山の頂から

やさしい風

納棺師

2008-09-19 22:31:43 | Weblog
 
 映画「おくりびと」が話題となっている。

 父の葬儀で初めて納棺師なる職業を知った。
身内一同を前にして、その控室で納棺の儀式は行われた。

 二晩を家で過ごした父の亡骸は、
思いがけない多くの方の門送りを受け家を後にした。
昔は家で死出の旅路を整え、棺に納められて家を出たものだ。
しかし、現代は斎場でその儀を行うと説明を受けた。
一体何をどう行うのか想像もつかないでいた。

 納棺師であると挨拶を受けたのは三十代後半の女性であった。
穏やかな微笑みを浮かべ厳かに粛々と儀は始まった。
弟が泣きながらアイロンを当てたスーツ。
既に真新しい下着をつけた父の亡骸に、先ずはワイシャツが着せられた。
一同が固唾をのむ中、ズボン、スーツと少しの滞りもない。
ネクタイそして胸にチーフを収めた時は、思わず感嘆のため息が出た。

 ドライシャンプーを施し髪は整えられた。
母は愛おしそうに父愛用のクシで撫で付ける。
そして各人が小さな湿ったコットンを受取り、
亡骸の顔や手足を拭く。何度も声をかけながら顔を拭いた。

 そうして納棺師の女性はおもむろに化粧箱を取り出し、
顔をローションで拭き、乳液をつけクリームが塗られた。
ファンデーションをつけ、粉をはたく。
薄らと頬紅を指し、唇には艶の出るリップを。

 まるで眠っているかのような父の顔。
生前の父なら「何をするんだ!バッカモノ~」と言ったに違いない。
何も言わず、なされるがままの父に涙が溢れた。

 本当に凄い技術である。 しかし、私にはとても出来そうにないと思った。
誇りと亡骸に対する崇高な心構えがなければ務まらないと思う。
旅立つ父は、チョッピリはにかみながら鏡を覗き、
「俺も満更ではないなぁ」なんて言ったかも・・・

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