あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

庭には二羽ニワトリ

2010-06-13 | 
「にわにはにわにわとり」
深雪が壊れたレコードのように同じフレーズを繰り返す。
ボクが子供の頃には、これに「がいる」をくっつけて覚えたが、深雪はこのフレーズで覚えてしまった。
絵を描きながら、折り紙を折りながら、ボールで遊びながらバカの一つ覚えのように繰り返す。さすがに本を読んでいる時は言わない。
「うるさい、やめろ!」
と言うとやめる。しばし静かな時間。ふう。
だがボクの耳にはこのフレーズがこびりついてしまっている。
つい自分でも同じ調子で言ってしまう。
「庭には二羽ニワトリ」
それをきっかけに再び深雪が、壊れたレコードのごとくフレーズを繰り返す。
「にーわにーはにーわにーわとり」
心なしかパワーアップしてる気がする。
「あーあ、又始まっちゃった」
妻があきらめとともにつぶやく。



庭には二羽ニワトリがいる。
本当にいるのだ。
と言ってもボクの鶏ではないけど。
前回の日記に出たユミさん(Yさん)がワナカに何日間か行くというので、彼女のニワトリを家で預かった。
今年の目標は『産みたてホヤホヤの卵と炊きたてご飯で卵かけご飯大作戦』である。
クライストチャーチへ戻ってきてから、今年の課題はなにかな~と考えていた。
去年はEMと味噌作り。
一昨年は家庭菜園、石けん、納豆。
年ごとに神様が降りてきて、「今年はこれじゃ」と啓示をくれる。
ボクはこの時期にワクワクしながら、さあ今年はどんな新しい事が始まるのかな、と思う。
そして今年の神様はボクに言った。
「聖よ、ニワトリじゃ。ニワトリを飼うのじゃぞ」



友達のサダオが家に居候していたのは5月頭のことだ。
サダオは夏はルートバーンでトレッキングガイド。冬はワナカで医療通訳。夏と冬の間にスイスでトレッキングガイドをする。
この時期、ヤツはボクの家に転がり込み、スイスへ行っている間、我が家に車を置き去りにする。
ヤツのこともネタになるが、今はまだ出し惜しみをする。ネタは小出しにね。
サダオはユミさんの会社で冬働く。何かの用事でユミさんの家に行ったときに産みたて卵をもらってきた。
これを卵かけご飯にしたら・・・とんでもなくウマかった。なんまらウマイ、でらウミャー、バカウマなのである。
こんなのが家で取れたらいいなあ、と思った。
ユミさんは何年も前から知ってはいたが、彼女がニワトリを飼っているのは知らなかった。
彼女の家に行き、どのように飼っているか見せてもらい、これなら自分でも飼えるかもしれないな、ボクの心はニワトリに傾いていった。
さらに彼女がボクの庭を見て言った。
「聖さん、これなら何匹でも飼えますよ。こんな空いてる土地があったら彼らは喜んで土をほじくり返しますから」
さらにサダオが追い打ちをかけた。
「これだけ野菜が採れたらニワトリの餌にも困らないでしょう」
確かに去年はレタスが食べきれないぐらいに出来た。
大根は根っこが小さかったが葉っぱは生い茂り、これまた食べきれなかった。
それらを放っておいたら多量の種が採れた。ばらまいておけばまた雑草状態で育つだろう。
庭で育つ物のエネルギーを廻すのは悪いアイデアではない。
クライストチャーチへ帰ってきて、庭の雑草を取ったら畳20畳ぐらいのスペースができていた。
よしここでニワトリを飼おう。どうせ放っておけば雑草で覆われてしまう場所だ。
本当は庭全部を使って放し飼いにしたいのだけど、家庭菜園が台無しになってしまう。
囲いを作ってニワトリのエリアを区切る所からボクの計画は始まった。



先ずホームセンターでプラスチックのネットを買ってきた。
次はそのネットを立てる、なにか杭のようなものを調達しよう。
と思ったら、雑草で覆われていた場所に鉄筋の棒が転がっていた。
多少曲がっているが実用に問題なし。
神様の啓示に従うと、とんとん拍子に事は進む。
さらに大工の友達が家を解体したというので廃材を貰ってきた。
柱になるような木、壁用に厚手のベニヤ板、屋根を葺いていたトタン。
とんとん拍子に事は進む。

家の近所にはリサイクルの建築資材の店がある。今まで気にはなっていたが訪ねたことはなかった。今がそのタイミングなのだろう。
行ってみると、あるわあるわ、ドア、窓、収納ケースといった大きな物から、流しのシンク、バスタブ、トイレの便器、水道用のパイプ、といった水回り品。さらにドアノブ、ちょうつがい、鍵穴、電気のスイッチ、カーテンレールといった細々したものまで。
ここへ来ればなんでも揃う。見た目を気にしなければ自分でもここにあるもので家一軒ぐらい建てられそうだ。本人がやる気になればなんでもできる。
ボクが行った時も老夫婦がドアノブを探しに来ていて、じっくり時間をかけながら山になったドアノブのコーナーから気に入った物を二人で選んでいた。
こういう場所が身近にあり、業者だけでなく一般の人にも敷居が低い。この国の良いところだ。
鶏小屋用に明かり取りの窓を探し出す。ちょうど良いサイズの窓が$17であった。
毎度あり~、チーン。



キャベッジツリーの裏側、雑草が生い茂っていた所をきれいにしたら畳一畳ぐらいのスペースができた。
ちょうどシェルターになる場所でここに小屋を建てることにした。
もらってきた木材を柱にして、何年もほったらかしになって、朽ちかけている木のフェンスを立て、厚手のベニヤ板を外側に張り付ける。
屋根にトタンを張り、買ってきたガラス窓をちょうつがいでつけて小さなドアにした。
庭の片隅に放置してあったフェンスをきれいにして、その上にベニヤ板を貼り付けて大きなドアにした。
きれいに色を塗って深雪に絵でも描いてもらおう。
こんな感じでほとんど金をかけないで鶏小屋ができた。
さあ、あとはニワトリが来るのを待つだけだ。
もうすでに若いニワトリを頼んである。
家に来るのは2週間後だ。

そして鶏小屋完成記念にユミさんの鶏を預かることになった。
彼女の鶏は2羽。名前はチョックとポー。
来たばかりの時はオドオドしていたが、すぐに慣れてその辺の土をつつき始めた。
長いことほったらかしにしてあった場所だ。土の中には虫がワンサといる。
ヤツらは一心不乱に土をほじくり返す。
「おお、お前達、好きなだけ食え。どんどん掘れ。そんで元気な卵を産んでくれ。頼むぜベイベー」
男の人の側には寄ってこないはずのチョックとポーだが、ボクは別格らしい。
ボクが小屋の仕上げをトンテンカンテンやっているすぐ横で嬉しそうに虫をついばむ。
畑の野菜をつまんで差し出すと喜んでつっつく。可愛いものだ。
学校から深雪が帰ってくると、大喜びでニワトリの絵を描いた。ボクはその絵を鶏小屋の壁に貼った。
次の日、妻が巣箱の中で転がっていた卵を発見した。
大地からの恵みとして、ありがたく頂戴する。



ニワトリは卵製造マシーンではない。
健全な食べ物を食べ、愛に恵まれた良い環境で育つ生き物が、卵という形で人間に与えてくれる、母なる大地のエネルギーだ。
そんな卵がマズイわけがない。
卵かけご飯はねっとりと炊きたてご飯にからみ、醤油の塩味と卵の甘さのハーモニーである。自家製納豆と混ぜるのも良し。
目玉焼きはポックリと黄身がふくらみ、白身も厚いままあまり広がらずに黄身を囲む。塩をパラリ、コショウをパラリ、醤油を2.3滴垂らす。火の通し加減は好みで。
ゆで卵は半熟が好みだ。白身の外側は固形化してるが、内側はトロリ。熱を加えた黄身の美味さが引き立つ。
カルボナーラは近所の肉屋の自家製ベーコン、パスタはイタリア産バリラ、当然ながら茹で加減はアルデンテ、ニュージーランド産のこってりした生クリーム、そして卵はぜいたくに卵黄だけを使う。もちろん白身は取っておいて別の物に使う。ムダにはしない。味付けは塩とコショウのみ。どのレストランよりもうちのカルボナーラはウマイ。
牛乳と混ぜてフレンチトースト。具を入れてオムレツ。スープの中に細く垂らしたかき玉スープ。たくさん卵があったらカスタードプリンでも作ろうか。
卵料理のバリエーションは幅広い。
今日の晩飯は朝採った卵でカルボナーラだ。深雪がガツガツと食う。ボクもガツガツ食う。
皿にソースが残ったので、下品に指できれいに拭いてなめた。



『こうなればいいなあ』と思った事が次から次へ実現する。
気をつけなけなければならないことは、調子に乗りすぎることだな。
しっかりとサダオに釘を刺された。
「聖さん、2羽ぐらい飼ってうまくいったからって、調子に乗って10羽とか飼わないでくださいよ」
ハイ、気をつけます。


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6 コメント

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ニャアニャア (山小屋)
2010-06-14 10:01:37
確か不法侵入ネコがいただろう?隣のネコだったかな。ネコに気をつけろ。うちのお隣はニワトリを10羽飼っていたが全部キツネにやられた。それからヘンな草を食わせるんじゃないぞ。
Unknown (ナオち)
2010-06-14 14:16:41
この前は卵ありがとう!!オムレツにして娘達と3人で分け合いました。やっぱり、むっちゃ美味しかった~!リアは『鶏飼いたい』って言ってたよ。そして、『みーちゃん家に行きたい!』って。この前ナミだけ連れて行ったからね。また遊びに行くね~♪
子供の笑顔 (ひっぢ)
2010-06-15 02:27:42
この世の中で子供の笑顔にまさる物はないと思う。健全で美味しい物を食べれば自然に笑顔になるね。今度は是非、リアも一緒に来て下さい。

隣のクソ猫は相変わらず、畑でクソをしている。だけどニワトリを襲うようなことはなさそうだ。
ヘンな草は、その辺の雑草を好きなようにつついているから、どれがヘンでどれがマトモか分からない。まあ自己責任で食って貰いましょう。
うわぁおっ! (さだ)
2010-06-15 18:19:24
ひじりさん、びっくりです。まさか、本当に飼うことになってるとは思わなかった。何事も調子に乗れば、上手くいくなぁ。1ヶ月半後にどうなっているのか、楽しみ。
ご無沙汰しております♪ (NewZ NewZ)
2010-06-16 06:20:36
ご無沙汰しております。無事にあのあと引っ越しも終わり、すでに数年も住んでいたかのように、今の家に馴染んでいます(笑)どうぞ、奥様とみーちゃんに宜しくお伝えください。

カルボナーラ・・・美味しそう♪♪
Unknown (ひっぢ)
2010-06-17 03:28:11
NewZ NewZさん
お久しぶりです。石けんも又作りましたから、なくなったらいつでも取りに来てください。カルボナーラを食べに来ますか?

さだ
為せば成る。成らぬは人の心より。

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