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マグリッドすら分からない

2005-12-30 23:38:40 | 


トゥ、トゥルルッと
無邪気な口笛

まるで何にも知らない、ゆえに美しい
ゴムとびに興じる少女のように

メアリー、お前の神経の規律はいつの間にそこまで退化してしまったんだい、俺がお前に捧げた日々は、まるで無駄だったとでも言わんばかりのその無垢の加減

お前はすでに囀る鳥のような
優しい意味しか持ち合わせてはいないのだろうね…だけど聞いて欲しい、幸せそうなお前を見るたびこの胸は震えるんだ、誰が、何が、何故、お前をそんな窓辺に誘ってしまったのか?問いかける相手の見当もつかないままに
あの日を境に失われた本当のお前のことを今でも探し続けている
教会に行くのは止めたよ、お前には何の役にも立たないって分かったんだ、神様のことを嫌いになったわけではないけれど
神様は私たちのことをお気には召さなかったようだ…ごらんよ、メアリー、お前の大好きなマグリッド、ルーンの店で安く手に入れたよ―お前があの頃うるさく口にしていた可笑しみ…私にはてんで理解出来なかったけれど
どうしてだろう、こんなお前を目にしていると何故だか笑えてくるほどに良く分かるんだ


トゥ、トゥルルルッと
無邪気な口笛
愛しいメアリー、お前にはもう
マグリッドすら
分かることはないんだね…







悲鳴

2005-12-25 22:20:30 | 




カタログの隙間を縫って、最も共鳴するものを見つけ出せばいい
それはいつか君を果てしない高みにまで連れてゆくだろう―鼓動にも似た上昇のリズム
身動きの取れない真夜中狂ったように内奥で暴れだす本質という名の観念が
どうすれば静まるのかなんて本当は聞くまでもないことだと知っているんだろう?
カウントするんだ…おぼろげにでも天蓋が揺れるのを感じるのなら
君の呟きが聞こえる、小さな声だがゆっくりと何かをカウントしている
暗闇のさなかに見える光はただの点でも確実に網膜を射抜くだろう
どこまでも散らばりたい、必ず拾い上げられると信じているから
血流にまぎれていつかのスペルが疲労した身体を信仰している
吐いた言葉のいくつかに生かされているような気がするんだ、吐いた言葉のいくつかが俺の襟首を掴んで
虫唾が走るような世界の端っこに引きずり戻す、おい、自由になりたいからって
靴を脱いで走ろうとするのは止めな、路面には死んだアンテナが散らばっている
もっと上に行けるか?もっと先に行けるか?
カウントを取るんだ、どうしても止めちゃいけないリズムが必ずある
どんなにノイズが溢れていても俺は耳を済ませているよ、本当に手に入れたいものは必ず見つけなければ
確信のある盲目になどなりたくはない、ほらよ、そこらじゅうで唾を飛ばしているじゃないか
何も決めないでいる、そうしているしかない
心は自由だ、表層が拒んでも
きっともっと近づいてくる物は見分けることが出来るのさ
カウントだ、それがなければ
俺は何もかも捨ててしまうだろう






蒼の下、時の墓石にて

2005-12-14 21:49:38 | 




地団駄の夕方に哀歌を吹きながら
誰の影も無いうち捨てられたビルの踊り場で
ひとつの季節の終わりがかすれた雲にしなだれ過ぎてゆく
唄われた思いのすべてがグレイの記憶のセロファンに誤魔化され劣化したコンクリの歪んだ配列にひっそりと隠れるとき
突き抜ける天上の蒼は非情なまでに真実を湛えていた
廃棄された物陰から仰ぐ無限、迷いの無い光線が差し込む小さな窓の煌めきに魅せられるままに
腕時計の文字盤の規律を信じることを止めた
形骸の中で息を潜めている小さな神、そいつの蠢きを捕まえようとしていたのに
すでに途切れた旋律の中に俺は共鳴していた
空白は絹のように揺れる、天蓋を離れたカーテン
舐め合うような優しさの中で俺をしなやかに包んでくれるのかい
水に溶ける華、どんな生命であれば永遠を許してくれるの?
鼓動の無いものたちさえ亀裂の広がりの後で
粒子のように足元に沈んでゆくというのに
冬は澄んでいる、処女性のような触れがたい何か
真実はきっと零下の中で
途方も無い永遠を求めて凍てついているんだ
何もかも透けて、何もかも透けて曖昧な輪郭だけが
網膜の中で陽炎のように立ち昇っている
ここを昇っていけば屋上にたどり着くことが出来るのかい
足元は崩れたりはしないよね、流れ去るものに比べたら
亀裂なんてずっと確かなものじゃない
屋上にゆきたい、あの直線の原点を見つめることが出来るかもしれないのだから
光を教えて、目を背けたくなるような
魂の深遠まで照らしてくれる光のことを
俺はいつか解き放たれることが出来るのかい、砕けたセメントの粒が靴の底で憎しみのようなノイズ
閉ざされたドアの鍵は簡単に外れた、それにはもはや意味など無かったのだ
ノブに触れる指先は少年に似ていた、憧れと迷い
壊れてゆくときの中ではそれはよほど鮮やかに輝くのだ
ドアは開け放たれる、限りない蒼


俺は
お前になりたい




ようこそ、捨てられたピッツァ

2005-12-09 00:37:52 | 




存在しているようで存在していない架空の街で
俺はヤゴに似たタクシーを捕まえた
ヤゴって分かるだろう、とんぼになるやつさ
それにそっくりなタクシーがいたんだ、そのいかがわしい臭いの街には
始めはヤゴだと思ったんだが、よくよく見ると羽根のところに
「近距離歓迎」
と、貼ってあったので分かったわけさ


羽根をノックするとゆっくりと上に開いた、すげえ、カウンタックみたいだ
運転席には粘土で慌てて作ったような運転手がいて
かなり上級のヒアリング・テストを仕掛けるかのように
「ろぉうぅちらまぅれれしゅか?」

まったく抑揚の無い声で聞いてきた(きれいなバリトンだったけど)
乗り込んだものの、俺は何にも把握していなかったので
「中心部へ」

リクエストしてみた
そしたら
降ろされた(しれはぁこぅのかるまじゃむりれすらぅ)
「どの車ならそこまで行ってくれるのかな?」
彼(たぶん彼)は黙って俺の足元をカーモップのような指先で差すと行ってしまい
仕方がないので俺は足元を見た、するとどうだ、俺の靴底には新品のタイヤがついていた


おい、こりゃあどうしたことだ、俺はまだ明かりをつけていない街燈の首を掴んで揺さぶった(レトロな傘のついた黒いやつ)
「いてて」
とそいつは言う
「どうすればいいんだ?」
街燈は2、3度首をかしげ
「そりゃあ、中心部に行くしかないんじゃないの」
と、半分怒りながらそれでも教えてくれた
「あ、そう…」
街燈に礼を言う前に俺の足は走り出してしまう、実におかしな感触だ…
車輪の半分は俺のくるぶしの内部を確実に通過している!


速い!
速い!
しかも速い!

俺はうろたえ、何も考えることが出来なかった、ただひとつ―これは中心部へ向かって進んでいるのだなという認識を除いては


中心部はゴミ捨て場だった、あらゆる生活の詰まるところが収集されていた、ひとつの馬鹿でかい旧式の冷蔵庫がドアをばたんばたん言わせながら俺にアピールしていた(試合をしないときのストーン・コールドのようにさ)
ドアの音が気になったので俺は近寄り、たぶん閉まらないのだろうと思いながら力を込めてみた
意に反して、それはパタンと閉まり―ところがどこからともなくのファンファーレとともに暴発のように開いた


頭上に影を作るほどたくさんの蝙蝠が居なくなったあとに残ったのは
俺を3/1に縮めたかのような汚れた操り人形
動くように作られた口を骨のように鳴らしながら、そいつは、こう言ったのさ

「ようこそ!捨てられたピッツァ!」

俺はそいつを殴り飛ばした
瞬時に湧き上がったわけの分からない激しい憎しみだった




俺の首が




落ちた






浸透と官能という真実の概念の緩やかな交わり

2005-12-07 00:29:31 | 散文


君は長い長い弛緩のあと、おいそれとは手に入れられない感覚を用いて俺に謎かけをひとつした。俺はイエスともノーとも答えることが出来ずに愛想笑いを浮かべて窓際の鉢植えに気をやろうとしたが君はそれを許さずに俺の頭を観念的な万力で押さえつけ…「私が口にしていることをただの言葉だとは思わないで欲しい。」人ならざる何かに呪文を聞かせるようにゆっくりと、概念を噛み砕くように俺の目を覗き込んだんだ、俺はその間ずっと君の目の奥に転移した自分のある種の喪失を見つめていた、ああ、おぼろげには今までも感じていたが、俺は確かに君の中に自分がいつか失ったものを見つけようとしているのだ、君が俺の頭蓋骨を支える両手にさらに少し力を込めたときベッドのスプリングがわずかに空気を震わせて、多分君はそれすらも自分の言葉なのだと主張したがっていると俺は感じた 。けれどそんなものに返答出来る用意のあるやつなんて少なくともこの半径にはきっと存在しちゃ居ないよ、君が何を俺に伝えようとしているのか、俺はすでにきちんと感応だけはしているつもりだけど。本気の心情を投げかけようとするとき、言葉はきっと糞の役にも立ちはしない…俺たちは馬鹿でかい湖の浅瀬に身体を浮かばせて、泳いだつもりになっているのさ。君の景色を理解しよう、俺の出来る限りの脳髄の最適化を持って。俺は君の瞳の中で構成を変えてゆく自分のことを見つめる、それはある意味で君の何たるかを見つめることでもあるのだ。君の湖の浅瀬はずいぶんと大胆だ、リアス式の海岸のようにさまざまな形に侵食されていて、その形状の危うさが何故だか俺にはひどく心地がいい。君は何かを狩ろうとするみたいにギラギラとしている、情熱なんて詩に植えつけられっこない、君はいつかそう言っていたっけな…焼き付けている間にそれは色を変えてしまうって。だけどどうだい、俺はいくつかの情熱をきっと文脈の中に組み込んできたよ…君にそれを見抜くことが可能かどうかはまた別の話だけど。君の子宮はスナップショットのような一瞬しか認めることは出来ないんだな、そしてそれはきっと俺が認めるところの君の最大の美点でもあるんだよ、俺は観念を水晶体の中に組み込んでみる、そういうデフラグが瞬間的に、ずいぶん上手になった気がするんだ、君、君が俺の目を覗き込んでいるわけは、そこに君が転移していることを認めたいからなのか?あるいは君は、俺を侵略しようとしているのかもしれない、俺の湖の際も、君のような幾何学な形状に変化させようとしているのかもしれない、ああ、そいつはなんて素敵な話なんだ!まだほんの五分程度のようだが、そいつはすでに短針の活動の領域を超えていた、俺と君の領域、君と俺の湖の対岸。観念的な会話。それは直列する霊体のような感覚だ、俺と君とはある一定の不確かな法則の元に繋がれたエクトプラズムの対流の中に居る…ねえ、いつしか謎かけは優雅な旋律のような軟体に変化して俺たちの周辺をはぐれた旗のように漂う、それはイデオロギーも、モラルも、アジテーションも、なんにも含んではいないまっさらな記憶のような概念だ、俺はそういったものが語る無垢な感覚というものをこれといった理由もなく無条件に受け入れてしまう…真剣である君の強固なる魂はなんだか楽しそうだ、俺たちはすでに世界の外に居る、肉体は不自由な入れ物なんかじゃない、俺たちの意識をぎりぎりまで圧縮する自由度の高いフォルダなんだ。エクトプラズムが物質化するときに必要なものを知ってるかい。それは雲のようなものだ、湿度、そう、湿度だよベイビー、それが俺たちを形のないものに平然と変えてゆく、ゆっくりと立ち上る煙のような何か、今では俺たちはそのことを知っている、君の両手は痺れることはない、俺のまぶたが疲労することがないように。俺たちの寝室は聖域となる、キリストだってジダンダを踏むはずさ。人なんて言葉に何の意味もない。俺たちが生きていることに人なんて何の関わりも持たないのだから、俺の瞳と君の瞳の中で生まれる流動的で絶対的なパイプライン、それは天地の理さえ飲み込もうとするときがあるのだ。真実は官能だ、それは揺らぐことはない、珍妙な器の中で、俺たちはいつだってそのことを感じているじゃないか?神よ、俺たちは絶頂の元に生存しているのだ…戒律などがなんの役に立つだろう?それは犬につける首輪や口輪のようなものだ。あまがみの出来ないものたちがその地位に甘んじるのだ、俺たちは殺風景な寝室でそれを悟ることが出来る。コーラルを持つことなく我々はあなた方を信仰するのだ。俺の対流と君の対流が交わる、君、いつか俺たちは二人のいびつな中間色を手に入れるだろう、指先が脳に溶け込み、俺は、君の謎かけとやらに関心を示さなくなるだろう、それこそが君の望んでいる双方向の―双方向の、双方向の生存にきっとなりえるのだから。アラウンド、アンド、アラウンド。今夜二人で眠るときには、部屋中の電気系統を破壊してしまおう。そして、そんなもののことは忘れてしまうのだ。フィラメントなんてきっと互いの顔を眺める役には立ちはしないよ。