その日その時 写真で見る歳時記

気ままに写した写真に気ままな言葉たちの集まり

小さい「つ」は どうやって見つかったのか 3

2008年12月10日 | Weblog

 

昨日のコメントのお返事が遅れています

後ほど書きます・・すいません

 

 

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五十音村の住人たち

小さい「つ」は どうやって見つかったのか

その3

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村一番の長老の提案で 文字さんたちは休暇をとって

温泉に行くことになりました

「か」さんだけは「行こうか?行くまいか?」と

いつものように悩んでいます

「温泉に行って休んだら 人間はその日

話すことも書くこともできなくなるから

やはり休んではならないのではないか?

でも いつもいつもたいしたことを話してはいるわけでもないし

一日くらい話したり 書いたりできなくても変わりはないか・・・

まぁあいいや 行ってしまおうかな」

結局 みんなと一緒に温泉でのんびりすることになった

その日は文字さんたちが休暇をとったので

日本全国の本や雑誌や新聞 そのたありとあらゆる

印刷物は真白になってしまった 絵本の中の絵は

もちろん描かれていたけれど 文字は消えてしまっていた

もちろん人々は全く話せない 美術館の学芸員や

書くよりも考えている時間のほうが多い小説家など

話すことの少ない人にとっては普段どおりの一日だったが

それ以外は 話せないことで喜んだ人 困った人まちまちだった

喜んだのは まずデパートのエレベーターガール

いちいち階に止まるたびに 裏返った声で

案内しなくてもよくなったからね そして~

日本に住んでいる外国人 いつも早口で

日本語が理解できずに劣等感を感じていた彼らは

この日だけは堂々と英語を使い 意志が伝えられほっとした

それからもちろん 学校の子供たち

教室に座って何か学ぼうにも 先生は何も教えてくれない

これでは学校にいる必要もないと どの学校も

早々と学級閉鎖になってしまった

家にいても テレビゲームの文字も消えてしまっているから

物語が進んでいるのか「ゲームオーバー」なのかも分からない

いつもは家の中にいることが多い子供たちも

この日はサッカーをしたり 川で魚を釣ったり外で遊んだ

逆に困ったのは デパートや大型電気店の売り子さんたち

客に商品を売り込もうにも言葉が出てこない  それに

電車の駅員さんたちも大忙しだった まず

券売機の料金表には数字だけで駅名が書かれていない

いくらの切符を買っていいのかわからない乗客と話も出来ず

途方に暮れる始末 何とか電車に乗った人たちも

行き先は書いてなしアナウンスもないので

気づけばとんでもなく遠くまできていたりした

そして誰よりも一番困ったのは 政治家たち

話が出来なくなったら何もすることがないと

もう少しのところで国民にばれそうになってしまったからね

始めは この状況に怒ったいた政治かも

どうしようもないことが分かってひとりずつ黙って家に帰り

一日家族と一緒に過ごすことになった こうして

始めは音のない世界が不自然に感じられた人間たちも

しばらくすると それに慣れてきて

その静けさを楽しむようになった

つまらないテレビ番組を見るよりも

木々の合間をぬう風の音や 鳥の鳴き声を聞いて

人間たちもその日ゆっくり休むことになった

温泉を楽しんだ翌日 文字たちも全員そろい

もちろん小さい「つ」も一緒に仕事に出てきたから

その日から人間の会話も正常に戻った

以前と同じように言葉を使って話したり 冗談を言ったり

嘘をついたり お世辞を言ったり 手紙を書いたり

本を読んだり ニュースを聞いたり

文句を言ったり 教えたり 教わったり 要するに 

文字を使ってすることは全てが元通りになったのだ

そうそう 小さい「つ」はお父さんの大きい「つ」と

お父さんが大好きな「み」さんと

三人で仲良く暮らしましたとさ・・・

おしまい

・・・

三修社発行

「小さい つ が消えた日」

ステファノ・フォン・ロー著から抜粋

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長い文章を最後まで読んでいただきありがとうございました

この本はお近くの本屋さんで イラスト入りで発売されています

もう一度読み直したい方はぜひ買ってお読みください

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今日の写真

ライオンノミミ Leonotis leonurus シソ科 原産地 南アフリカ  

花冠がライオンの耳に似ているのでこの名前