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あの頃と同じように赤い

2018-03-25 01:26:00 | 

















ほんのすこし長く
少年で居過ぎたのさ
膨大な時計の回転のなかで
上手くやるコツを見過ごしてしまった
高速鉄道の窓から見える景色に限りがあるように
自分の思うがままに走り過ぎたのさ
ごらんよ、手のひらのインクの汚れを
あたらしい仕事のために書きものをしていたんだろ
真夜中過ぎまで眠れなくなったのは
ほんとうはすべてのことを判ってるってことなのさ
青写真のほとんどを破り捨てざるを得なかったのに
今だって出来るつもりでいる
そして真夜中にワードを立ち上げている
おれはとても人目を引くよ
でもそれはだれも居ない廃屋の窓から差し込む光のような
空っぽで居続けているせいなんだ
明日と去年の違いが判らない、
そんな人生を
おれはこれからも生きようとしているんだ
そこにあるのは決して自分だけの世界ではないというのに
つけっぱなしのテレビで流れているのは盛大な宇宙戦争の映画さ
でもそんなものにはまるで興味を持っていない
いつからかそれはひとりごとのように画面だけを垂れ流している
その戦場ではだれも死んでいないことを
その映画を真剣に観ている連中よりはすこしだけよく知っている
おれの書いているものだってそれによく似ているからだ
おれの主人公は
レーザーガンをぶっ放したりはしないけれど
テレビを消して
めちゃくちゃな音楽を流す
ずっと悲鳴が響き続けているみたいな音楽さ
そうとも、おれの人生は
ずっとそんなようなものだったんだ
昔っから喋り過ぎるくせがあった
特典映像が本編よりも長い映画のDVDみたいに
綴った言葉よりも語った言葉のほうがずっと多かった
(もしかしたらそれは騙っていたのかもしれないね)
インスタントコーヒーを飲みたいと思ったけれどもう歯を磨いてしまった
だから苦々しいなにかを思い出そうとして
痴呆症の老人が障子を破るみたいにキーボードを鳴らしている
まだ買って数年あまりのそのノートパソコンのキーボードは
どういうわけか「A」のキーだけがほんのすこし浮いている
言葉はからになることがない
もう二十年以上こうして書き続けている
言葉はからになることがなかった
でもそこからなにかが生まれていくこともそんなにはなかった
友人が何人か出来たことは喜ばしいことだった
そいつらもみんな歳をとった
おそらくはみんな同じように、少年で居過ぎたようななりで
「大人になんかなるもんか」なんて、そんな歌が昔あったけれど
大人になれるやつはそんなことうたったりしないものさ
十代を塞ぎ込んだやつらは
ずっとそんな気分を持ち続けて生きるしかないものだ
おれは今そのことをとてもよく知っている
薄っぺらいヒットソングが夢を語っているのを
カナル型のヘッドホンを耳に突っ込んでよどんだ白目で歩いているやつらを横目で見ながら
おれはずっとそんな気分を持ち続けて生きてきた
変ったことと言えば音楽がデジタルデータになったことくらいさ
友人たちよ、おれはまだここに居る、ここに居て、悪あがきを続けている
もしもまだおれの声が届くところにいるなら
もしもおれの言っていることが理解出来るというのなら
きみのあたらしい言葉を
年老いた少年であるきみのあたらしい言葉を
果し状のようにおれに突きつけてはくれないか
案ずることはないよ、それは馴れ合いにはならない
おれたちはきっと大人になることなんかないからだ
道端で長々と天気の話をしたり
薄っぺらい政治批判をすることなんか一生ないからだ
おれたちはすべてをさらけ出して出会ったから
訳知り顔をしてみせる必要なんてどこにもないってことさ
ずっと悲鳴が響き続けているような音楽が好きなんだ
おれの人生も昔っからそんなようなものだったからさ

















朝陽のあとで

2018-03-18 01:18:00 | 

















路地裏の、闇雲に積み上げられたコカ・コーラのマークのケースの一番上の段からは内臓に疾患を抱えてそうな誰かの小便のにおいがした、睡魔で朦朧とした頭を手のひらの根元でがつがつと二度小突いて、ノーブランドの腕時計を確認すると午前二時だった、一昨日の雨のにおいが微かに感じられるのはろくに日が当たらないからなのか?そういう道を好んで歩いている俺もまた…あまりに八十年代的なセンスに苦笑しながら、そしてほんの少しだけ忌々しく思いながら、舗装されているはずなのに砂利道のような音を立てる路面を踏みしめていく、どこかのコンビニエンスストアの明かりが道の出口を急な斜角で照らして、そのあたりだけシネマティックな様相だ、「ブルックリン最終出口」でしょっちゅう出てきたあの景色さ、あれはあんまりいい映画じゃなかったけどな…だけど、もしかしたら小説よりもいい話ではあるかもな―表通りを吹き過ぎる風が夜明け前の湿度を運んでくる、この街のミストは俺にろくなことを思い出させはしない―飲み過ぎたのかって?いいや、信じてもらえないかもしれないけれど、酒なんかここしばらく一滴も飲んじゃいないんだ、こんな時間にこんなところを歩いている人間の中にも、素面なやつが居るってことだよ、覚えておいた方がいい、こんなリトル・ワールドにだって、想像のつかない出来事なんていうのはごまんとあるんだ…フランク・シナトラの古いナンバーをハミングしながら、つま先の少し先だけを眺めて歩いた、砂利のような音をさせていたのは、割れた瓶の欠片ってわけさ、判るだろう、午前二時に表を歩いていると目に入るのはそんなものばかりさ、もう少し早い時間なら、ギターを抱えて歌っている傷のない連中を目にすることだって出来るけどね…なあ、信じられるか?自分の人生にそんな過去があるってこと、十年前、二十年前…そんな昔が自分のなかにだってあるってことがさ―長いこと生きれば、そんなことには慣れると思っていた、でもそんなことはない、いつだって驚いてばかりさ、もしかしたら俺にはそれだけの時間を生きたっていう自覚がいつだって足りないのかもしれないね、妙に全速力のタクシーが走り去るのが見えた、あれはきっと早く帰りたいのだ、それとももしかしたら、幽霊でも見たのかな?いまやこの街じゃ幽霊なんて怖いものでもないけれどね…どいつもこいつも華やかなりしころの夢を見てぼんやり歩いているばかりなんだから―真昼間から幽霊だらけさ、ゾンビなんてそんなアグレッシブなもんじゃない、幽霊、浮遊霊ってやつさ、澱んだ目をしてフラフラしている幽霊だらけだぜ―そう、この俺はいまだになんにも成しとげちゃいないけれど、確かに歩いているという自負だけは持っているのさ、ただ毎日をなぞるだけの連中に比べればね…だけどそんな自負がなんになるって言うんだろう?俺はいつだってそんなふうに考えるんだ、そんな自負になんの意味があるんだろうって…当然、そんな疑問に答えなんかあるわけもない、答えなんかあるわけもないけれど、だけどね、そんなふうに考えるのは大事なことなんだ、そこには確かにその先があるからさ、確かにその先へ向かうなにかが隠れているからなんだ、答えを出すことなんかまるで重要なことなんかじゃないんだ、重要なことは、答えを求めようとする行為なのさ―その繰り返しが新しい道を歩くためのノウハウになるんだ、こんな路地裏じゃなくてね…いや、ことわっておきたいんだけども、こんな時間にこんなところを歩いているのはこの話とはまるで関係がないことなんだ、これはなんていうか、眠れぬ夜のただの時間潰しさ…知ってるかい、歩いた日と歩いていない日では、眠りの深さがまるで違うんだぜ、本当さ―歩いた日には、ユニバーサル映画なみの長編大作な夢だって見ることが出来る…と、ここで俺は表通りへと躍り出る、そう―ゾンビのようにね、アグレッシブに…突然表通りに出ると、自分が場違いな生きものになったような気分になる、ほんの少しの間だけどね、そういうのって、判る?俺はいつだってそういう気分で人生を歩いている、それはなんていうか、俺があまりこの街の現実ってやつをあんまり気にしていないせいなんだろうな、それが大事じゃないなんて言うつもりはないけれど、俺にはなんだかつまらなくってさ、おまけにこの田舎町じゃそういった現実をしつこいぐらいに押し付けてくるやつが必ず居て、俺はしょっちゅうウンザリしてしまう…俺はなんていうか、指針を人に貰うような人間じゃないんだよね、既存のお題目が無けりゃ口も開けない人間とはちょっと違うんだ…それが良いこととも悪いこととも俺は思わないけれどね、だってそうさ、人間にはそれぞれの役割ってもんがあるんだろうから…表通りに出てどうするのかって?家に帰るのかって?まだだ、まだだよ、まだ家に帰るには早いんだ、眠れずに歩き出したこんな夜には、街の外れで夜明けを見てから帰るのさ、そうさ、どんなささやかな夜にだってご褒美はほしいものじゃないか…?



















Fallin

2018-03-16 02:20:00 | 









クラクションはたった一度だった
きみはそれ以上
もうどんな歌をうたうことも出来なかった
雨はうらみごとのように降り
夜は馬鹿みたいに目かくしをした

なにもかも手遅れの明けがたに
残されたナンバーに呼び出しをかける
「いまこの番号は誰も使用していない」と
抑揚のない声が繰り返して教えてくれた
時計を見てはじめて
寝床に入っていないことを思い出す

ソファーで見た短い夢の中身は
おぞましい模様の熱帯魚の水槽の中をゆっくりと沈んでいく
土の色をした餌をどこかから見つめているというものだった
エアーポンプの神経質な泡がひっきりなしに邪魔をして
しまいにはいらだって大きな声を出したけれど
それは妙に生体感のある膜に阻まれておがくずに吸い込まれるように消えた
眠りの五線譜の采配はいつだって出鱈目だ

(なのに不思議と忌々しい的には命中させてみせる)

ねえ晴れるって言ってた、たしかにあの夜は
日中夜間ともにおだやかな天気となるでしょうって
あれはなにかの冗談だったのか
それともきみの運命が強引に軌道を修正したのか
ターンアウトスイッチを切り替えるみたいに
嘘みたいに星が見える空のまま
スコールのようにひととき雨は降り続けた

インスタントコーヒーのカフェインなんか役に立たないし
ラジオで流れてるヒットチャートも耳たぶにぶつかってどこかへ行ってしまう
窓を開けて風を入れても
病み上がりみたいな疲労感に包まれただけだった
壁掛け時計は神経症の作家みたいに
送信局の電波とディスカッションを繰り返していた
正確な表示は安心を与えてくれるけれど

(針の音を聞きたいと思う瞬間だって一度ではなかった)

雑誌をめくったって読書のまねごとになるだけだし
散歩に出るような気分でもない
シャワーでも浴びれば少しはましかもしれないけれど
きみのことを裏切るような気がしてまだ動けない

どしゃぶりの雨の中で旅に出たきみは
びしょ濡れの駅に着くのだろうか
神様は白い太陽のイラストが描かれたこうもり傘を広げて
きみをしかるべきところへ案内するだろうか


なにも思いつかないときひとはたいてい水を飲んでみるものだ
そして喉を落ちていくそれは理不尽な運命のように感じられるだろう














いつだって気づかないところで孵化は続いている

2018-03-10 23:02:00 | 
























狂気は茸の胞子のように弾けて、部屋中を漂い、石膏ボードを隠す味気ないベージュの壁紙に羽虫のように止まる、ばらばらの間隔で点在するそいつらは、どこかの阿呆の妄想があれば星座になることだって出来るだろう、あるいはオカルティックな、示唆を込めたサインのように…だけどそれは血しぶきと同じでたまたまそんなふうに飛び散っただけのことさ―余計な注釈をつけようと思っただけで真実はどこかへ姿を消しちまう、シンプルの定義は、あらゆるものを見ようとした結果がその手になければ勘違いに引っ張られる、壁に残された偶然なんかにいつまでも気を取られていてはいけない、そこにはどんな示唆もない、雲のかたちと同じようなものにポエジーを期待してはいけないよ、ゴムボールを手に取って、その点在を潰すみたいに二、三度壁にバウンドさせる、エアーの具合は決して良くない、欠食児童よりは少しマシかもしれない、だけどそんな比喩はどんな慰めにもなりはしないだろう…キッチンのほうで張り詰めた物音が聞こえる、排水のパイプが寒さにやられているのだ、氷にもしも鳴声があるとしたらきっとあんなものに違いないぜ、床のペットボトルに少し残った水は数時間前の忘れ物だが、少し口に含んでみたらそのときと同じくらいには冷たかった、部屋の温度は管理されていない、エアコンは時に生きものを睡眠をとるだけの馬鹿にしてしまうから―ラジオからビートルズ、だけどその曲名を思い出そうという気持ちにもならない、彼らは自分の力で歌うことが出来ない連中の手によって神坐へと据え置かれた、その責任の大半はきっとジョン・レノンにあるだろう、でもそう悲観したもんでもないさ、ポール・マッカートニーはいまでも立派に商売を続けているんだから―飲み干したペットボトルを無意味に握り潰したりしないくらいには大人になることが出来た、だけどそのあとはこうして飛び散った狂気の行方を捜しているだけだ…煙草が好きなら火をつけるだろう、酒が好きなら栓を抜くだろう、だけどそのどちらにも興味はない、それらはなにを生み出すこともしないからだ、退屈を持て余しているのならそのままにしておけばいい、そうでなければ疑問を追及することだってままならないだろう、思考を止めないことだ、そうすれば隣人と同じような生きものになることもない…まるでラインを辿っているだけみたいな、そういう連中のことさ…「ラインを辿る」っていうのは、まさしく現代的な思考停止を表現するに相応しい言葉だな、そう思わない?ほんの少しだけ乗り遅れている感じは否めないけれどね、だけどそんな些細な誤差なんかきっと、取り立てて騒ぐほどの意味はありはしないさ、二十年前に書かれた小説が当時を象徴しているかどうかなんて判断することが出来るかい?ビートルズが終わって、イギー・ポップの年甲斐もないパンクロックが流れる、彼を一番パンクだと思ったのは、シャンソンを歌い始めた瞬間だった、だから彼はまた犬になりたがっているのさ、最高のジャンプはもう目指す必要はないからね、あとは楽しいことをやり続けるだけだ、アイ・ワナ・ビ・ユア・ドッグ、誰に向けて歌われている?それは誰に向けて歌われている言葉なんだ?それはきっと彼の年甲斐もない筋肉だけが知っているだろう、彼はパンクロックによって自分であり続けた、きっとただそれだけのことさ、最初のストゥージーズだけが正しいと言うのなら、二十歳そこそこで死ぬべきだ、そうだろ?ラジオのスイッチを切る、狂気を静寂が塗り潰す、他人の遺産をあれこれとこねくり回したところでどんなものにもなれやしない、よそ見をすればそれだけ自分の愚かさを見落としてしまう…ボールペンを手に取る、僅かなカラーボックスやチェストを押し退けて、ステップを持ち出し壁の隅からずっと、思いつくままに言葉を走らせる、そんな映画があった、ずっと昔、ゴダールが大好きな青瓢箪のデビュー作さ、でもあんなささやかな日記じゃない、この壁を埋め尽くすくらいの長い長い詩があると良いと思った、そうすればその他のどんなものも気にすることはない、いつだって読み返すことが出来る、気に入らないところが見つかれば塗り潰して書き直せばいい、もしもこの面のすべてにそれを書き込むことが出来たら、壁に向かって一生を費やすことが出来るだろう、だけど、そうさ、言葉自体に意味を持たせてはいけない、言葉自体に目標を持たせてはいけない、そこに意思があればすべては書かれた瞬間に終了してしまう、それはあくまでも、言葉では語れないものを語るために使われなければならない、俺たちは真実の幹から張り出した枝を飛び交う蝶だ、無数の葉に阻まれて幹に近付くことは絶対に出来はしない、下手したらそこに幹があることすら知らずに死んでいく、辿り着かないから目指すことが出来る、ふとした瞬間に垣間見えるその樹皮は




いつだってまだ死ぬわけにはいかないと思い出させてくれるだろう
























だから君はささやかに赤く光るセンサーに手をかざせばいい

2018-03-04 13:50:00 | 












出鱈目に打たれた杭のような樹木の
日に焼け落ちたカーテンのような枝の隙間で
天使の抜殻が薄曇りの空を透かして濡れている
ヴィデオゲームは明確にエンドを表示するけど
人生ゲームのそれはあまりにも判り辛くて
エンディングクレジットの片隅で
NG集を流してるような連中も珍しくないし


ラジオで流れるタンゴの裏拍が妙に五月蠅く感じて
まだ早い空の下で闘牛の幻覚を見ている
角が真っ直ぐにこちらに向かってきて
恋人を迎えるように両手を広げて立っている


昨夜の雨の名残を残す路面では
週末の馬鹿騒ぎの置き土産が点在している
点滅信号の下で誰かが死ぬような思いをしたらしい
清掃スタッフのジャンパーを着た中年の女が
水道代が心配になるくらいの水をかけている
長いこと口の中に入れたままのガムが
瀕死の捕虜のような音を立てて唾液を絞られている
戒厳令は日常茶飯事
戦争でもない限り撃たれるのは後ろからさ


アダルトビデオの看板を堂々と掲げる店舗の駐輪場で
三本脚の犬がこちらを見つめていた
視線はインク切れのコピー機みたいで
ひたすらに白紙を吐き出していた
まるでこちらになにかしら書き込む義務があるとでもいうように
やつの眼球は一ミリも移動しなかった
たとえ無軌道な子供らがきちがいじみた声を上げながらすぐそばを通り過ぎても


ダヴの低音をウンザリするぐらい響かせるウーファーが
二本南のバイパスで信号待ちをしている
缶コーヒーの苦みは演技過剰な実力派が見せる余韻みたいで
神経質な日にはすぐに水が欲しくなる
スマートフォンを操作しながら自転車を走らせている若い女が
軽四トラックに引っ掛けられてみっともない姿で転ぶ
本当の恥はきっとそれに気づかないところにある


二年前に廃業したガソリンスタンドの敷地内にある便所はどういうわけかまだ生きていて
退屈で仕方がない時にはそこを覗きに行く
一週間に一度は苦笑するようなトラブルの痕跡があって
エディ・マーフィーのジョークぐらいには盛り上げてくれる


車道わきの小さな側溝の丸められたガムの包み紙は
痛ましい文明に翻弄される都市のポエトリーリーディングだ
センテンスを拾い上げてゴミ箱に返すのさ
遺言に変わるなら詩情も本望だろう
排気ガスが声量だけのシンガーみたいなうたを歌い続けている
ブーイングを飛ばすのは髪を尖らせた連中ばかりだぜ
日本人にパンク・スピリッツを売り込むのはやめときな
あいつらは幾つになっても卒業出来やしないから


マーケットで右腕に買い物かごを引っ掻けて歩いてる連中は
何故だかなんの目的もない放浪者のように見える
かごが埋まるごとに制限時間が減っていくのだ
遊びは終わりだぜ、清算を済ましなよ
いつまでも陳列を眺めている暇はありはしないんだ
レジの女が妙なレンズでバーコードを読みながら薄笑いを浮かべる
彼女はきっと幾つかのからくりに気がついているのさ
出口の自動ドアの開き具合を見てみなよ
きっと出迎えてくれた時より素っ気ないに違いないさ


パラセーリングのように浮遊する意識がビルの隙間の限られた自由を漂っている、見下す目に映るものはここで見えるものと大差ない、ほんの少しアングルが違うだけさ、ほんの少しアングルが違うだけなんだ、そこからはやつらのつむじが見える代わりにやつらの表情は見えない、汚れた屋根が見えても血のこびりついたバンパーは見えない、街灯に取り付けられたスピーカーは見えてもそこから流れてくる音楽は聞こえない、美しい街並みが見えたところで路地裏に転がった死体のことは判らない、さあ、君はどうする、空を飛ぶか、町を歩くか、それとも地下へ潜るかい、そしてどんな武器を手にして、どんな戦果を得るんだい、天使の抜殻のために叫ぶのかい、三本脚の犬のためにうたうのかい、廃業したガソリンスタンドの便器に転がる薄汚れたスプーンのために戦うのかい、ひび割れた街路にはいつだって数え切れぬほどの詩が溢れているのに、君はいつだって気の利いた行間と数行の羅列だけで片付けようとする、俺は睡眠不足の脳味噌を極限まで捩って、君が選択しないもののためにキーボードを叩くのさ、夜になる前に、夜になる前に、出来ることはまだ必ずある、夜になる前に、夜になる前に、新しい文書は必ず出来上がる、電子メールの時代になったって面倒臭いことがなくなるわけじゃない、ならば俺はそこに留まって…


点字ブロックに残された吐瀉物みたいななにかを書き記すのみさ