その日その時 写真で見る歳時記

気ままに写した写真に気ままな言葉たちの集まり

ある夏の夜の物語 2

2008年12月03日 | Weblog

 

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五十音村の住人たち

ある夏の夜の物語

その2

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お父さんの大きい「つ」と

こっそり宴会場から抜け出して

家に着くと

お父さんの大きい「つ」は

小さい「つ」のために

ミルクを温めてくれた

風邪引いたり 元気が出ないときに

作ってくれる 蜂蜜入りの特別なやつだ

嫌なことを忘れようと

ふとんの隅っこに座って

小さい「つ」は

読みかけの絵本をでたらめに開いてみたり

壁にゴムまりを投げてみたり

天井の木目の数を数えてみたりしたけど

ちっとも気分は晴れない

お父さんがおやすみのキスをして

灯りを消してくれたけれど

その夜 小さい「つ」は

あまりに哀しくて眠ることが出来なかった

ふとんの中で横になっても

さっきのことで頭の中が一杯になって

なんどもなんども

みんなに笑われた場面を

思い出してしまうんだ

・・・文字としての資格がないなら

この世に僕のいる場所もないんじゃぁないのかなぁ?

・・・口がきけないなら

いつまでも立派な文字にはなれないんじゃぁないのかなぁ?

それならいっそ消えてしまいたい

小さい「つ」は

心の中で何度も何度も

答えの出ない問いを繰り返していた

そしてついに

思いつめた表情で布団から立ち上がった

・・・役立たずの僕が消えて

だれがさびしがる?そうだろう?

着替えをすませると

一通の置手紙を書いて

家を出てしまった

「僕はあまり大切ではないので

消えることにしました さようなら」

小さい「つ」は家を出ると

早くみんなのところから消えてしまおうと

必死に走った

小さくてもかけっこの得意だった

小さい「つ」は 

夜明け前の暗がりの中を

がむしゃらに走った

小さい「つ」のあまりの勢いに

田んぼのカエルは驚いて飛びのき

木陰で休んでいたカラスたちも

一斉にばたばたと飛び立った

やがて辺りが明るくなり

太陽が昇ると 小鳥たちが

「どけへゆくの?」と

たずねるようにさえずり始めた

いくつもの野山を越えるうち

日はすっかり高くなっていた

道すがら 野原に放たれた牛やヤギは

足元の草をおいしそうに食べていた

走りつかれた小さい「つ」は

動物たちに後姿を見送られながら

とぼとぼと歩き続けた

足が全く言うことをきかなくなって

もうこれ以上一歩も進めなくなるまで

小さい「つ」は歩くのをやめなかった

やがて辺りが暗くなると

大きな木によじ登って

太い枝の上で丸くなった

その日 涙で頬を濡らしながら

小さい「つ」は眠りに落ちた

そのとき小さい「つ」には

自分がいなくなったら

どんなことが起きるかなんて

全く想像することはできなかったんだ

 

つづく

・・・

三修社発行

「小さい つ が消えた日」

ステファノ・フォン・ロー著から抜粋

 

***

 

明日からは

小さい「つ」家出をする

さびしくて辛くて

でも勇気を持って一人旅

さてどんな冒険が待っているだろう

 

***

 

今日の写真は

 

森の散策路で出会った辛党の野良

見かけによらず人なれしていて

何か頂戴って擦り寄ってきた

甘いお菓子をやると

「わしぃ~い 甘党ちゃうんねん」

「菓子は女子供の食うもんやろっ!」って

言われてしまった(笑)

結局気に入ったものがなくて

また会おうって別れることに

その先で出会った白黒のぶち猫は

「わたしぃ~甘いの好きっ!」

ごろごろ言って食べた

ねこにも甘党辛党が共存してる