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Desolation Angel

2024-05-15 17:46:52 | 

ディランが何やら小難しい歌を喚き続けているのでハイウェイの方に近付くのは辞めにした、そもそも騒々しい場所はもとから好きじゃないし、道もあれこれと入り組んでいる上に一方通行も多くて面倒臭いことばかりだしね、それで人気の無い場所で小休止して詩を書くことにしたんだ、少し前からなんだか脳味噌がうずうずし始めているのを感じていたからね、あれこれと自動書記のような感覚でぼんやりとしたことを指先に訳してもらいながら本当に不思議なものだと考える、若い頃は老いることが嫌だった、というか、老いる前に死んでしまうのではないかと思っていた、自分の肉体か魂が、標準的な人間の感覚ほど上手くは運ばないものだとどこかで感じていた、そう、面倒臭いことばかりだったよ、とくに集団生活を強いられている間はね、今はもう少しマシになった、だって少なくともそれは自分で選ぶことが出来るからね、もちろん、なにからなにまで自由というわけにはいかないけれど…歳を取るのは悪いことじゃない、そう思え始めたのは、自分がいつもいつもある程度の時間を割いては何を書こうとしているのかということが朧げに見え始めてきたからで、おまけにそれは昔みたいに鼻息を荒くしなくてもすらすらと並べることが出来た、まるで自分がそれを書きつける前から置き場所が決まっているんじゃないかって思えるみたいにさ、そしてまた新しいものが出来る、炎が噴き出すように書いていたものも水が流れているみたいに連ねることが出来るようになった、わかるかい、炎はいずれ消えてしまう、だけど、流れを作り続けてさえいれば水が途切れることは無いんだ、そう、書きながら自分がどこに居るのかが見えるようになったとでも言うのかな、いずれにせよそれはちょっと珍しい感覚であることは間違いないよ、だって、何十年も飽きることなく書き続けている人間なんて数えるくらいしか居ないだろ…涎を飛ばしまくって詩を論じ合っている連中が月に幾つ書いているのか数えてごらんよ、彼らは気取ったことを言うのに忙しくて数行書くのにも一週間はかかってしまうのさ、そんなことになんの意味があるのか分からないね、まったく時間の無駄ってもんさ、空は晴れる気も無ければ雨を降らす気もないらしい、煮え切らない感じなんてなんだか共感するね、しょうがないさ、興味本位だけで生きてる人間だってこの世の中には少しは存在しているんだ、もうそんなことを引け目に感じるのは辞めたんだ、だって、なにも悪いことしてるわけじゃないからね、違うことを悪いことにしたがる人間がたくさん居るのは事実だけどね、でも、数が多いことなんて真実とは何の関係もないことじゃないか…考えることを忘れた連中は皆ナンセンスを隠れ蓑にするのさ、彼らが何を考えているのかなんて分かる術もないけれど、きっとそんな真似でもしなければ単純さを正当化することが出来ないんだろう、書き終えた詩を折り畳んでポケットに突っ込み、小さな音楽プレイヤーを止め、電源を落とした、気まぐれと、電池の残量の折り合いをつけたわけだ、長時間稼働し続けることが出来るものほど充電のタイミングが合わなくなるのはいったいどういうわけだろう?それはただ単にスケジューリングとか、そういう部分に問題があるというだけのことなのだろうか?気付かずに小さな石を蹴飛ばしていた、そいつは転がってガードレールの足に当たって、中に土が詰まったカウベルみたいな音を立てた、ほんの少し風が吹いた、近頃はいつもそうだ、午後になって思い出したみたいに風が忙しなく吹き立てる、車に踏み殺されて散らばった雑草たちの死体がそれに乗って彼らの墓場へと連れ去られて行く、いつかは皆あんな風に二度と帰れないところへと運ばれていく、何をやり遂げようと、何をやり残そうと…有限だからこそ生きられるのだと何かで読んだことがあるけれど、どうだろうね、もしも永遠の命が手に入るのなら俺は真っ先にそれを望むだろう、生きれば生きただけ分かることって確かにあるし、それに、自分が例えば二百歳とかになったとして、その時いったいどんな詩を書いているのか、とても興味があるからね―ディランが仏頂面のまま口を噤んだので笑いながらのんびりと歩いた、ひとりぼっちはつまらない、という歌があったけれど、ひとりぼっちこそがむしろ最高さ…いろいろあって、大きな声じゃちょっと言えないんだけどね、だけど、そうさ、ポケットに新しい詩がある限り人生は楽しい、下らないことばっかり続いてもね、それは自分だけが手にすることが出来る優待チケットみたいなもんなんだ、脳味噌はいまは静かにしてるけど、これからやらなくちゃいけない面倒ごとがもう少し片付いたらまた騒ぎ始めるはずさ、なんせここ十年はずっとそんな感じで毎日が過ぎているのだもの、一生が長いことには異論はないけれど、それだってなんてことない一日の集まりに過ぎないんだぜ。


泡(あぶく)

2024-04-29 22:03:11 | 

慟哭は泡上の海に沈殿して行く、死後硬直のあとの眼球のような濁りと共に、ソプラノで鳴く海鳥たちの忙しない鎮魂歌、灰色の空に灰色を足していく、自傷癖の鮫が血を求めている、雷が遠くの空で擦過傷のように瞬いている、いつだって網膜の中に宿命は焼き付けられる、狂った四分音符の羅列、規則性は良く出来た嘘だ、信じさせるためには真実よりも喋る必要がある、お前の証明はいつだって口だけの出任せさ、鋳型に生身を捻じ込んで行くだけのオーディナリー・ライフ、他の誰かが保証したまともさの中で一抹の疑問も無いままに食い潰すんだろう、魂の無い言葉など気に留める暇はない、それは遠い国の硬貨みたいなものだ、拾っても使う当てもない、砂浜に長く居座ってはいけない、遺跡の中に飲み込まれたような気分になってしまうから、それが分かっているのに動き出せない、だから少しの間存在を諦める、それは悪くない気分だ、存在を自覚しているというのはすべてを背負う覚悟をするということだから…風はサーカスの、鉄球の中を走るバイクのように好きに吹く、あるがままに動くものたちは命を朦朧とさせる、それは、確か過ぎる、それは、大き過ぎる、それはあまりにも連綿と続き過ぎているのだ、一人の人間には絶対に知り得ないスケール、最大公倍数の三次元世界―何故こんなところに放り込まれたのだ、打ち消しても打ち消してもそんな言葉が脳髄をノックする、居直ることは出来るだろう、なにもかも分かっているふりをすることも出来るだろう、でもそれは真実に一ミリも近付くことはない、空っぽの箱に豪華な飾りをつけるようなものだ、俺は現在の瞬間瞬間を結晶化したい、ただそれだけの為に血眼になっているのだ、おお、大型のプレス機のような波が大地を叩く、そして舌のように舐めて行く、そこにどんな言葉を付け足すこともない、初めからそいつらは詩なのだ、そして詩のままで生き続けて行く、俺は手の甲を噛む、薄っすらと血が滲む、俺にそれが出来ない理由は?短命過ぎる、小さ過ぎる、弱過ぎる、おそらく…でもそうでなければ、俺は詩であろうなんて考えもしなかっただろう、酷いパラドックスだ、星に自分の名前をつけるようなものだ、最初の一音すらその星に届くことはないというのに、そうさ、結局のところ、それは過剰な欲望の表れだ、食っても食っても食い足りない餓鬼どもの饗宴だ、脳味噌はそいつらの食いカスで出来ている、声を上げろ、押さえられない声は一番心に近い、飢えろ、飢えろ、飢えろ―食らいついたら破裂するほど噛み砕いて飲み込むんだ、俺は欲望の結晶になりたい、そしてそれをあちらこちらに突き付けてやりたいのさ、俺にはそんなもの以外すべて嘘に見えてしまうんだ、何故こんなところに放り込まれたのだ、答えを求めようとするな、そんな問いは忘れたころにおそらくは勝手に見つけることが出来るだろう、沈んで―沈んでしまいたくはないか、緩やかに動き続ける波はそう囁いているように見える、いつかね、と俺は答えて、あとは知らない振りをする、鴉が一羽、4メートルほど離れた、積み上げられたテトラポッドの頂点に止まってこちらを眺めている、そいつは確かに俺の心情を正しく理解しているように思えた、だから俺はそいつに話しかけないようにつとめた、意気投合でもしてしまったらそのまま二人で波の中に沈んでいきそうな気がしたからだ、相手の目を見るだけでそんな絵が見えることがある、それは感情の歴史に裏打ちされた直感的理解だ、世に言われる直感と言われるもののほとんどは、一番手ごろな考えに飛びついただけの稚拙なものに過ぎない、直感的理解とは悟りのようなものだ、波長や感性が瞬間的に増幅されてキャッチするのだ、立ち上がり、海岸に背を向ける、その途端背後から巨大な生きものに飲み込まれそうになっているような錯覚に陥る、人間の感覚の限界、本当の意味で海を知るものなど居ない、どれだけの情報を拾い上げようとそれは真実の欠片以上のものでは決して在り得ないのだ、低い堤防の横にまっすぐ伸びる海岸道路は潮を浴び続けて燻っている、風は地球の形のまま吹き付けて来る、十一tダンプが砂利を撒き散らしながら猛スピードで走り抜けていく、バラック小屋のような排気ガスの臭い、かつてはコンビニだった建物、かつては中華料理屋だった建物、そして古い墓地、苔生した墓石たちはまだ傷つかなければならないのかと憤っているように見える、巨大なアンテナの足元に放置された事故車、凄惨な死亡事故だったという噂が付き纏っている、もう何十年も営業していたラブホテルの入口にはいついつ閉業致しましたという馬鹿丁寧な挨拶が掛けられていた、そして灰色がすべてを塗り潰していく、人生とはからっぽの世界に立ち込める霧だ、靴底に絡みついた砂利が胡桃のような音で啼いたとき、それまで持っていたなにかを失くしてしまったような気がした。

蜥蜴の行方の先の素描

2024-04-20 17:03:54 | 

瞬きの中に一生を見つけることがある、奇妙に開かれた朝、俺は薄暗い歴史を抱いて合成レザーのソファーの上で小説を読んでいる、壁掛け時計はずっと動いていないように思えるがその存在を忘れている間に数分針を進めている、カーテンの僅かな隙間から忍び込んでくる光が今日の天気はまずまずだということを告げている、本当に何かにのめり込んでいる時、空気は張り詰めたりしない、擬態する虫のように存在は風景の中で境界線を残すのみとなっている、そんな時脳髄から零れ落ちて来るものたちのことを俺は上手く説明することが出来ない、こうしてありのままに書き記すことは出来てもそれが何なのかは理解していない、それを理解することを良しとしていないからだ、ありのままに、現象として放り出すことが一番いいことだと気付いたからだ、つまりそこにはどんな意図も存在していないということになる、ベッドの上で見る夢に辻褄を期待する者は居ないだろう、そんなものに出来た話を期待してはいけない、どんなに良く出来た夢だってきっと途中で目覚めてしまうからだ、ああそうか、と俺は思う、一夜の夢のような詩が良い、深い忘我、だらしなく垂れ流されるイメージ、雑多な事柄のみでこしらえた連続性…それが俺の考える世界の誠実さだ、そうだろう、どうせ途中で目覚めてしまうものなのだ、思い返してごらん、それはいつだってそうだったはずだ、真実は完結しない、命が失われてもそれは完結しない、それはいつだってだらしなく垂れ流されていくものだ、澱みながらも少しずつ流れていく沢だ、俺たちはその流れの中で少しずつ欲しいものを掬い上げては検分しているに過ぎない、俺が何を言っているかわかるかい、すべてのことを確実に理解出来るなんて思わないことだ、真実には際限がない、掴んだと思ったものは次の瞬間には形を変えている、確信は変化を見落としてしまう、すべてを知ることなど不可能なのだ、それを自覚することだ、そうして、本当にそれを追い続けるというのなら覚悟を決めることさ、知るべきことはただひとつ、真実は出鱈目なんだということ、永久不変の形でなど在り得ないということだけなのさ、窓の外、狭い裏庭を隠す低い壁を蜥蜴が這っている、俺は本を閉じて蜥蜴を眺める、あくまでも俺には、ということだが、蜥蜴はなにも目指していないみたいに見える、ただ辺りを窺い、においを嗅ぎながら、今日を生き抜ける場所だけを探しているみたいに見える、俺はそんな手前勝手な解釈に強いシンパシーを感じる、今日を生き抜ける場所だけを探す、それはとてつもない理由のように思えたからだ、俺が言葉を綴るのだってきっと、そんな欲求の為だけに違いない、便宜的な、あるいはスローガン的な真実ではない、その瞬間自分を急き立てている衝動の本質だけが俺の欲望なのだ、蜥蜴はある瞬間に突然に向きを変え、僅かな土の上に生えた雑草の中へと姿をくらましてしまう、蜥蜴か、と俺は思う、もしも俺に着脱出来る尻尾があるとしたら、間抜けなほどにそれを捕まれてしまうに違いない、でもそれは一度しか使えない死という手段を、なるべく自分の望む形で全うしたいと思うには有効なのかもしれない、シューティングゲームにおける残機のような…ともあれ、そんな奇妙な余裕のある人生はつまらないに違いない―そんな気もする、俺は本を置いてキーボードを叩く、そんな気分は記しておいたほうがいいような気がした、思うようにはいかないかもしれないが気の利いた日記程度のものにはなるだろう、逸らないように気をつけながら一行一行を連ねて行く、時々、自分の内臓がずるずると引き摺り出されているような気分になる、ははは、渇いた笑いが漏れる、そうさ、表現するということはそういうことだ、スプラッタ・ムービーと同じで、どれだけ瞬時に沢山のものをぶちまけられるかという企みなんだ、少しの間思うままに文字を打ち込んで、集中が途切れる前に止める、それから目を閉じて少し眠る、夢の中で俺は、さっき草むらに消えた蜥蜴を探してずっと裏庭に這いつくばっていた、草や猫の小便の臭いが激しく鼻を突いた、蜥蜴はその痕跡すら残さずにどこかへ消え失せていた、俺の胸中には悲しみとも怒りともつかない曖昧な乱れが生まれ、温帯低気圧のように居座っていた、俺は目を覚まし、コーヒーを入れて二杯立て続けに胃袋に送り、それから続きを書き始めた、あの蜥蜴の残像が消えてしまわないうちに書きあげてしまわなければ手遅れになる気がした、そこに理由なんかない、人生のすべては賭けだ、自分が立っている場所すらわからないまま、どこに届くのかもわからない言葉を投げ続ける、それは死ぬまで続くような気がする、そうさ、俺はとっくに覚悟を決めているんだ、ああ、と俺は気付く、テーブルの上でわらわらと蠢いているイメージ、これこそが俺にとっての蜥蜴の尻尾なのだ。


痩せた猿が誘蛾灯の下で

2024-04-11 22:06:24 | 

痩せた猿が誘蛾灯の下の小さな檻の中で陳腐な引用と比喩だらけの言葉を吐いていた、のべつ幕なしに並べ立てていたがそれは一言も俺の興味を引くようなものではなかった、生まれてこのかた名前も聞いたことが無いようなコンビニエンスストアの入口のそばだった、俺はちょっとした食いものとシェービングクリームを買うついでに長い長い夜の散歩に出てこのコンビニを見つけ、そして誘蛾灯の下でハリウッド臭い青色に染まっている痩せた猿を見つけたのだった、あんた、ねえ、あんた、と痩せた猿は俺を見つけるとしきりに俺の興味を引こうとした、あとで、と俺は答えて買物をするために店内に入り少し時間をかけて食いものを選び、いつも使っているシェービングクリームを探したが見つからなかったので適当に同じくらいの値段のものを選んでレジへ行った、他に客も見当たらなかったので入口の猿はなんなのかと尋ねてみた、ああ、店員も退屈していたのか無駄話が出来ることを喜んでいるようだった、なんてことはないですよ、ろくな言葉もないくせに自分を人に誰かに認めてもらおうとしてるんです、そこの山から下りてきてここまで、道中出会う人間を下らない話につきあわせるんです、駐車場をうろついている間はまだよかったんですがね、店の中まで入り込んできてお客さんとか、接客中の店員にまで話しかけてくるようになって、目に余るようになったんでバイトの交代のタイミング、店内に店員がたくさん居るタイミングで、入口の自動ドアの電源を切って―もちろん入口に「煩い猿捕獲中、少しお待ちください」という張り紙を出してね―五人で追いかけ回して捕まえて檻に入れて置いてあるんです、まあ、もう店に迷惑をかけないと約束出来るならそのうち離してやろうと思ってるんですけどね、いまのところまだ信用出来ないんでああしてさらしもんにしてるってわけなんですよ、いつもあんなことばっかり喋ってるのかと尋ねると、そうですね、と店員は答える、なんていうか、すげえつまんないんですよね、とうんざりしたような顔で店員は肩をすくめた、まるで面白くはないね、と俺も同意した、なんにも知らないのにわかってるふりをしてるような感じがする、と俺が続けると、ほんとそうなんですよね、と顔をしかめる、駐車場の端っこにでも置いとけばいいじゃない、と言うと、そうすると、汚い声で鳴き喚くんですよ、大変だね、と俺は返す、ええまったく、と店員、いっそあのまま川にでも放り込んでやろうかと思うんですけどね、と苦笑い、俺も笑って彼を労い、店を出た、あんた、ねえ、あんた、と猿がまた話しかけてきた、俺は少し立ち止まって少し話を聞いてやることにしたが少しも面白くないので五分もせずに飽きた、悪いけどもう帰るよ、と猿に告げ、まだなにごとか喋ってるのを無視してその場を立ち去った、それから二日間の休日を過ごし、数日の仕事をこなし、休日前の夜、あのコンビニの猿はどうなったかなと思い、小雨の降る中ビニール傘を差して長い散歩に出た、確かこのあたりにあったと思いながら歩いたが、不思議なことにまるで見つけることが出来なかった、適当に歩いていたから記憶違いかもしれない、そう思いながら違うコンビニで雑誌を何冊か買って家に帰った、それからしばらくは仕事とプライベートの雑事に翻弄され、散歩をする気にもならない日々が続いた、それらがようやく一段落ついたとき、俺は久しぶりにあのコンビニと猿のことを思い出した、けれど、おおよその方角以外まったく思い出すことが出来ず、夜明け近くまで彷徨った挙句、ある街の外れの山道のそば、だだっ広い更地の中に錆びて変形した檻がぽつんと置かれているのを見つけた、眠気と疲れのせいで何が起こっているのか理解出来なかった―数ヶ月は空いた―その間に、ひとつのコンビニが閉店し、建物は取り壊され、更地になる…充分に起こり得ることだった、でもこの檻は、この錆び具合は、数十年近くここに捨て置かれたものに見えた、あのとき買った食いものもシェービングクリームも、至極まともなものだった、そんなことあるだろうか?ネットに蔓延るよくある話で終わらせるには、納得のいかないことが多過ぎた、なにより、俺は一度も疑問に思うことは無かったのだ、コンビニの入口の誘蛾灯の下で、べらべらと日本語を喋り倒していたあの猿のことを…夢を見た、そんな話で終わらせたかった、でもこの檻は―あの猿はどこへ行ったのか、退屈そうにしていた店員は―東の空が白み始めていた、俺は不意にそんな夜明けに飲み込まれそうな気がして、慌ててその場を離れた、小さな街の寂れたラブホテルにひとりで入って少しの間寝かせてくれと頼み料金を払い、昼過ぎまで眠った、世界は平気で嘘をつく、目覚める前に見た夢の中で誰かがそんなことを呟いていた、起こったことをそのまま受け入れるしかない、諦めてホテルを出て、バスに乗って自分の街に帰った、現実には隙間があるのだ、いつかもしかしたら、あの檻の中に自分自身が潜り込んで近くを通りがかる連中を片端から呼び止めているかもしれない、それはやはり夜だろうか、それはやはり誘蛾灯の下だろうか、見慣れた帰路がまるで違う道に思えた、道の向こうから吹いてくる風が、もうすぐ雨が降るだろう生温さをまとわりつかせていた。

bad religion

2024-03-31 14:48:57 | 


誰の耳にも止まるよう鎮魂歌は轟音で鳴らされる、崩落した世界の底で見上げる太陽は一番輝いている、絶望や失望と戯れるうちそれが主食かと思うようになった、どこを歩いても腐敗臭ばかりさ、自尊心が内容を上回っている連中が獲物を探している、晴れた空がまるでブラックジョークみたいに見える塩梅だ、ロックンロールは循環コードと染めた髪以外のすべてを失ってしまった、欲望の感じられない、音の通りに発せられているだけの歌唱がチャートのいたるところからドロドロの血液みたいに吹き出している、人を極限まで生き易くするシンプルで滑稽な認識がどんな戯言を並べようが俺のやることとは何の関係もない、安易な選択肢に蟻のように群がることで人間は落ちるところまで落ちてしまった、もはやそれは個人ではない、上空にかかった雲のようなたったひとつの意識だ、現代社会とはたったひとつのイデオロギーによって遺伝子を繋ぐ単細胞生物に過ぎない、新しいビルや車、産業のためにほとんどの一〇〇年がドブに捨てられている、俺はお前らのようにはならないよ、生まれてこのかたずっとそう思って生きてきた、それで何もこの手にすることが出来なくとも、選択しなかったという一点に置いて自分のままで終われる、とはいえ、人生は長く、また新しい感覚が俺がこの身体に明日を呼び込む理由になる、俺が吐き出すものはいつだって誰もまだ見たことが無いものさ、だってそれは俺だけにしか作れないものなんだから―あらゆる表現はいつだってそうあるべきなんだ、お手本をなぞるだけじゃ一生まがいもので終わっちまうぜ、そこから先へ行くんだ、良識のある大人たちは俺のことを何者になることも出来なかった年寄だって言うよ、だけど巨大な檻の中で、胡坐をかいて肥え太っているだけの連中にそんなことを言われても俺だって困っちまうってもんさ、俺にとっちゃ俺の身体だって俺の書く詩のひとつなんだ、すべてがそうした証明でなければならない、瞬間瞬間の理由の証明でなければならない、でもそれは証明の為に綴られてはならない、それでは主張になってしまう、スタンスやスピリットはあくまで、湧水のように滲み出たものでなければならない、だから俺は主張の為に言葉を綴ることはしない、なぜだかわかるかい?主張を身体に張り付けて歩いている連中を見ろよ、その主張がどんなものでも恥ずかしいものに見えるだろ、俺はそんなものになりたくないんだ、命だって、モラルだって、主義だって、風や温度のように感じられるものが正しいのさ、鎮魂歌は轟音で鳴らされる、死者がなにも残さなかったときにそうなるのさ、もしも俺が死んだら俺の詩が語られるだろう、読みやすいようにまとめておいておくれよね、俺にはまだまだ時間が残されているはずだから…太陽の光は無数の針のようだ、頭上から真直ぐに突き刺してくる、地上で蠢く俺たちはいつだって神の生贄さ、正式な手続きでもってそれが捧げられなくなったから神様もあれこれして帳尻を合わせなくちゃならないんだ、わかるだろ、社会が感性を失った前世紀の終わりから、ずっと人間の数は微調整されてるって話さ、災害や戦争、やつらはきっと本当はイチから組み直したいと考えているに違いないぜ、ゴッド・セイブ・ザ・ブレイン、俺たちは神様によって救済されるべきだぜ、本当に世界を救うことが出来るのは美しい詩篇さ、でも誰かにそれを気付かせることは本当に困難な作業なんだ、金にならないものにはやつらは目を瞑ってしまうからね、どこまで行ける?何が出来る?考えているより一言でも多く書き残したほうがいいさ、今すぐ死ぬわけじゃないがいつまでも生きられるわけじゃない、生き急がなければ真理なんて手に入れられるわけがない、胃袋より飢えろ、脳味噌より考えろ、もっともっと使える感覚はあるはずさ、自分が知らないところまで行けて初めて旅と呼べるように人生も展開されていくべきだ、クロスロードで悩むなんてナンセンスさ、闇雲に進めばそのうち踏破することだって出来るはずだ、アクションの中で考えることだよ、現在の尻尾を掴んだまま模索し続けるんだ、現在にすら追いつけることはない、過去は体内で蓄積し変換される、再構成された現実はもう一度吐き出される、それは綿密な認識であり、もしかしたらその時は気付けなかった真実の発見かもしれない、知ったような顔なんか出来るわけがない、未知は生まれ続ける、パックマンみたいに食い続けるのさ、検分する必要はない、それは肉体の中でじっくりと行われる、知る時が来たら勝手に浮上してくる、好きなだけ飲み込んだって誰も文句を言ったりなんかしない、誤差に注意を向けないことだ、そうすればあらゆる物事は自分のものになっていく、鎮魂歌を垂れ流すスピーカーを叩き壊せ、俺には自分すら弔う気など無い。