ボードレール『悪の花』から「敵」と「不運」の訳詩・小林稔
3 敵 L´ENNEMI
私の青春は暗黒の嵐であった
眩い陽射しはときに通り過ぎたが。
雷鳴と雨がひどい荒廃をもたらした後、
私の庭には、わずかな赤い果実が残るだけ。
私は思想の秋に触れた
今となってはシャベルと熊手を手に取って
水びたしの地を新しく開墾しなければならぬとは
雨水が墓のように深く大きな穴を抉ったところに。
誰が知ろう、私の夢想する新しい花々が
それらに力を与える神秘な糧を見つけ出せるかどうか
砂浜のように洗い出されたこの土壌のなかに。
――おお、苦痛よ! おお、苦痛よ!
「時」が命を喰らうのだ。見えない「敵」が心臓に齧りつき
われらから奪った血で身を肥やし、強靭になるのだ!
4 不運 LE GUIGNON
こんなにも重い荷を持ち上げるために
シーシュフォスよ、並々ならぬ勇気がいるだろう!
仕事に打ち込む根気はあるとはいえ
「芸術」は長く「時」は短い。
名高い墓所から遠ざかり
人里離れた共同墓地へと
音のこもった太鼓のように、私の心臓は
葬送行進曲を打ち鳴らしながら進みゆく。
――あまたの宝石は埋もれて眠る
暗闇と忘却のなかで
鶴嘴と測鉛からずっとはなれて。
あまたの花は心ならずも滲み出す
秘密のようなその甘い香りを
かぎりなく深い孤独の内奥のなかで。
BAUDELAIRE [ les Fleurs du Ma ] Edition DE A.ADAMl
GARNIER FRERES 1961
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