ヒーメロス通信


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ボードレール『悪の花』から「敵」と「不運」の訳詩・小林稔

2013年03月17日 | ボードレール研究

ボードレール『悪の花』から「敵」と「不運」の訳詩・小林稔

 

3 敵 L´ENNEMI

 私の青春は暗黒の嵐であった

眩い陽射しはときに通り過ぎたが。

雷鳴と雨がひどい荒廃をもたらした後、

私の庭には、わずかな赤い果実が残るだけ。

 

私は思想の秋に触れた

今となってはシャベルと熊手を手に取って

水びたしの地を新しく開墾しなければならぬとは

雨水が墓のように深く大きな穴を抉ったところに。

 

誰が知ろう、私の夢想する新しい花々が

それらに力を与える神秘な糧を見つけ出せるかどうか

砂浜のように洗い出されたこの土壌のなかに。

 

――おお、苦痛よ! おお、苦痛よ!

「時」が命を喰らうのだ。見えない「敵」が心臓に齧りつき

われらから奪った血で身を肥やし、強靭になるのだ!

 

4 不運 LE GUIGNON

 こんなにも重い荷を持ち上げるために

シーシュフォスよ、並々ならぬ勇気がいるだろう!

仕事に打ち込む根気はあるとはいえ

「芸術」は長く「時」は短い。

 

名高い墓所から遠ざかり

人里離れた共同墓地へと

音のこもった太鼓のように、私の心臓は

葬送行進曲を打ち鳴らしながら進みゆく。

 

――あまたの宝石は埋もれて眠る

暗闇と忘却のなかで

鶴嘴と測鉛からずっとはなれて。

 

あまたの花は心ならずも滲み出す

秘密のようなその甘い香りを

かぎりなく深い孤独の内奥のなかで。

 

BAUDELAIRE [ les Fleurs du Ma ] Edition DE A.ADAMl

GARNIER FRERES 1961

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