ボードレール『パリの憂鬱』より「剽軽者」小林稔訳
4 剽軽者(ひょうきんもの)
それは新年の偶発的な出来事だった。泥と雪がそこらじゅうにあふれる中、数多くの四輪馬車が走り抜け、玩具やボンボンが輝き、貪欲さと絶望がうごめいている大都会の、誰もが容認する錯乱ぶりは、頑是ない孤独者の脳髄をかき乱すほどであった。
この混乱と喧噪の真っ只中、一頭のロバが、鞭で武装した無作法者に攻め立てられ、勢いづいて走ってきた。
ロバが舗道の角を曲がろうとしたとき、手袋をはめ、テカテカにおしゃれして、ネクタイをきっちりと締め、真新しい衣服に身を封じ込めた立派な紳士が、このつつましい動物の前にもったいぶって身をかがめ、帽子を脱いでその獣に言うのだった。
「あなたに幸せな良いお年が訪れますように!」
それから、誰か知らぬ友達の方に己惚れた様子で振り向いた。それはまるで自分の満足に同意を付け加えてくれと懇願するように。
ロバはこのめかし込んだ剽軽者を見ようとせず、己の義務の導く方へ、夢中で走り続けるのであった。
私はと言えば、この見事な馬鹿者に突然、計り知れない憤怒にとらわれたが、この男こそフランスのエスプリの一切を、自身の身に集中させた者のように私には思われたのである。
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