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寄生虫の頭を捕まえて喉から引き摺り出す

2020-04-30 18:13:00 | 













世界は水晶を透過したかのようにどこか輪郭を甘くして、副作用で冷えた俺の身体は冷蔵庫の果物みたいだ、生来的なペインに砕かれた午後の欠片、台所洗剤がバラす油のように居なくなる、ラジオで聞いたコクトー・ツインズの残響、緊急車両が交差点に突っ込むときの合図、テレビでは死者の数が表示されてる、そいつらはきっとウィルスが生まれなくても死んだだろう、荒く引いた胡椒が降り積もるような空虚、真っ白な画用紙に真っ白な絵具は、きっと…あらゆる空白はあらゆる過密と同じ、その証拠にどちらも呼吸不全を連れてくる、銀色の器具で体内を掻き回せ、穿たれた穴から害虫は這い出るとしたものさ、オシログラフには本当の死を語ることは出来ない、跳ねるラインを見て精霊は死神みたいにほくそ笑むだろう、そこに明かりがあろうとなかろうとあらゆるものは天井へ吸い込まれていく、神の掃除機には俺たちには分からないしきたりがあるだろう…三半規管に幼いころ失くしたチョコレートが紛れ込んでいる、幼馴染の思い出―永遠に歳を取ることのない―レントゲンに映らないのは当り前のことさ、潰れたガレージの部品、発掘されたかのような死に化粧、割れたカウルの―塗料なのか?とてつもなく赤い―ヴァイオリンのように軋んだブレーキの末路、文明はいつか悪臭に塗れて目を閉じるのさ…コール・ガールの人知れぬ青春は自動販売機の意味のない場所に充填されてヒートポンプで維持されてる、それだけは金を積んでも無駄だよ、それだけは―道端のポエトリーリーディング、唾とともにばら撒かれた詩文を踏み潰していく幾つもの足跡、その泥のついた靴底を凌駕するものをあいつはついに書くことが出来なかった、遺書はごく普通の文面だった、笑っちゃうね…命なんて要るんだか要らないんだか分からないとしたもんだよ、その認識がつまり、俺の人生のすべてということなんだろう、ブウ、と、短い罵声の真似事、強い精神の本質は曲線的であるかどうかさ、変わり続けなければなにも維持出来ない、そのものであり続けることは出来ない、現在位置を見つけ続けることだ―清潔な豚小屋のような繁華街、フレグランスな家畜たち、帽子にマスク、サングラスにイヤホン、外に居たって解放出来るものなんかひとつもないんだ、知らず知らずおぞましい悪霊にとり憑かれたままで居るのに、流行病は死ぬ程怖いってさ、タップしてアクセス出来る心のことしか理解出来ないんだろう、ファストフードは現代人の心までジャンクにしちまった、シェイク頂戴、マネキンみたいなお姉さん、プラスチックのカップには上手に隠されたごみ箱が良く似合うね…駅の構内から特急列車が踊り出す、妙な顔を車両一杯に書き殴った―見世物―この街の性格をよく表してる、黄砂が飛んでるってさ、どうりで何度も咳が出る、春ってこんなに薄汚れたもんだったかな?小さな公園のベンチで小休止、野良猫に餌をやるなと大仰過ぎる立看板、こいつを立てたのはもしかしたら、ここに最初に猫を捨てた誰かさんかもしれないぜ、誰だって自分の落度は躍起になって塗り潰そうとするものだ、無邪気な子供らが遊具で遊んでいる、連れて来た母親までが無邪気過ぎる、純粋な心は子育てには向かない、暢気な殺意がここいらじゃ充満してるっていうのにさ…公衆便所は煙草の臭いを換気出来ない、個室のスライドロックにまで染みついてる、昔ここで死体が見つかったことがある、もう知ってるやつはあまり居ないかもしれない…俺たちはひとつじゃない、自分のことすら記憶の彼方に追いやってしまうのに、余所事なんてそんなに覚えていられるわけがない、記憶は使い捨てられる現在、だからまた同じことを繰り返してしまうんじゃないのか?枯れた街路樹のそばで噴水がべらべら喋っている、捨てられた炭酸飲料の空缶が恨み言を閉じ込めている、空は夕焼けに染まり始めている、あの、水増した血のような赤の意味を教えて、本当の夜が訪れてしまう前に、俺は知らぬ間に足早になる、夜の中には子供の頃とは違う怖さが隠れている、生き続けようとするものほど臆病になる、銀行の時計が執拗に現在を主張している、メイン道路は一秒でも早く作業着を脱ぎたい連中のクラクションの交響曲だ、ただし、誰も音譜通りに鳴らすことは出来ない、カラスが思考を切り裂くように飛ぶ、街路に溢れる食いものを探しに行く時間なのだろう、愚かな生きものたちの始まりはこれからさ、そうとも、この車の列がすっかり、狭い駐車場でため息をついたらね…。











ボロボロに転がれ詩人症の骸

2020-04-26 15:13:00 | 
















悪ガキども、武器を手に取れ、思考の虐殺を開始しよう、俺たちは衝動に従う、自分を突き動かすものを信じる、思考は時により、心を縛り付ける鎖になる、そんなものはもう捨てちまおう、俺たちは思考を乗り越えた野獣になる、思考と理性は、切り離せるものではないとお前は思うだろう、なに、思考だって理性だって野性の一部だ、がんじがらめの毎日の中で分離してしまっただけのことさ、自分自身を執拗に漁れば誰だってそのことに気づける、俺は気づいている、お前は気づいていない、ただそれだけのことなんだ、準備は出来たか、指先を存分に跳ねさせろ、あらん限りのイメージを投げ捨てて脳味噌をクタクタにしてしまえ、安穏としている限り見えることはない景色を目の前に引きずり出してやれ、お前はいつだってそんなものを望んでいたはずだ、欲望は常識の中にはない、わからないのか?コミュニティを維持するために築かれた悪趣味な城の中じゃ、いくら目が利いたって大事なものを見つける事なんて出来やしない、それは、思考を云々する以前の段階なのさ、お前は自分自身であるために自分自身でないものに縛られているんだ、そしてそれをアイデンティティだと心から信じている、嘆かわしいぜ、目も当てられない、都市のロボトミーはずいぶん巧妙になったものだ、そうだと気づく前にベーシック・コードが書き換えられてしまう、あてがわれたお題目を疑うことなく信じ込んでしまう、機関銃を寄こせ、死なない程度にハチの巣にしてやる、そんな思いをしなければきっと気づくことは出来ないだろう、誇り高き部品なんかに俺は話しかけたりしないぜ、陳腐な口を聞く前に自分のことを見つめ直してみるんだな、機関銃、機関銃か、思えば俺はいつだってそんなリズムを求めてきた、我知らず、自分を穴だらけにしようとしてたのかもしれないな、フレーズの弾丸は天にも昇る気持ちだぜ、一足お先に天国だ、俺はソコラヘンからお前らのことを見下ろすとするよ、なんてな、そんな気分もいつまでも続きはしない、だから果てしなく次を求めてしまうんだな、ジャンキーだって?そう言いたければ言うがいいさ、だけど俺はお前たちよりもずっと確かな目をしているだろう?そうさ、この快楽は身体を蝕んだりはしない、もしかしたら時に、心は酷くズタズタになったりするかもしれないけれど、でもそれは、必要な痛みさ、知るために与えられる痛みなんだ、血が滲むほどに耐えながら俺は何度もそんな痛みに耐えてきた、そして知ってきたんだ、それが虐殺だ、思考の、表層の己自身の、途方もなく悲惨な死にざまさ、そして、それを見下ろしているのもまた俺自身だ、矛盾だって?どこの世界に居たって矛盾なんか当り前の要素だぜ、何の筋を通そうとしているんだ、何の辻褄を合わせようとしているんだ、俺が話しているのは特定のポイントに弾を当てればいいなんて話じゃないんだぜ、所構わずぶっ放して生き残ったものを選べって話なんだ、まったくお前ってやつは、全部説明してやらないと何も理解出来ないのか?これは的確な言葉じゃない、いいか、これは的確な言葉じゃない、イメージの一部に過ぎない、現象の一部分の、瞬間的な変換に過ぎないんだ、だから、いくつもの捉え方をすることが出来る、無限の感じ方をすることが出来るんだ、その中には俺の語るイメージとほとんど同じだったり、まるでかけ離れたものだったりする解釈があるだろう、いいかい、俺にとってそれが正解かどうかなんて問題じゃない、お前がそこに至るまでにどれほどのサイコロを転がしたか、重要なのはそこだけなのさ、正解なのかどうかはそこ次第だ、それがあればお前はそこから、いくつもの正解を導き出すことが出来るだろう、正解はひとつの形を持たない、それは連続するものなんだ、連続する思考であり、連続する行動だ、即答などもってのほかだ、すぐに答えを得る者たちの薄っぺらさを恥だと思うことが出来ないのなら、お前はそこまでの人間だってことさ、さあ、武器を手に取れ、思考の虐殺を開始しよう、侮るなよ、あいつらは手強いぞ、時に俺たちを根底から揺るがすような手段を使ってくる、それは下手したら即死に繋がる、いいかい、気を抜くなよ、これは街角のバトルじゃない、生きるか死ぬかの、生死を賭けた本物の殺し合いなのさ、しかもどんなに手酷い攻撃を受けても一滴の血も流れないときてる、おまけに、完全に敗北して死んでしまったところで、傍目には誰にもそのことがわかりはしないのさ、あいつ最近書いてないな、そんなやつを探してみなよ、きっと、暗闇が乗り移ったかのような黒目で、この世にはない場所をじっと見つめているはずだから。
























金属のリズムに違和感があるのはあたりまえ

2020-04-23 21:51:00 | 

















ポケットの中で小銭を弄ぶ癖をやめたのは微かに耳に届く金属音が命を削っている気がしたからで、それについては正しいとも間違いとも考えてはいない、ひとつひとつのポケットはずいぶんと軽くなった、小銭をあまり持ち歩くことがなくなったせいだ、それはひとつの財布に集約されて鞄の中で沈黙している、そんな些細な経験が教えてくれたことは、人の死なんてどんな入口からでも入り込んでくるということだ、あれは確かに細やかな死の予感だった、ある時まで周辺はそんな予感で満ちていた、だからたくさんの癖が失われ修正された、それについては正しいとも間違いとも考えていない、自分を神経質だと考えたことはない、むしろそんなふうに変化していけるのは柔軟だからこそだと考えている、自分を維持するためには変化し続けなければいけない、この世界にあるあらゆる意地の大半は麻痺だと俺は考えている、幾人かにはそんな話をしたことがある、彼らは激高した、キラウェア火山のように溶岩を吹き上げた、そんな連中とは完全に縁を切った、付き合ったところでなんのメリットもありはしないからだ、ことを成した人間がこだわりを語るのはいい、でもなにを成しとげたこともない人間が途上で講釈を垂れるのは大間違いだ、俺はそう考えている、要するに人として一生なにかを追い求めていくつもりならそんなことを話すべきじゃない、一生追い求めていくのならつまり、一生そんなことについて喋るつもりはないということだ、スポーツ番組のヒーローインタビューとは違うのだ、区切りは訪れないし終焉は一度だけ、もっともらしい理屈をつけて投げ出さないかぎりはね、さて、小銭をあまり持たないようにすると財布に収まりきらないくらいの小銭が部屋の中に残るようになる、なので俺は財布を持つこともやめ、一日に必要な金額だけを小銭入れに入れて持ち歩くようにした、それはある意味で便利だったし、ある意味で不便だった、でもその割り切れなさはなんだか心地良かった、俺は合理的な人間ではない、どちらかといえば試験的な人間であると言える、それから、挑戦的だと、俺はジンクスを持たない、金の使い方などにこだわりはない、節約に興味はないが、浪費するわけでもない、ただある程度の量というものはあるだろう、でもそれを追求しようなんていう気もさらさらない、こだわりを持つことが大事だというものもいる、だけどそれは自分にとって本当に必要なものについてだけでいい、それでは駄目だと食い下がる連中は決まって本当に必要なものというのを持っていない、だからすべてを同等に扱ってしまうのだ、清潔さを好む人間の清掃が正しい清掃だとは俺は思わない、それはただただ執拗なだけなのだ、そんな人間が箒を振り回した部屋になど一秒も滞在したくない、自分に縛りを課す人間が正解を出している場面を俺は見たことがない、懸命さが伝えてくれるものは口の端が引きつった笑いくらいのものだ、兎にも角にも、闇雲に懸命さを主張する連中がいる、率直に言うことを許してもらえるなら、あいつらはただの馬鹿だと俺は答えるだろう、真剣さとはつぎこむことではない、人生のあらゆる要素を自分が生業としているものに委ねられるかどうかだ、そして、それをどのくらいの配合で差し出すのかという冷静さを持ち、ここだという場面では一気に叩き込む熱さだ、情熱だけで語られたくない、知識だけで語られたくない、シニカルなポーズや、嘘臭いアジテーションなんかもってのほかだ、俺がみたいのはそいつ自身の自然な空気だ、それをどんな風にこちらへ流してくれるのかという興味だ、そこに関しては好き嫌いなんかないぜ、どんなものでも飲み込むことが出来る、興味さえきちんと満たしてくれればな、ねえ、知ってるか、心臓ってそいつの一生の中でだいたい何回振動するのか決まってるらしいぜ、手首に指先を添えて脈をとらえるんだ、きっとそれはこうして文章で目にするよりもきっとずっとたくさんの意味を含んでいるんだ、俺が自分の人生で見たいのはそれがどれだけフレーズとして成り立つのかという部分さ、ビートってそういうことさ、ビートってそういうことだろ、ただの前世代の流行なんかじゃないぜ、心臓は人間の数だけあるんだから、だから俺はポケットの中で小銭を弄ぶことをやめたんだ、なあ、聞いてるか、人の死なんてどんな入口からでも平気な顔して入り込んでくるんだぜ。












気づけよ、ユニークなメイクを施してたのはいったい誰だったのか

2020-04-16 22:24:00 | 



















素顔を晒したピエロが血に濡れた鉈を持ってステップを踏んでいる、被害者の若い女は生首だけになりながらも食ってかかる、無茶だぜ、自殺行為だ、どぶ鼠は優れたギャラリーのふりをして腕組みの姿勢でぼそっと呟く、赤子の霊たちは遠巻きに取り囲んで笑顔を浮かべている、死んでから覚えたのか?その、どこか枯れたような薄暗い微笑は、電源を切られたまま意思を持ったテレビカメラのようだ、巨大な鳥は散乱した内臓にありつけるかもしれないと考えてずっと頭上を旋回している、やつの涎はずっと俺の髪の毛を濡らしている、だから俺はずっと忌々しい気分を抱えてそこに立っている、生首だけの女はなかなかに口が立つ、だがピエロはずっと踊りながら聞き流している、やつがターンを決めるたびに鉈にこびりついた生首女の血液が路面に禍々しい円を描く、生首女はそのたびに舌打ちをする、チッ、チッ、ピエロは時々その舌打ちにステップを合わせているように見える、それが女を余計にいらだたせる、ピエロはすべてを聞いているらしい、そのうえで聞いていないふりをしている、狡猾だよ、なかなかのものだ、俺がもしも銃を持っていたら間違いなくやつに向かってぶっ放すだろうな、レストランの残飯をたらふく貪った蝿が銃をぶら下げてやって来る、やつは擦り合わせていない後ろ足で器用に銃を差し出し、さあ、とでも言うように小首をかしげて見せる、大きな目でずっとこっちを見ている、俺はその目つきが気に入らないと思う、銃を受け取ったら真っ先にこいつを撃ち抜いて塵にしてやろうか?俺がそう考えた瞬間蝿は何かを察知したのか銃を落として去って行く、銃は地面に落とされた弾みで一発発射されてしまう、目玉を裏返してゴロンと横になったのは生首女だった、俺は正直有難いと思った、肉体を介さない自意識のみの彼女の声は非常にカンに触ったのだ、ピエロは踊るのをやめて死んでしまった生首女をしばらく見下ろしたあと、鉈を振りかざして俺に襲い掛かって来る、俺はその眉間に三発ぶちかます、ピエロは一瞬呆然としたあと、糸の切れた人形みたいにその場にくずおれた、ケケケ、と赤子たちのほうから笑い声が聞こえた、俺は鉈を拾い上げ、笑い声の聞こえた方へ適当に投げ飛ばす、うぎゃあ、と泣声が聞こえて、赤子がひとり倒れる、霊だろ?と俺は問いかける、観念的殺人、と、ひとりの赤子が自動読み上げソフトみたいな調子で答える、俺は鉈を拾い、そいつに向かって振り下ろす、そいつは素早く横移動して俺の鉈をかわす、なので俺は蹴っ飛ばす、うぎゃあ、と泣いてそいつは死ぬ、円を保てなくなった赤子たちは何故だか急に心許ない感じになった、経験値が足りない、と俺は彼らにアドバイスする、経験値が足りないよ、でもそんなこと、よく考えてみれば当たり前のことだよな、俺だっていまだに経験値が足りないんだ、RPGのキャラクターじゃない、999を超えたって数値は上がり続けるんだ、自分のレベルを把握するだけで数分はかかっちまう、おまけにその数字はたいした参考にはなりはしない、俺はいらだって鉈を持ったままターンする、赤子たちの首がひとつずつ順番に飛ぶ、ベイビー!と俺は叫んでゲタゲタ笑う、サイレンの音が聞こえて、顔を真っ黒に塗り潰した警官が二人パトカーから降りてくる、死体だらけの路上を見下ろし、これはどういうことですかと問いかけてくる、さあ、知らないね、と俺はすっとぼける、俺がここに来たときにはこうなってた、と、もっともらしい調子で答えてから、手に血塗れの鉈を持ったままなのに気がつく、警官もそれに気がつく、ここに落ちてたんだ、と俺は弁解する、気が動転して素手で拾ってしまった、と詫びると、かまやしませんよ、と警官が答える、そして、渡してくれというように手を差し出す、俺はそいつの手に鉈の柄を握らせる、その瞬間警官はノーモーションで後ろに居た仲間の頭をかち割る、それから俺の方を見て、な?という感じで頷く、俺たちは大笑いする、しばらく笑っているとどこからか酔っぱらいの集団が現れ、お前らうるせえなと文句をつけてくる、警官は期待を込めて俺に鉈を戻す、俺はターンを決める、酔っぱらいの首が順番に刎ねられる、ぶんと鉈を振って血を飛ばしたあと、警官の首まで刎ねてしまったことに気づく、あーあ、と俺はひとりごちる、かまやしませんよ、と警官の生首は言う、俺はその時彼の本質に気づく、彼の肯定は絶望の果てにあるものだった、俺は鉈を捨て、そこらにあった車に乗り、クラッシュ出来る壁を探して猛スピードで走り始める。










この街の壊れた玩具たち

2020-04-13 00:05:00 | 
















レス・ザン・ゼロの臭いがする通りで乗り捨てられたキャデラックのバンパーを破壊する夜明け前、野良猫のように芯まで雨に濡れて…夢中になり過ぎて怪我をしたことにも気付かずにいたんだろう、ご自慢のストレッチ・デニムは左脚の腿のあたりが斜めに切れて、プロレスリングのコスチュームみたいにそこだけ色が変わっていた、縫わなくてもいいかもしれないけど消毒ぐらいはしておくべきかもしれないぜ…人類はウィルスに怯えている、まるでペストの頃みたいにさ、だけど若さはいつだって独善的だ、そうだろ?美徳だの美学だのそんな話じゃない、ただそうせずにはいられないってだけのことさ、学者がメディアで話し合うほどの話じゃない―俺は哀れなキャデラックの通りを隔てた崩れかけのアパートのロビーにいた、あのヤンチャな坊やからは見えない、明かりの消えたロビーにさ…そこに住んでいるわけじゃない、ただほんの少し、雨を避けるつもりで潜り込んだだけさ、そして、慎ましい破壊を見ながら、それはどこに向かうのが一番幸せなのかって考えていたんだ、あの、キャデラックがいま身に染みて感じているような、外に向かう破壊と、内なる破壊のどちらが―爽快感は外に向かう方があるのかもしれない、でも幾度か繰り返せばそれはきっと、ルーティンワークみたいな無機質な感情へと変わるだろう、俺のスコープはいつだって俺の内側へと向いていた、俺が突き刺したいものはいつだって、ナイフの刃先が決して届かない場所にあった、俺にとって、言葉のひとつひとつはそれぞれが小さな刃物だった、それを紡ぎ始めたとき俺は感じたんだ、これはいつか俺の心根を確実に貫くものになるかもしれないって…でもそうだ、幸せって気分にはそれはまるで近くはない、もしかしたら、破壊することではそこに近付くことは出来ないのかもしれない、のほほんとして、何も考えずに、すべてを受け入れ、真っ直ぐに堅実に―そんな人間じゃなければ、自分が幸せだと感じることは出来ないものなんだ、つまり幸せってのは、ドラッグを使って見る幻覚と同じようなものだ…どういうことかって?「騙されるのが得意なやつだけが知ることが出来る」ってことさ、それは同じことなんだよ、それは同じことさ、御機嫌を損ねられても困るな、それは俺自身の人生で得たひとつの幸福に対する結論なんだ…坊やはバンパーが転がると満足してどこかへ行ってしまった、あるいはそれ以上惨めな思いをしたくなかっただけかもしれない―どっちだっていい、俺の人生に関わりのあることじゃないもの、だけど、俺がもしやつの立場だったら、って、俺はどうしても考えてしまうのさ、そしてそれは、きっとすごく虚しいだけだろうって、たとえばそれがバンパーとフロントガラス、それから運転席のドアくらい思い切ったことであったとしてもね…生傷に使う消毒液の量が無駄に増えるだけのことだ、その痛みは一晩眠れば忘れてしまう、壊されたのが自分ではないからだ、内に向かえない人間にはそのことがわからない―手のひらを差し出して雨の程度を確かめる、スェードのジャケットを着ていなければそんなに迷うことも無かっただろう、俺にだってひとつやふたつ、大事にしたいものはあるのさ…けれどその夜はもう帰りたかった、でも雨はまだやみそうもなかった、そんなタイトルの歌がはるか昔にあった、なんてバンドが歌っていたのか思い出せなかった、そうだ―俺は名案を思い付いた、このアパートメントの部屋を何軒か訪ねれば、捨て置かれた傘のひとつふたつ見つかるかもしれない、俺は奥へと進み、部屋のドアをひとつひとつ開けて確かめてみた、二階の一番手前の部屋のドアが少し開いていて、バスルームだろう小さな部屋の前に投げ捨てられた傘が見えた、それはいましがた雨に濡れたばかりみたいに濡れていた、俺はそのことが妙に気になった、ここの住人ではない―この建物はもうそういう目的にはとても利用出来ない―バスルームで結構な物音がした、反射的にドアを開けて覗いてみると、みすぼらしい恰好をした若い女が首を吊ってバタバタともがいているところだった、足元に椅子が倒れていた、俺は椅子を立て直して、女の足元に持って行った、ただそれだけのことをする間に五回蹴られた、女は時間を巻き戻したように椅子の上にもう一度立った、もちろんもう蹴ることが出来ないようにがっちりと押さえつけておいた、女は少し躊躇ったあと首から縄を外してゆっくりと下りて来た、それから椅子を抑えている俺の横に座り込んで顔をまじまじと見た、「デッド・ガール」って映画に出てくる質の悪い元いじめっ子によく似ていた、「なんでここにいたの?」「雨宿りだ―そろそろ帰りたくなったんで傘を探して部屋をあちこち覗いていたんだ」ふう、と女はため息をついた、「もう少し気長に待ってくれてたほうがありがたかったわ」そうかな、と俺は異議を唱えた、「もう少し早く帰る気になってりゃあんたに五回も蹴られなくて済んだんだ」む、と女は短く唸った、「それについては素直に謝っておくわ」「じゃあ恨みっこなしだ」俺は立ち上がった、「まだ死ぬつもりかい?」女は首を横に振った、「もう一回やるなんて御免だわ」「じゃあ家まで送る」と俺は座ったままの女に手を差し伸べた、「それで、よかったらそのあと傘を貸してくれないか?」女は肩をすくめた「何と答えればいいのかしら」「ありのままに答えてくれれば」「ええとね…もう帰るところが無いの、追い出されちゃって…」じゃあ話は早い、と俺は言った、「俺の家に一緒に行こう、部屋は余ってる、少しの間なら貸してやるよ」女は喜びとも苦笑とも取れる笑みを浮かべた、「で、その代りに…?」今度は俺が首を横に振った、「そういうつもりはない」「早く家に帰りたいんだ、もう他に傘を貸してくれるやつも見つからないかもしれないし…」俺は頭を掻いた、女はまあまあ納得という感じで何度か頷いた……結果的に、俺は嘘をつくことになった、言い訳はしない、だって、明かりの下で見たときの彼女の汚さときたら…!どうしたってまずシャワーを貸すことになるじゃないか?