20代の頃、或る喫茶店に足繁く通った。
評判のホットサンドとコーヒーで2時間も粘り、
マスター自慢の大アンプから流れるジャズに聴き惚れた。
10人も入ると満席になる小さな店。
今思えば若さとは残酷なものだ。
小柄で華奢なママがイラつくのも気付かずにいたのだから。
回転しなければ儲けの出ない商売。
ママは暢気なマスターに相当苦しんだに違いない。
二人の間に子はなかった。
私自身の状況の変化でパッタリと店に通うこともなくなって、
数年が過ぎた頃、二人は離婚し、ママはこの街を離れ、
マスターは再婚し新しい家族に恵まれたと風の便りに聞いた。
完全に記憶から消えて数十年が経った。
昨夕、千葉県から≪蔵の街≫を自由散策するいうツアーが立ち寄った。
客でごった返す中、小柄な老女が話しかけてきた。
「確かこの山内の茶店の女将で・・・」 聞けば私に該当する話の内容だ。
それは自分であると答えると相手は非常に驚き、
私の顔をマジマジと見つめた。そして私も・・・
余りに年老いて直ぐには合点がいかなかったが確かに、あのママである。
忙しい最中に申し訳ないと詫びながら、
懐かしさを滲ませつつ口早にツアーに参加したことなどを告げた。
夕暮れの街中を散策して帰るという彼女を乗せたバスを見送りながら、
今はもうない、あの喫茶店のドアを押して入る若かりし頃の自分の姿が甦った。
コーヒーの香りとレコード盤のジャズのリズム・・・
かつて暮した路地の道を辿るママの小さな姿。
苦い珈琲を飲みたくなった夜だった。
評判のホットサンドとコーヒーで2時間も粘り、
マスター自慢の大アンプから流れるジャズに聴き惚れた。
10人も入ると満席になる小さな店。
今思えば若さとは残酷なものだ。
小柄で華奢なママがイラつくのも気付かずにいたのだから。
回転しなければ儲けの出ない商売。
ママは暢気なマスターに相当苦しんだに違いない。
二人の間に子はなかった。
私自身の状況の変化でパッタリと店に通うこともなくなって、
数年が過ぎた頃、二人は離婚し、ママはこの街を離れ、
マスターは再婚し新しい家族に恵まれたと風の便りに聞いた。
完全に記憶から消えて数十年が経った。
昨夕、千葉県から≪蔵の街≫を自由散策するいうツアーが立ち寄った。
客でごった返す中、小柄な老女が話しかけてきた。
「確かこの山内の茶店の女将で・・・」 聞けば私に該当する話の内容だ。
それは自分であると答えると相手は非常に驚き、
私の顔をマジマジと見つめた。そして私も・・・
余りに年老いて直ぐには合点がいかなかったが確かに、あのママである。
忙しい最中に申し訳ないと詫びながら、
懐かしさを滲ませつつ口早にツアーに参加したことなどを告げた。
夕暮れの街中を散策して帰るという彼女を乗せたバスを見送りながら、
今はもうない、あの喫茶店のドアを押して入る若かりし頃の自分の姿が甦った。
コーヒーの香りとレコード盤のジャズのリズム・・・
かつて暮した路地の道を辿るママの小さな姿。
苦い珈琲を飲みたくなった夜だった。