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俺のアッパー・カットはすごく下から

2009-03-29 22:37:00 | 









車体を軋ませながら
ショッピングモールの駐車場の出口をかすめてゆくキャデラック
ハウリン・ウルフが辺りを
ビリビリと揺らすほどに吠えてた
けたたましく鳴きながら
あとを追っていくポメラニアン、誰かの手を離れて
寄生虫みたいに長く首から垂れ下がった赤いリード
末端の小さなリングに
過保護な飼い主の孤独がこびりついてた
昨日生まれた街のあたりで起きたスクーターに乗った男二人組のひったくりのニュース
ぶっちゃけた話俺の兄弟の仕業じゃないかって本気で疑ったぜ
ハング・ファイヤーを口ずさみながら空がクローズする時間帯を眺めている
携帯電話の中の見覚えのない番号に回したら
「神様があなたに清く正しく生きる為のヒントをお与えになります」という自動音声ガイダンスが流れた、特に悪い気はしなかったので俺はそのまま聞いてみた
「ハルマゲドンはご存知でしょうか」と
聖堂で聞かなければいまいち効果がなさそうな物静かな語り、清く正しく生きる為のヒントをお与えになる神の言葉を俺たちにお与えになる年老いた(らしい)男は
「とりあえず神の名において我々は裁かれます、生きとし生けるものみんな死にます」と言った、ふうん
ドラマツルギーが間違いばかりを引き起こすのはストイックな宗教のお家芸だ、何故だろう?
「我々はイエスの子でありノアの子であります、聖書により
学びを得たものたちは神の声を耳にし、災害を逃れ
新天地に向かうことが出来るのです」
ふうん、するとあんたたちは
聖書を開かない者達はみんな裁きによって滅びるとこういうわけかい?
先着百名様のバーゲンセールみたいだ、あるいは
優秀な学生に微笑みかける教授みたいだ、なるほど、神は陶芸家のようなものか
出来の悪いものは完成を待たずにすべて壊しちまうんだな?俺は音声ガイダンスにそう話しかけた「そんなことはありません」自動音声ガイダンスは俺の言葉に呼応した、驚くべきことだ
「神はその学びを得るためのチャンスを万人にお与えになります」彼の声は示唆と啓示に満ちていた、らしい、俺はそうは思わないけれども
俺は口の中に溜まった唾を吐いて彼に話しかけた
「学びを得ることが出来なかったやつは切り離すんだろう?出来の悪いものは完成を待たずに壊しちまうんだろう?「そんなことはありません」
「学ぼうとしさえすればそれでいいのです、それだけで」
「我々は箱船に乗ることができます」
俺は電話を切った、判った、判ったよ
あんたの神様とやらは他人の話を聞くことを教えてはくれなかったんだな
携帯のフリップを閉じてポケットに滑り込ませた時
一台のジャガーがタイヤを激しく鳴らしながら俺の立っている歩道に突っ込んだ、俺は街灯の後ろに逃げ込んで事無きを得た、どうだい、学びがなくても人は生き抜くことが出来る
横断歩道の向こうにこちらを見てにやりと笑う―携帯電話を耳にあてた男
とても神とつながりがあるような人間には見えなかった、胸の内にある腐敗が
そのまま臭ってきそうなそんな面をしていた、信号はちょうど青になるところだった
俺は飛び出してその男のもとへ走った、男は身をひるがえして俺の視界から消えようとした
一度振り向いた時の薄笑いが俺の神経を逆なでした、あいつにひとつ俺の教えとやらを学ばせてやろう
薄暗い通りを男の背中を見ながら走った、男は背中に「ストリート・リーガル」とロゴの入ったシャツを着ていた
男の足はあまり速くなかった、追いかけるうち
俺の頭の中にはほんの少し嫌な予感がした
―仲間の待ってるところへ行くんじゃないのかな、一人の落第者を切り捨てる為に?
すっかり改心したマイク・タイソンなんかがどこかの角に身を潜めていて
飛び込んできた俺に向かってハリケーンみたいなパンチの雨を降らせるかもしれない、まあ、タイソンなら
負けてもそんなに恥ずかしいこたぁないってことだよな
ヤツは勇敢だった、郵便局の横の
街のどんづまりの空地で足をとめて振り向いた
「不信心なおっさんには罰を与えないとな」にやりと笑いながらファイティング・ポーズ「神の名において」息を整えながら俺はやり返した
「二百年も戦争したりするのはお前みたいなヤツらなんだろうな」男の小鼻が膨らむ
「清く正しく生きる為に異教徒を殺すんだ」
「神を冒涜するやつはただじゃおかない」
「俺も今ちょうどそんな気分だよ」
俺が喋り終わらないうちにやつはジャブを打ってきた「おい!」
「ルール違反だ!」
「長くなりそうだったからな」
男はタイソンではなかったがそこそこのボクサーだった、俺のパンチは一発も当たらず、ヤツのパンチはすべて俺のどこかを捕えた、俺はほどなくノックアウトされて地面に倒れ込んだ
火がついたみたいに顔が熱かった「どうだおっさん」男は息も切らさずに言った
「神の裁きは抜群に痛いだろう」
「ぼうや、お前の名前を教えてくれよ、教会に請求書を送るから」
男は鼻で笑って周囲をちょっと確かめた後、もときた暗がりの中へ走って消えていった
俺は起き上がれないほどのダメージを楽しむことにした、冷えた土の感触が頬に気持ち良かった、しばらくそうしていたが突然額に濡れたタオルが当てられた、俺は間抜けな声を出した髪を短く刈りあげた痩せぎすの女が俺の顔をごしごしと拭きだした「あんた誰だい?」「いいから静かにして」
彼女は俺の上半身を難なく持ち上げ、服の砂を払った
「立てる?手を貸すわ」
「手際がいいな、看護婦か?」
「そんなようなものよ」
そんなようなものか
彼女の言葉はまがいものについて話してるみたいに聞こえた「ちゃんと手当てするから私のうちに行きましょう」「でも俺歩きたくないんだけど」「下心でも掻きまわしてるうちにつくぐらいの距離よ」そういうわけで俺は彼女の家に行った
シャワーを借りて痛む体をほぐしてから俺はようやく下心を掻きまわした、手当のあいだ中俺はギンギンだった
手当てが終わると当たり前のことみたいに彼女は俺をベッドに誘い、そして俺達は十五回戦じゃ済まないくらいに激しく打ちつけあった
「ところであんた誰なんだい?」
ひとしきりうとうとしたあと、俺は彼女の髪をがしがし撫でながら尋ねた
「当ててみて」「…判んないよ」
「ヒントがない」「そうね―」女は何か考えていたが結局なにも思いつかなかった
「さっきあんたをボコボコにした男の―配偶者よ」俺は笑いだした
俺のアッパー・カットはすごく下から、生臭い息を吐いてヤツの顎から脳髄まで粉々に打ち砕くだろう―テン・カウントだ


やったぜ!













夜歩く死体と色眼鏡(そしてやがて来るクライマックス)

2009-03-28 12:05:00 | 









甘ったるい香りが行き惑う
薄暗い通りで路上にしがみついて
行き合わせた奴らに悪態を吐いていたんだろう
すれ違うだけの相手なら溜め込むようなことはないから
少なくとも、仕掛けた方の胸の内には
後ろ足で逃げながら神にも負けない口調の数々さ
誰にも勝てないくせに負けることがない
毒団子で死んだ鼠の死体を腸が出るまで踏みつけること
お前の狂気や勇気なんて所詮その程度のものさ、お前の中じゃきっと極上なんだろう
まるでコンピューター・ゲームの
ゾンビみたいな無難で陳腐な逸脱さ、臭い息を吐いてみろ
絵空事じゃそいつは不可能に近いだろう
百ワットの光だけしか明るく感じられないような
そんなこだわりでなにを手にしてきたんだい、完全な勝利以外は
裏庭に掘った穴の中に隠してきたんだろ、お前は素敵だ、お前の美学とやらは
流行りの話に涙する女子高生とそんなに違いはないのさ
甘ったるい香りにしがみついて
受け入れてくれる女にだけ強がってきたんだろう、路上に撒き散らしたコニーアイランドジェリーフィッシュの
総数をプラカードにして頭上に掲げてきたんだろう?
プライドってだいたいは滑稽な代物さ
胸を張ってるのはそれに気付けない連中だけさ
自分を馬鹿にすることから始めなくちゃ
徹底的に馬鹿にすることからじゃないと
その先に見えるものがみんな間違いになっちまうよ
自分に王冠なんかかぶせない
王国の概念はすべてを壊死させてしまうものだ、紫色の肉体じゃ
歩くたびに組織をどっかに無くしてしまう
いつでも入れ替え出来るイズムを所持しなよ
遠近両用眼鏡と同じ位、真理はこの世に溢れているぜ
お前の視力がどんぐらいかで
もう数えられないくらいに
どんなフレームを選ぶかってとこでも
それはもう数えきれないぐらいに
闇雲に追っかけたって手に入るもんじゃない、自由なプロセスを構築することが一番大事なんだ
自分に痛快な色眼鏡かけて、うんざりするような台詞を吐いたりしちゃいないかい
誤解すんなよ、心配してるんだぜ
誤解すんなよ、なんとかしてやりたいと思っているんだ、安っぽい台本に乗って浮かれている大根に
ほんとのドラマは静かに
クライマックスを迎えたがるものなんだってことを
夜明けのように静かに
鍾乳洞の様に複雑に
判るかい
判りあえない隙間に舌を這わすのはもう止めて
これからは、ひとつずつなにかを選んでみようぜ
ひとつずつ、手のひらにとって…形状は言葉だ




それだけで
真理の数は増える













鮮やかな薔薇が浄化する姿を

2009-03-19 00:42:00 | 








しおれ落ちかけたまま凍てついた薔薇の花弁にお前の名前を書いて跡形もなくなるまで深く愛そう、それは留まった生でもあり早まった死のようにも見える、街灯の様に頭をもたげて…リノリュームに視線を落としている花弁、窓からの弱い月灯りが壁に映した影は声もなく泣いているみたいに見えた…すでに死んだ愛、お前の零度の側のぬくもりを愛そう、俺はアルコールに脳をやられながらソファーの上で深海を見る、花弁を垂れて凍てついたお前を連れてゆく…光の当たらない暗い暗い海の底へ…イソギンチャクがお前の懐から落ちた最初の夜の想い出を不味そうに啜っている、深海の圧力は頭蓋骨を軋ませる、哀しみに化けることがないならそれが一番良い、最も素敵な終りは記憶を撃ち抜かれることだ……海底に横たわると無垢な砂がほんの少し舞い上がって、気をなくしたみたいに少し漂って落ちる、聖堂のステンドグラスから静かに降りてくる天上の埃の様に…いびつな形の深海魚たちが懸命に唇を動かしている、讃美歌だ…ハレルヤ、ハレルヤ…グロゥリィー……俺の耳には確かにそう聞こえた、光の当たらぬ場所で光を讃える馬鹿ったれども、ルシフェルの小便でも沸かして飲むがいいさ…妄信が築き上げる世界などこの世にはない…俺の胸もとから解かれた花弁が、お前の名を記した花弁が、ゆっくりと離れてゆく…暗闇の中それはささやかな点となってそして消える…まるで救いのない浄化みたいだ、暗闇に浮かびあがっていく薔薇の花弁…!それは哀しい転生を思わせる、刃の突き出た分娩台へと産まれおちてくる赤ん坊のすぐさまの未来を思わせる…産声なんか聞こえるわけがない、そいつはすでに背中に大穴を開けられている、何の為に産まれてきた、何の為に…ブランケットの重みほどもない、小さく、穏やかな生命……海の中に居るのだ、お前の海の中に…運命は静かに海底を目指すようなものだと、産まれる前からお前は感づいていたのか…?アンコウが小魚を含むみたいにひとつの命が消える、俺の塞がれた耳にはその時の音がはっきりと聞こえるよ…ああ、ああ、泣けないものが本当は一番哀しいのさ、海草の様に届かない手をゆらゆらと頭上へ伸ばしているんだ、ハレルヤ、ハレルヤ、グロゥリィ…どんなことの為に神を信じればいい、どんなことの為に俺は信仰を掲げればいい?赤ん坊の背中に開いた大穴の為に…?馬鹿なことだ、俺の背中に、それがないなんて、俺は一度でも口にしたのか?俺が泣けないものでないなんて、いつ口にしたというんだ…?性急な、蛇のような…おぞましい唇の魚が海底を突いている、あいつは何を食っているんだろう…俺にはその口もとまでは見とめることは出来ない…ただそいつが砂に一撃をくらわせるたびに、何かの痛みが、そう…何かの痛みが右腕あたりを駆け上ってくるのが感じられるだけなのだ……見えないところで何を見ている?見えないところで何を見ている、見えないところで…深海魚たち、深海魚たち!退化した目で俺の網膜を見つめろ!俺の網膜にどんなものが焼き付いているが、そうと判るまで眺めるがいい、燃えるような薔薇の紅をお前たちは知らないだろう、俺がついさっきまで抱いていた、記憶!それが散るさまを見たやつはいるのか?下衆な唇で突いたりしなかっただろうな?もしもそんなことしたやつがいるんなら一匹残らず唇を剥いでやる…殺してやるぞ、侮辱にも等しいやり方で……水圧のノイズの中で俺は花弁の哀しみを忘れた、他に気にしなければならないことがたくさん出来たから……死、以外の罰など果たして有効なのか?慈悲があるから神は間違えてきたんじゃないのか…ああ、届かないもののことを考えていても仕方がない、俺の頭蓋骨は軋み続けている、ああ、あいつらの下衆な唇を…俺は泡を吐く、産卵の様に……浮かんでいるのか…?確かに産まれているのか……水底の闇は濃度を増した、俺にはもうなにも見えるものはない…











死人(しびと・Emによるテンポ・ルバート)

2009-03-08 23:44:23 | 









どんなふうに始末をつければいいのか判らないからただそこに投げ出してあるだけだ、よしとしなくても構わないから関わらずに放っておいてくれ、生きるために投げ出しているものに調和を図るのは俺の役目じゃない、設計技師を呼んでくれ、俺が失神の様に夜に堕ちている間にでも
古い造りの窓の、ガラスの縁のあたりで昨日の幻覚が死にかけていた、白目を向いて―口から泡を吐き出していた、何かを間違えてしまった罰みたいに見えた、救急車のサイレンが今日も誰かを搬送して―その中の誰が生き残ったのかなんて俺には知る由もない、ただ、そこには誰かがきっと寄り添っているんだろうなと
週末の間にいつも眠り方を忘れてしまって今夜はたぶん痺れたみたいに目覚めたままでいるんだ、意識をねじ伏せようとするみたいに目を閉じて―それが知らない間に終わるのをきっと待っているんだろう、必ず訪れるものが望み通りに訪れることなんてまずない、俺はバランスを崩して―断続的な要領を得ない意識のカレイドスコープの中で濁った夢を飲む…夢の中のゴーレムはいつでも俺を叩き潰そうとしていて―強い意志を語る握りしめられた拳に俺は脅威を感じて―脅威を感じて誰も居ない夜の街路を疾走する、セーヌのほとりを走るドニ・ラヴァンみたいに
「恋はみずいろ」をハミングしながら大男は俺のことを探している、ビルの陰に隠れてしまえばやつには絶対に見つけることは出来ない、そのことは何度も見た夢だから俺はとうに知っているのだ…ビルごと叩き潰されたりすることがない限りそれは大丈夫、やつは絶対にそれを叩き壊したりなどしない、だってそれはやつを構成している一部であるのだから
その街には誰も住んでいる感じがしない、いや―存在の気配がない、落し物の様にその街はそこにある、唯一の存在である俺はゴーレムの視線を避けながら街の中心を目指す、なあ、小便がしたい、小便がしたいんだけど化粧室はどこだい―俺はいくつかの裏口をノックしてみる、ゴーレムに気取られないように静かに…返事もなければ鍵も開かない、まあ、そのことはおおよそ判っていた、それはどうしてなんて聞くのも馬鹿馬鹿しいくらいに
俺はある路地のどん詰まりで小便を済ませる、ほこりひとつついていないマンホールのふたにそいつは流れ込んでいく、どこに行くのか―存在についてなにひとつ蓄積のないこの世界で―俺は四つん這いになり犬の様に小便に鼻を近づける、もしかしたら小便の臭いなどしないのではないかという興味に駆られて…やはりそれには臭いが無い、ミネラル・ウォーターよりも曖昧な感覚しかそこには残されていない…なめてみる、舌を長く出して―味がしない、小便の味などしない、アスファルトの味も、どこかからほこりのように積もるはずの土の味すらしない…ここは忌まわしいところなのだ、と俺は悟る、それは理屈じゃない、ある種の逸脱はプロセスを通過することなく理解出来るものだ
俺はそこで一度目を覚ます、よくいう悪夢の感覚などそこにはない、ただひとつ、忌まわしさの感触だけがふつふつと肌に張り付いている…俺は便所に行く、ほんものの便所でほんものの小便をする…もちろん臭いなど確かめたりしない、それは間違いなく本物の小便で、俺の性器から放物線を描いている…洗面で俺は自分の顔を見る、何か余計なものが付け加えられているんじゃないかと思って―何もない、不用意に寝惚けたいつもの顔があるだけだ―俺は再び時折針を刺されるような眠りの中に堕ちる、ゴーレムはずっと恋はみずいろをハミングしている、きっとあれはやつが動くのにちょうどいいテンポなのだろう、ああして地面を踏み損ねて転んだりしないようにリズムを整えているのだ―それともあれは俺を呼ぶためのメロディなのかもしれない、飼主が犬を呼ぶ時の口笛のような―そうするとやつは俺のなにがしかに「恋はみずいろ」を感じているのだということになる…俺の成り立ちのどこかに、それを
中心部には様々な店が並んでいる、レストラン、ブティック、屋台、書店、デパート、菓子店…そしてそのどれもが沈黙している―完全な沈黙、完全な沈黙はもはや沈黙ではない、それは内奥にある様々なものの微細な反響を聴きとろうとしてざわめいているみたいに感じる、俺はオープン・カフェの傘のひとつに身を隠す…百年も前に飲み残されたようなアイス・コーヒーが置いてある、やはり、味など少しもなかった、俺はため息をついて椅子に身体をあずけた…ゴーレムの背中が見え、やがて遠ざかっていく…俺は店の隅にギターが投げ出されてあるのを見つける、ギターを持ち、うろ覚えの、昔作った曲を弾く
『その音楽が有機的でなければ俺はおそらくそこから抜け出すことは出来ないのだ、夢の中の俺のギターの腕前は現実とそんなに大きな違いはない―ロー・コードだけのその曲を何度も弾き損ねる、俺とあまり変わらない大きさのゴーレムの一団がカフェの席のあちこちに座り、俺がそれを完奏するのを待っている、俺は指先を破りながら懸命に弾く―こんな光景をどこかで見たことがあると思いながら―…』
ゴーレムはよく判らない感じで身体を揺らし、ばらばらに立ちあがる、そしてこの忌まわしき世界に朝が訪れ、ゴーレムどもは砂に帰っていく…俺はギターを置いて立ち上がり、空白の客席に礼をする…






ああ、朝が来るのだ、畜生。











シェリフ、嘘っぱちの銃を

2009-03-02 17:25:03 | 










お前の独りよがりな情熱が俺の精神に水を差したので
俺はお前の存在を心から消し去ることに決めたんだ
くるぶしのあたりの身に覚えのない引っかき傷みたいに
いつの間にか消えて忘れるだろうとそう思っていた


午前零時は丁寧に仕上げられた紗幕みたいに
いろいろな物事を眠気の向こうへ隠してしまう
幾時間か前に飲んだ飲物の風味が喉元から消え去るころ
昨日よりひとつ呆けた細胞が新しいまぐわいを欲しがる
時計の針と同じ数の欲望を数えて手を打ってみろ
疼くほど欲しかったものの名前すら思い出すことは出来ない


まばらな車の流れが終わるとほぼ出来上がった沈黙がそこにある
カーテンの向こうにはもう何もないみたいだ
苛立ちと名付けるほど浮上してこないそれは
流れの途絶えたルートで腐敗する地下水みたいだ
ローカル・チャンネルのムービー・ショーはお目汚し以上の意味を持つことはなく
どんなに長けた声優の日本語も口元とずれて聞こえる
火薬の色が甘過ぎるガンが誰かを捕えた時
結末を知る理由などもう無いと悟った


イーストウッドになり損ねた冴えない保安官よ、ここへ来て曲撃ちのひとつでも披露しちゃくれないか
小銭を沢山溜めて俺は待ってる
お前の嘘っぱちのリボルバーが俺の風穴に栓をしてくれるのを
お前の嘘っぱちのリボルバーが
この部屋の静寂の急所に致命傷を与えてくれるのを
小銭を沢山溜めて俺は待ってる
小銭を沢山溜めて
小銭を沢山溜めて


ぶん殴ってくれるハンマーが欲しい
自殺願望と同じだけの諦めが無いとベッドに潜り込むことが出来ない
肉体と精神との欲求のズレが
こめかみに断続的な頭痛を連れてくる
血管が逆流するみたいな骨に反響する別の鼓動
指先が頭骨を貫けるわけもなく
ハンマーを持ってきてくれ、いまの俺ならそれを武器とは呼ばない
暴力は時々他のどんなものより優しく感じる
ハンマーがもしもこの俺の後頭部を激しく殴打してくれたら
少なくともこの頭痛は日本の古いゲームみたいに俺から弾き飛ばされるのに


お前の独りよがりな情熱が俺の精神に水を差して、俺の眠りの器は不協和音の水溶液で満たされる
この世のあらゆる指針の中で現実に作用出来るものなんてそんなにあるわけがない
だけど変革を欲しがり過ぎるときには誰ひとりそんな些細な事実には気がつかないのだ
なにかを決意すれば水の向きが変わると信じてしまう
なにかを宣言すれば
なにかを破棄すれば…
捨てた、つもりの古い影、行先の無い地下水みたい、ドロドロになって、ドロドロになって、ひずんだ臭気がそこらに立ち込めてゆく、鼻をつまんでおきなよ、不愉快な思いなんて誰もがしたくはないものだ
ましてやわざわざそれを銀皿に乗せて差し出されたみたいな夜には


イーストウッドになり損ねた冴えない保安官、お前のリボルバーが錆びついてしまったのは何故だか判るかね―?
お前の指先には憎しみの影すらないからだよ、お前の心はお前のシナリオより高い所に出てくることがない
俺の風穴に栓を与えてくれ
この部屋の静寂に致命傷を
叶わぬ瞬間を求め続けることに俺は退屈してしまった
時には憎まなければ清らかな心など持てるわけがない
スパイスで済まないほどのそれを俺は長く抱え過ぎてしまった、保安官、保安官
ダブルアクションでこの部屋の好きな所に破壊のファンファーレを


激流、にも似た無益な夜、俺はただ飲み込まれてゆくだけ
阿呆みたいに口を開いて、俺はただ飲み込まれてゆくだけ
俺はただ飲み込まれてゆくだけでも構わないことを悟ってしまったから
阿呆みたいに口を開いてただ飲み込まれて流されるだけ
死なんてよほどの気まぐれでもない限り突然訪れたりはしないものだ、好きなだけ飲み込めばいい、細胞に浸透した不協和音が
矛盾を享受し易い形に変換してくれるさ
眠りを求めることは止めた、朝を待つことは止めた




からっぽの世界じゃなければ
生まれてくることなど不可能なのさ