その日その時 写真で見る歳時記

気ままに写した写真に気ままな言葉たちの集まり

小さい「つ」は どうやって見つかったのか

2008年12月08日 | Weblog

 

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五十音村の住人たち

小さい「つ」は どうやって見つかったのか

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小さい「つ」への伝言を人間を介して伝えることになったが

小さい「つ」に果たして伝わるかの心配の中

こういうときは 運を天に任せるしかない

運がいいことに この日 小さい「つ」は

ひとりで森の中をぶらぶらしていたわけでも

山登りをしていたわけでも 

深い海の中でお魚と遊んでいたわけででも 

また風船で空を飛んでいたわけでもなかった

では どこにいたかと言うと

小さい「つ」は東京見物をしていたのだ

五十音村を離れて一週間 大自然で遊びつかれた

小さい「つ」は人が恋しくなっていた そこで

東京タワー 明治神宮 てんぷら屋さん

渋谷 落語の寄席 焼肉屋さん そしてもちろん

とっても甘くておいしいと評判のアイスクリームやさんを

回る予定で 東京に向かっているところだったのである

歩きつかれた小さい「つ」は 新幹線で東京を目指した

大きな窓から ビルも田んぼもすごい勢いで流れてゆく

お腹がすくと小さい「つ」は 隣のおじさんが忘れていった

お弁当を食べた 遠くの景色を眺めていると

うとうと眠りについてしまった

東京駅に着いた小さな「つ」は

直ぐにどこか様子がおかしいと感じたんだ

なぜって、みんながみんな 同じことを話している

一度聞いたような内容が何度も何度も聞こえてくるんだ

床屋さんのおじさんも髪を切っている間

同じ伝言をお客さんに語って聞かせているし

秋葉原の電気店に並べられたテレビからも

同じ伝言が流れている 電車の駅に貼られている

ポスターにも同じ伝言が書かれている

途中で立ち寄ったケーキ屋さんにいたおばさんたちも

同じ伝言を話している それにどうやら

みんな自分に話しかけているような気がしてならない

さっきから「君は大切だ」だの

「早くみんなの元に戻れ」だのと

自分のことを言われている気がするのだ

最初は 途中で東京見物をやめたくはなくて

聞こえないふりをしていたけど 歌舞伎を見ていても

寄席に行っても同じ言葉が聞こえてくる

最後には もういいやになって

「もう バカじゃないからわかったよ 帰るよ」と

途中で東京見物をあきらめることにした そして

品川から午後早い時間の電車に乗って

五十音村へと向かったんだ

人間たちが寝静まったころ 文字さんたちは

いつもの場所に集まっていた

この日は これまでのように小さい「つ」を探して

日本中を歩き回るのではなく みんなで小さい「つ」の

帰りを待つことにしたのだ 日はとっぷりと暮れ

空には大きな月が掛かっていた

風には既に秋のけはいかし

コオロギが涼しげに鳴いていた

五十音村の外では 子供たちが見張りをして

小さい「つ」が戻ってきたら知らせる手はずになっていた

大人の文字さんたちは自分たちの伝言は

小さい「つ」に届いただろうか

言いすぎはなかっただろうかと

心配でじっとしていられなかった

集会場を行ったり来たりするものもいれば

話をしたり トランプをして気を紛らわすものもいた

大人たちの心配をよそに 子供たちは

縄跳びやベーゴマ かくれんぼなどして

思い思いに遊んでいた

真夜中を少し回ったころ もう今日は

小さい「つ」は戻ってこないだろうとあきらめて

いくつかの文字さんたちは寝床に向かおうとした

そのとき 子供たちが狂気の声を上げて

みんなのところへ駆け込んできたんだ

「小さい「つ」だ 小さい「つ」がかえてきあ!!

みんな 早く小さい「つ」を迎える準備をして!!!」

つづく

・・・

三修社発行

「小さい つ が消えた日」

ステファノ・フォン・ロー著から抜粋

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いよいよ 小さい「つ」が村に戻りました

さてさて・・続きはまた明日

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今日の写真は

いたるところでクリスマスツリーが

目に付き始めました

そのツリーの鐘を写してみましたが

そこに自分の姿が写っていた

でもきっと分からないからアップしました