あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

収穫は続く

2022-04-18 | 日記
農場でのメインの葡萄はシャルドネとピノである。
これが畑全体の8割ぐらいだろうか。
ワインとしてもこの二つが主軸なので、優先で収穫をする。
ピノの収穫が終わると、先が見えて肩の力が抜けるが収穫はまだ終わったわけではない。
残りの畑では、リーズリング、ピノ・グリ、ギベルツ、マスカットなどがある。
どれも白ワイン用の葡萄で、リーズリングでワインも作るが、ブレンドしてオマージュというワインも作る。
葡萄の収穫も大詰めに入っているのはどこの畑でも同じで、なかなか人が集まらない。
そしてせっかく来てくれた人が思うように働いてくれない時もある。
前回に書いたフィリピン人のオバチャン達は陽気に働きながら仕事が速く、みるみるうちに収穫コンテナが貯まっていく。
かと思えば、愛想ばかりよくて全然進まないグループもある。
人のやり繰りというのも農場経営には大切な仕事なんだなあ、と実感した。



思うように人が集まらなければ自分たちでやるしかない。
ハサミを片手にチョキチョキとブドウを収穫していく。
当然ながら味見をしながらだ。
農場の中でアルザスと呼ばれる一角には、色々な種類が数列づつ植わっていて、味の比較ができる。
食べて美味しいのはマスカット。これは食べるブドウでも出回っているので味は想像できるだろう。
ちなみに去年の冬に選定の仕事をした時、切り落としたマスカットの枝をいくつかもらってきた。
家に一本だけあるブドウの木に接ぎ木を試みたがうまくいかなかったが、地面に挿したものからは葉っぱが出て順調に育った。
あと何年かしたら我が家でもマスカットが採れるだろう。今から楽しみである。
もう一つ、ゲベルツという品種。これがなかなか美味い。
ドイツの品種でGewürztraminerという何回読んでも覚えられない名前だったが、さすがにブドウ農園で働いて名前を覚えた。
ちなみに正式にはゲヴュルツトラミネールと言うらしいが、面倒臭いからゲベルツと記す。
これは赤っぽいブドウで、赤っぽいブドウの味がする。こいつがなかなか美味い。
ゲベルツ単体のワインを飲んだことがないのか、それとも飲んだけど覚えてないのか。
いずれにせよ、あまり出回っていないし自分では進んで買わない。
僕の中ではそんな位置付けのワインなのだが、ブドウは美味かった。
ただ残念なことに鳥に食われて結構なダメージを受けていた。
鳥がブドウの果実をついばむと、そこから腐ってしまう。
腐ったブドウは臭くて食べれたものではないし、もちろんワインにもできない。
だからネットをかけるのだが、ネットには穴がいくつも開いていてそこから鳥が入ってしまう。
ネットをかけ終わった後、チマチマと穴を塞ぐ仕事をコテンラジオを聴きながらやったのだが、一人でやる作業はどうしても限りがある。
それも高級品種のピノからやってきたので、こちらには手が回らない。
鳥を見かけたら追い出す作業もしてたが、かなり食われてしまった。
食われて腐った場所をハサミで切り落としながら収穫をするので時間もかかる。
それでも何日間かかけてその一角の収穫を終えた。



残ったのは平地の一角にあるリーズリングだ。
ここのブドウが最後の収穫となった。
実は熟しきり中には干しブドウのようになってしまったものもある。
そして貴腐菌が繁殖してしまったものがかなりあった。
これは貴腐ワインを作るのに必要な菌だ。
ここで貴腐ワインとレイトハーベストワインは、どちらも甘いデザートワインのような存在だが、その違いを教えてもらった。
レイトハーベストとは収穫を遅らせ、ブドウの水分をわざと失わせ甘く熟させる。
当然ながら収穫してしぼってもジュースはそんなに多く出ないから、値段も高くなる。
貴腐ワインは似ているが、貴腐菌によりブドウの味が変わりそれを絞ってワインにする。
これが繁殖したブドウを味見したが、もともとのブドウの味とは全く違う味がしてこれはこれでなかなか美味い。
でもこれはリーズリングならOKだが、ピノに貴腐菌がついたものは使いものにならない。
レイトハーベストというワインは飲んだことはあるが、貴腐ワインは飲んだことがない。
ワイナリーでは貴腐ワインを作るかどうかまだ決まっていないが、これから話し合って決めるそうだ。
僕自身はこういう菌を利用して何か作るというものは大好きで、世の中は菌が動かしていると真剣に思っている、細菌至上主義である。
庭の堆肥も酒の発酵も納豆もパンもチーズもヨーグルトもザワークラウトも醤油もお酢も全て菌のおかげで、菌様様なのに人間は気づいていないどころか菌を一段低くもしくは汚いもののように扱う。
全くもってけしからん。
話が飛びに飛んだが、貴腐菌がついたリーズリングのブドウは美味かったということだ。
貴腐菌がついたリーズリングは木に残したまま、なんとか収穫が終わった。



収穫したブドウは全て重さを測るのだが、総量は50トン近くになった。
近年まれにみる豊作なんだそうで、素人の僕が見てもこれ以上収量が上がることはないだろうな。
その50トンものブドウを僕とボスの二人で回収した。
厳密に言えば僕がバイクを運転して、全てのブドウをボスが一人でトレイラーに積み込んだ。
すごい話である。自分がやったら腰を痛めてしまうだろう。
もちろんトレイラーに積み込む以前に、コンテナのブドウを均したり積み込みやすい位置に置くなどの仕事もある。
だけど肉体的に一番大変なのは積み込む作業だ。
それを黙々とやる姿は男惚れするし、そういうボスだからこっちも一生懸命やろうという気にもなる。
自分が楽してキツイ仕事を部下にやらせる上司、というのはたまにいるが働く人の気持ちを萎えさせる。
そして自らが頑張ってやろうと思い働いて、収穫が終わった後の達成感、満足感、やりとげた感はすさまじいものがあった。
その後の乾杯のビールが美味いこと、美味いこと。
去年の7月から始まり、剪定、芽吹き、蔓が伸びる様子、脇芽のめかき、果実の周りの葉っぱもぎ、下草狩り、余計な蔓の剪定、ネット掛け、鳥をネットから追い出す作業、そして収穫。
それぞれのシーンが走馬灯のように廻り、その間にも色々な人間ドラマもあった。
ブドウの育成を1年というサイクルで見たいと思っていたことが体験できたし、満足のいく結果も出た。
それを何年も何年もやっているプロの人から見れば、今年は良い出来だったね、の一言なのかもしれない。
だが何も知らない素人だからこそ見えるものも感じるものもある。
僕は自分のその気持ちを大切にしたい。
何歳になろうが新しい発見、体験、感動ができることは嬉しいことである。
ありがたやありがたや。


こうやって一箱づつトレーラーに積む。総量50トン。


ネットから出た所で一番上まで箱を積み上げる。


そして運ぶ。


ワイナリーに着いたらフォークリフトでパレットごと下ろし。


重さを測る。だいたい1パレットで4〜500キロぐらい。


重さを測ったらそのまま冷蔵庫で一晩冷却。ワイナリーチームがこの後ブドウを絞る。


美味しいワインができるかなぁ。
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