ボードレール『悪の花』から「通りすがりの女へ」訳詩・小林稔
13 通りすがりの女へ A UNE PASSANTE
街路は私の周囲で耳を聾せんばかり吠えていた
背が高く、ほっそりとした、正装の喪服に厳かな苦悩を抱え、
ひとりの女が通りすぎた、右手を気高く持ち上げ
裾の花綱飾りと花柄をつまみ揺すりながら。
軽やかで気品ある、彫刻の脚をした彼女、
私は度を超した男のように、身を引きつらせ
彼女の眼のなかの、嵐の兆しである鉛色の空
私は飲んだ、幻惑する優しさと、命を奪い取る快楽を。
閃光・・・・・・そして夜! ――逃げ去る美、
彼女の眼差しで、私はとつぜん真実、われに目覚めた、
もう永遠のなかだけでしか、私はきみに逢えないのだろうか?
他の場所で、ここからずっと遠く! 遅すぎた! 絶対に、おそらく!
きみが逃れいくところを私は知らない、私が行くところをきみは知らない、
おお 私が愛したであろうきみ! おお そのことを知っていたきみよ!
copyright 2013 以心社
無断転載禁じます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます