その日その時 写真で見る歳時記

気ままに写した写真に気ままな言葉たちの集まり

ある夏の夜の物語 1

2008年12月02日 | Weblog

 

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五十音村の住人たち

ある夏の夜の物語

その1

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今日から始まる物語は

小さい「つ」が消えた謎を解明してゆきます

少し長いけど付き合ってね

では・・はじまりはじまり~~~

・・・

文字さんたちには、人間と同じように

性格もあれば、文化や習慣もあります

毎晩人間たちが寝付いたころに

みんな集まって宴会を開くんだ

いつ頃から始まった習慣かは誰も知らないが

かなり昔から続いているようだ

食べたり、飲んだりしながら

その日一日あったことを話して

わいわい騒ぐんだ

五十音村の全てが一箇所に

集まるのだから

いつも何か起きるんだ

ある夏の夜 いつものように

文字さんたちが集まって宴会を開いたときのことだ

困ったことに「あ」さんは

いつものお決まりの自慢話を始めたんだ

「俺は一番偉い なぜなら あいうえお順でも

アルファベット順でも 「あ」という音を

表す文字が一番初めに来るからだ」

それを聞いた「の」さんは

「あ」さんに いらだってこう言い返した

「「あ」さんは確かにあいうえお順では

一番初めに来るかもしれないが

使われる回数から言えば

私が一番なのよ それって

私が一番偉いってことにならないかしら」

そこに「を」さんが 「二人とも仲良くしようよ」と

喧嘩を止めに入ると こんどは「ぬ」さんが

「ちょっとまってよ」と前に出てきて

反論を始めた

「それだったら 私が一番じゃない?」

だって 私は一番使われる回数が少ないのよ」

珍しいものに高い価値がつくのは

世界共通じゃないかしら」

「いや・・・あの~~みんな仲良くしようよ・・」

「それだったら・・・」と今度は「ら」さんが

少しおどけて立ち上がった

「僕はどうかな 最近 若い人が使ってくれないからな

本当は見られる 食べられるなのに

ら抜き言葉で有名になってしまったよ」

「だからみんな仲良くしようよ・・」

残念なことに 

だれも「を」さんの言うことを聞いてくれない

「を」さんの横では 「か」さんが

「俺は一番偉いのかそれとも一番偉くないのか

どっちだろう」と悩み始めるし

「ん」さんは

「誰が一番かなんてくだらない

どうせ僕は一番最後だ」と

みんな呆れて見ている

それでも言い争いは続き

こんどは「い」さんが

それよりも年齢じゃないかしら?

若い人よりも経験があるしね

だてに年とっている訳ではないのよ それに 

私はお金も まっ 人並み以上に持っているしね」

と立ち上がった

すると 今度は「し」さんが

杖で地面を叩いていった

「いや お金だったら わしのほうが持ってるぞ

それだったら わしが一番だろう」

それを聞いた「は」さんは

「お金のない僕はどうなるんだ!」と

涙声で自分の不幸を嘆いた

もちろん他の文字さんたちも

それぞれ理由をつけて

自分が一番だと主張し始め

「を」さんの仲裁もむなしく

その場は大騒ぎになってしまった

いよいよこれ以上始末に終えなくなったとき

誰かが大きな声でこう叫んだ

「誰が一番偉いかはわからないけど

誰が一番偉くないかは知っているぞ

それは小さい「つ」さ

だって 彼は音を出さないからな

そんなの文字でもなんでもないさ」

辺りはしばらくの間 し~んとなった

そして突然みんな大きな声で笑い出し

「そうそう」と頷き合いながら

それっきりそことを忘れてしまった

その後も宴会は何事もなかったかのように進み

みんな楽しく食べたり飲んだりしたんだ

小さい「つ」はとっても悲しかった

みんなが食べたり飲んで楽しんでいる間も

笑われたことが頭から離れず

考えれば考えるほど

小さい「つ」はどんどん沈んでしまった

とうとういたたまれなくなった小さい「つ」は

お父さんの大きい「つ」に連れられて

その場をそっと離れた

小さい「つ」がいなくなったことに

その場の誰も気がつかなかった

 

つづく

 

・・・

三修社発行

「小さい つ が消えた日」

ステファノ・フォン・ロー著から抜粋

 

***

 

今日の写真は

植物園入り口の

花のプランター

ここの中にドラマがあります