放菴日記抄(ブログ)

これまでの放菴特集・日記抄から「日記」を独立。
流動的な日常のあれこれを書き綴ります。

小三治師匠の「文七元結」3

2009年12月09日 12時16分46秒 | Weblog
お話再会ね。

 さて ―
 長兵衛が吉原の「佐野槌」の門をくぐると、あわててお店の人が追い出しにかかる。それもそのはず。バクチで身包み剥がされた長兵衛、このまんまじゃあ吉原へは行きにくい、そこで女房の一張羅をむりやり脱がせて着て、このまんまじゃ裾が長くて歩きにくいから尻っぱしょりして、頬っかむりしてのご来店。こんなのが首すぼめてぬっとお入ってきたのだからお店のほうでもびっくりするのも無理はない。

 「こんなところに入ってきちゃいけないよ!お行きよ!お行きったら!」
 「いえ・・・、あっしですよ。左官の長兵衛でございます。」
 「・・・! ま、まあ、親方ですかぁ。あたしゃナニが入ってきたのかとおもった。いやですよぉ、こんな格好で。ご趣向ですか。」
 
 コスプレと間違えられた長兵衛。とにかくお座敷へと通された。そこには佐野槌の女将さんとうつむきながら小さく縮こまっている娘のお久。
 長兵衛は無断で家を出た娘を睨みつけ、くどくどと小言を並べ立てる。
 しかし、それを制止して女将さんがお久の決意を語る。
 「親方、この子がねぇ、ここへ手をついて泣いて頼むんだよ。『親父がバクチののめりこんでしまい、仕事をしません。家は荒れて、借金だけが増えています。そのくせバクチに負けて帰ってきては、おっ母さんを殴るの蹴るの、やれ夫婦別れをするの所帯を仕舞うのと。私も黙って聞いているわけにはまいりません。私ももう17です。どうか、私のようなオカメでよければ幾らかで買ってくださいまし。そのお金を家にやって、どうか女将さん、親父に意見をしてくださいまし。借金を返して仕事に精を出しますように。夫婦仲良く暮らしますようにと。』・・・あたしぁ貰い泣きをしたよ。え?親方、なんだってこんな親孝行のいい娘を泣かすようなことをするんだい。なんとかお言いよ!」
 
 長兵衛はすべて見暴かれて、出入りの職人だろうが人様の親父だろうが面目もへったくれもあったもんじゃない。
 ただただ平伏し、身の上の不始末を詫びるばかり。
 「親方、いくらあったらいい? いくらあったらお前、借金を返して、『左官の長兵衛』に戻ってくれるんだい?」 って、いい女将さんだねぇ。
 女将さんは結局、五十両もの大金を長兵衛に貸し与え、来年の大晦日まで返済を待つという。そのあいだ、お久は預かり、「なに、この子に客を取らすようなマネはしないよ。ただ、女一通りの習い事はさせてあげる。」って、ホントいい女将さんだねぇ!
 ただし、来年の大晦日を一日だって過ぎたら、女将さんは鬼になるという。お久を店に出し、女郎にするという。締めるところはきちっと締めて、甘えっぱなしにさせない。これも人の上に立つの心得ですかねぇ。

 長兵衛は半泣きで女将さんに礼を言い、お久に「来年の大晦日なんていわねぇぞ。一日でも早くおめぇを迎えに来て、家に連れてけぇるからな!」と約束をして吉原を後にするのだった。   (つづく)
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