あとはディスプレイに打ち込まれていく文字だけが語り続ける、俺はそれを知らない、俺はそれを知らない、知ろうとも思わない、そんなことは重要じゃない、無意識に引き摺り出されたものだけが本質を語ることが出来る、そしてそのほとんどは気付かれることもなく過去に処理されていく、その過程がそこにあった、それこそが重要なんだ、たとえ後に記憶の中で奇形化しようと、その過程が細胞に刻まれることこそが重要なんだ、自分一人の為以外に語られる詩など無い、傷を穿て、溢れ出した血を啜れ、だらしなく口元を染めながら、どんな理も要らない世界に足を踏み入れるんだ、大丈夫だ、俺が生きている限り、本当に書きたいものは待っていてくれる、俺は叫ぶ、それは悲鳴のようでもあり、絶叫のようでもある、衝動のすべては死の瞬間まで理解出来ない、俺は自分の血を撒き散らす、ギリギリ生きていられる段階まで血が冷えたことってあるかい、俺はそれがどういうものだか知っている、血からは逃れられない、血だけは欺けない、血を超えることは出来ない、血の概念を超えることは出来るだろうか、この先俺は、そんな景色を見ることがあるだろうか、いつか馬鹿笑いが聞こえたら拍手してくれ、満更じゃない、いつだって満更じゃない、知らない間に唇が切れていた、俺はその血を舐める、いつかは、そうさ、お前に止めを刺してやれる時がくるかもしれないぜ